2 / 20
長男編
「たわわ」だわ
しおりを挟む
伯爵令嬢フィオナ・キャンベルは現在、快晴の空の下、青い海と白い砂浜で囲まれたキャンベル伯爵家の専用海岸に立っていた。
「フィーお義姉さまー 早くおいでよー」
水着姿になり、ボールを持って砂浜に立つ美少女然としたブラッドレイ家の六男シオンが、手を振りながら楽しそうな笑顔でフィオナに呼びかけてくる。
「う、うん……」
連れ立って海辺に来る前に、一緒に遊ぼうとシオンと約束していたはずのフィオナだったが、少々硬い笑顔と共に歯切れの悪い返事を返した。
「私たち先に遊んでるねー!」
男であるが女児用の水着を着ているシオンはそう言って、隣にいた三歳上の美少年兄カインの腕を取って広い場所へと移動し、キャッキャウフフと砂浜でボール遊びを始めた。
フィオナは海ですぐ遊べるようにと、半袖シャツとスカートの下に水着を――それもこの日のために張り切って用意した可愛いビキニを――着ていたが、意気揚々と服を脱ぐ前にハタリと手を止め、それ以上手を動かすことができなくなっていた。
ちらちらと、遠慮がちに見てしまうフィオナの視線の先では、フィオナの婚約者ジュリアスの二番目の弟であるノエルが、婚約者になったばかりの有名モデル、アテナと共に海に入る準備をしていたが――――
(「たわわ」だわ…… うらやましいくらいの……)
自分と同じ様に水着を下に着ていたアテナが服を脱ぐと、美しく理想的な大きさの女性の象徴が、バーン、と効果音が付きそうな勢いで現れた。
金髪碧眼の美女アテナは水着写真集まで出していて、それが大評判になるくらいなので、スタイルは抜群だった。アテナの方が一つ年上とはいえ、自分とアテナの胸の状態は、月とスッポンもいい所だ。
(無理…… 脱げない…………)
貴族令嬢ではあるものの、訳あって常日頃から鍛えているフィオナの腹筋は、バキバキに六つに割れている。
ささやかすぎる胸とも相まって、とてもじゃないが水着姿など披露できるわけもなかった。
フィオナには届かなかったが、ギルバートが手紙で懸念したように、彼女が水着姿で少年たちを悩殺するなんて、到底起こりそうもない。
(せめてワンピースタイプにしておけばよかった……)
なぜビキニを選んだのか、浮かれすぎていた準備中の自分に間違いだと伝えたい。
「フィー、どうした?」
横から婚約者の玉のような涼やかな声が響いてきて、沈んだ気持ちが本日の太陽の位置くらいまでには舞い上がり、清涼な空気感と幸福感で心が満たされたフィオナは、笑顔で自分の婚約者ジュリアスを振り返った。
ジュリアスの輝く白金髪は絵画では絶対に再現できない色合いと滑らかさを誇り、至高の宝石のような碧眼はこの海よりも空よりも青く澄み渡っていて、彼に見つめられるとそれだけで全身から波打つような大いなる力の源が沸き起こってくる気がする。
ジュリアスの顔の造形は天空の美神がこの世に降り給うたかの如く、輝くような最高級のご尊顔をしている。
ジュリアスは「美しい」という形容詞を何度も重ねてようやく彼の持つ圧倒的な美貌の足元に及ぶだろうか、という程の美しさと、魔性のような色気まで兼ね備えている。
そんな完璧美青年こそが、フィオナの恋人で婚約者で仕事上の相棒でもある、ブラッドレイ家の長男ジュリアスだ。
ジュリアスに声をかけられただけで、フィオナはニコニコと上機嫌になった。
仕事中はあまりデレデレしていると差し障りがあるので顔を引き締めているが、今は休暇中であり、専用海岸には、婚姻前とはいえもはや家族同然のブラッドレイ家の関係者しかいない。いつものように自分自身を押し殺さなくてもよい。
「ううん、何でもない」
しかし水着姿だけは曝け出せないと思ったフィオナは、スカートは脱いだが上のシャツはそのまま残して、身体のコンプレックスを見せないようにした。
「遊んでくるね!」
とフィオナはジュリアスに声をかけると、元気に走り出してシオンたちの元へと向かった。
「…………」
ジュリアスは無言でフィオナを見送り、何かを考えるように美しい指を顎に添えた後、自身も水着姿になるべく服に手をかけた。
「フィーお義姉さまー 早くおいでよー」
水着姿になり、ボールを持って砂浜に立つ美少女然としたブラッドレイ家の六男シオンが、手を振りながら楽しそうな笑顔でフィオナに呼びかけてくる。
「う、うん……」
連れ立って海辺に来る前に、一緒に遊ぼうとシオンと約束していたはずのフィオナだったが、少々硬い笑顔と共に歯切れの悪い返事を返した。
「私たち先に遊んでるねー!」
男であるが女児用の水着を着ているシオンはそう言って、隣にいた三歳上の美少年兄カインの腕を取って広い場所へと移動し、キャッキャウフフと砂浜でボール遊びを始めた。
フィオナは海ですぐ遊べるようにと、半袖シャツとスカートの下に水着を――それもこの日のために張り切って用意した可愛いビキニを――着ていたが、意気揚々と服を脱ぐ前にハタリと手を止め、それ以上手を動かすことができなくなっていた。
ちらちらと、遠慮がちに見てしまうフィオナの視線の先では、フィオナの婚約者ジュリアスの二番目の弟であるノエルが、婚約者になったばかりの有名モデル、アテナと共に海に入る準備をしていたが――――
(「たわわ」だわ…… うらやましいくらいの……)
自分と同じ様に水着を下に着ていたアテナが服を脱ぐと、美しく理想的な大きさの女性の象徴が、バーン、と効果音が付きそうな勢いで現れた。
金髪碧眼の美女アテナは水着写真集まで出していて、それが大評判になるくらいなので、スタイルは抜群だった。アテナの方が一つ年上とはいえ、自分とアテナの胸の状態は、月とスッポンもいい所だ。
(無理…… 脱げない…………)
貴族令嬢ではあるものの、訳あって常日頃から鍛えているフィオナの腹筋は、バキバキに六つに割れている。
ささやかすぎる胸とも相まって、とてもじゃないが水着姿など披露できるわけもなかった。
フィオナには届かなかったが、ギルバートが手紙で懸念したように、彼女が水着姿で少年たちを悩殺するなんて、到底起こりそうもない。
(せめてワンピースタイプにしておけばよかった……)
なぜビキニを選んだのか、浮かれすぎていた準備中の自分に間違いだと伝えたい。
「フィー、どうした?」
横から婚約者の玉のような涼やかな声が響いてきて、沈んだ気持ちが本日の太陽の位置くらいまでには舞い上がり、清涼な空気感と幸福感で心が満たされたフィオナは、笑顔で自分の婚約者ジュリアスを振り返った。
ジュリアスの輝く白金髪は絵画では絶対に再現できない色合いと滑らかさを誇り、至高の宝石のような碧眼はこの海よりも空よりも青く澄み渡っていて、彼に見つめられるとそれだけで全身から波打つような大いなる力の源が沸き起こってくる気がする。
ジュリアスの顔の造形は天空の美神がこの世に降り給うたかの如く、輝くような最高級のご尊顔をしている。
ジュリアスは「美しい」という形容詞を何度も重ねてようやく彼の持つ圧倒的な美貌の足元に及ぶだろうか、という程の美しさと、魔性のような色気まで兼ね備えている。
そんな完璧美青年こそが、フィオナの恋人で婚約者で仕事上の相棒でもある、ブラッドレイ家の長男ジュリアスだ。
ジュリアスに声をかけられただけで、フィオナはニコニコと上機嫌になった。
仕事中はあまりデレデレしていると差し障りがあるので顔を引き締めているが、今は休暇中であり、専用海岸には、婚姻前とはいえもはや家族同然のブラッドレイ家の関係者しかいない。いつものように自分自身を押し殺さなくてもよい。
「ううん、何でもない」
しかし水着姿だけは曝け出せないと思ったフィオナは、スカートは脱いだが上のシャツはそのまま残して、身体のコンプレックスを見せないようにした。
「遊んでくるね!」
とフィオナはジュリアスに声をかけると、元気に走り出してシオンたちの元へと向かった。
「…………」
ジュリアスは無言でフィオナを見送り、何かを考えるように美しい指を顎に添えた後、自身も水着姿になるべく服に手をかけた。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。


【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる