29 / 29
愛しき夫
幼馴染(番外編)
しおりを挟む「それで、お兄様は見事、馬に蹴られたのね」
「そうだ。君の兄君は見事な当て馬役を果たしたんだ」
グレイは晴れ晴れとした顔で、カーティスの部屋のソファへどっかりと腰かけた。一国の王子に対してそれは大層不遜な態度であったけれど、今は周囲の目もない。ディアナとグレイが幼馴染であるのならば、必然的にディアナの兄であるカーティスもグレイの幼馴染ということなる。
彼らは容貌も美しく、勉学、武芸、芸術、様々な分野に秀でており、常に互いが互いを意識しながら育って来た。2人はいわば好敵手とも言え、互いに遠慮を知らない間柄なのである。
「別に、まだ負けたとは限らない」
「うわあ、お兄様ったら本当に諦めが悪いわね」
「ふん、ただの負け惜しみだ」
と、グレイは鼻を鳴らしたが、やはり内心気が気ではない。シエラは身分によって人間を定めるような愚かな人間ではない。が、愛する人に横恋慕する人間がいると思うと束縛の意識が強くなり、嫌われてしまう可能性がないわけではないので、結果グレイはどうしても不安になってしまうのだ。
「けど意外ね。お兄様はすぐにばれてしまうような嘘は吐かないと思っていたのだけど。一体どうしたっていうのよ」
「……彼女がああいった場に1人で出てくるのは珍しい。きっとグレイと何かあったのだと思ってな。生涯に一度きりの機会かもしれないと思ったら……口走っていた」
切なげに瞳を細めるカーティスに、ディアナは憐れみの表情を浮かべる。
「可哀相な、お兄様」
「おい、可哀相なのはこいつの嘘に振り回された私とシエラじゃないか。特にシエラはお前の嘘で深く傷ついていたんだぞ」
「あら、でもあなたが普段の行いからシエラさんの信頼を勝ち得ていたらそんなにグラグラすることもなかったのではないの?」
図星を突かれて、グレイは「う」と呻き、何も反論できない。確かに、グレイがシエラを試すような真似をしなければ……シエラがあんなに苦しむことはなかったはずだ。ここはただ反省すべきところだ。とグレイは反省の態度を示す。
「あの人を幸せに出来ないなら、掻っ攫うぞ」
「シエラは私といることが何よりの幸せだと言っている。お前に掻っ攫われたらシエラは不幸になってしまうじゃないか。そんなことは絶対にさせない」
2人の間に火花が散る。それを見てディアナは大きく溜息を吐いた。
「シエラさんは、お兄様に簡単に攫われるような人じゃないわよ。グレイも、シエラさんの言葉に甘えすぎると、お兄様以外の人に横取りされちゃうかもしれないわよ」
その言葉にグレイは顔を青ざめさせ、カーティスはむっつりと口を噤む。
「あなた達に並ぶ貴公子は確かに今はいないけど、胡坐をかいているとその内本当に大切なものを失うわよっていいたいの。今回のグレイがいい例よね」
ディアナに達観した態度でそう言われ、2人はますます身を縮こませ、その日一日はディアナから説教を受け続けることになるのであった。
112
お気に入りに追加
435
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
彼女があなたを思い出したから
MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。
フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。
無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。
エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。
※設定はゆるいです。
※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ]
※胸糞展開有ります。
ご注意下さい。
※ 作者の想像上のお話となります。
その手は離したはずだったのに
MOMO-tank
恋愛
4歳年上の婚約者が幼馴染を好きなのは知っていた。
だから、きっとこの婚約はいつか解消される。そう思っていた。
なのに、そんな日は訪れることなく、私ミラ・スタンリーは学園卒業後にマーク・エヴァンス公爵令息と結婚した。
結婚後は旦那様に優しく大切にされ、子宝にも恵まれた。
いつしか愛されていると勘違いしていた私は、ある日、残酷な現実を突きつけられる。
※ヒロインが不憫、不遇の状態が続きます。
※ざまぁはありません。
※作者の想像上のお話となります。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
愛しのあなたにさよならを
MOMO-tank
恋愛
憧れに留めておくべき人だった。
でも、愛してしまった。
結婚3年、理由あって夫であるローガンと別々に出席した夜会で彼と今話題の美しい舞台女優の逢瀬を目撃してしまう。二人の会話と熱い口づけを見て、私の中で何かがガタガタと崩れ落ちるのを感じた。
私達には、まだ子どもはいない。
私は、彼から離れる決意を固める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる