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愛しき夫

幼馴染(番外編)

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「それで、お兄様は見事、馬に蹴られたのね」
「そうだ。君の兄君は見事な当て馬役を果たしたんだ」

グレイは晴れ晴れとした顔で、カーティスの部屋のソファへどっかりと腰かけた。一国の王子に対してそれは大層不遜な態度であったけれど、今は周囲の目もない。ディアナとグレイが幼馴染であるのならば、必然的にディアナの兄であるカーティスもグレイの幼馴染ということなる。

彼らは容貌も美しく、勉学、武芸、芸術、様々な分野に秀でており、常に互いが互いを意識しながら育って来た。2人はいわば好敵手とも言え、互いに遠慮を知らない間柄なのである。


「別に、まだ負けたとは限らない」
「うわあ、お兄様ったら本当に諦めが悪いわね」
「ふん、ただの負け惜しみだ」

と、グレイは鼻を鳴らしたが、やはり内心気が気ではない。シエラは身分によって人間を定めるような愚かな人間ではない。が、愛する人に横恋慕する人間がいると思うと束縛の意識が強くなり、嫌われてしまう可能性がないわけではないので、結果グレイはどうしても不安になってしまうのだ。

「けど意外ね。お兄様はすぐにばれてしまうような嘘は吐かないと思っていたのだけど。一体どうしたっていうのよ」
「……彼女がああいった場に1人で出てくるのは珍しい。きっとグレイと何かあったのだと思ってな。生涯に一度きりの機会かもしれないと思ったら……口走っていた」

切なげに瞳を細めるカーティスに、ディアナは憐れみの表情を浮かべる。

「可哀相な、お兄様」
「おい、可哀相なのはこいつの嘘に振り回された私とシエラじゃないか。特にシエラはお前の嘘で深く傷ついていたんだぞ」
「あら、でもあなたが普段の行いからシエラさんの信頼を勝ち得ていたらそんなにグラグラすることもなかったのではないの?」

図星を突かれて、グレイは「う」と呻き、何も反論できない。確かに、グレイがシエラを試すような真似をしなければ……シエラがあんなに苦しむことはなかったはずだ。ここはただ反省すべきところだ。とグレイは反省の態度を示す。

「あの人を幸せに出来ないなら、掻っ攫うぞ」
「シエラは私といることが何よりの幸せだと言っている。お前に掻っ攫われたらシエラは不幸になってしまうじゃないか。そんなことは絶対にさせない」

2人の間に火花が散る。それを見てディアナは大きく溜息を吐いた。

「シエラさんは、お兄様に簡単に攫われるような人じゃないわよ。グレイも、シエラさんの言葉に甘えすぎると、お兄様以外の人に横取りされちゃうかもしれないわよ」

その言葉にグレイは顔を青ざめさせ、カーティスはむっつりと口を噤む。

「あなた達に並ぶ貴公子は確かに今はいないけど、胡坐をかいているとその内本当に大切なものを失うわよっていいたいの。今回のグレイがいい例よね」

ディアナに達観した態度でそう言われ、2人はますます身を縮こませ、その日一日はディアナから説教を受け続けることになるのであった。
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