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真実

銀の雨

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ぶるりと背筋が凍る。シエラはただ一心に低木から現れるのが、猪ではないことを祈った。

「……シエラ?」

呼びかけられてハッと顔をあげると、そこにいたのはグレイだった。その手には狩り用の弓が握られている。

「どうしてこんなところにいるんだ!?」

普段滅多に聞くことのない、グレイの大きな声音にシエラはビクリと身体を震わせた。どうしてこんなところにいるんだ?そう聞かれて返せる答えをシエラは持っていなかった。

「……」
「どうして黙っているんだ。あれほど……危険だと注意したのに」

グレイは苛ついているようだった。シエラは何とか言葉を口にしようとしたが、胸元までせり上がる激情を抑えるのに必死で、グレイの顔を見ることさえ出来ない。そんなシエラを心配してか、グレイは先より僅かに声を柔くして問い掛ける。

「怪我はないかい?」
「……うん」
「念のため、医者に診てもらわないといけないね」

雨に濡れた髪を搔きあげなから、グレイは来た道の方を見据え「さあ、行こう」とシエラを抱きかかえようとした。しかし触れられた瞬間、シエラはグレイの手の平を払いのけてしまった。

「……あ……っ」

呆然とするシエラに対して、グレイは愕然とした表情を浮かべる。

「私に触れられるのがそんなに嫌かい?」
「ち、ちが……」

触れられると、苦しいから。触れられると、もっと好きになってしまうから。そう口走りそうになって、シエラは慌てて自らの手で己の口を塞いだ。しかしその仕草を見たグレイは何を勘違いしたのだろう。どこか自嘲的な笑みを浮かべながら、シエラの腰を抱える。銀雨の降りしきる世界に2人。突然唇に押し当てられた熱い感触に、シエラは大きく目を見開いた。反射的に、シエラはグレイの胸板を押し返すが、より一層強く抱き寄せられて、とうとう2人の間には一切の隙間もなくなってしまった。

「んっ……ま、まって……グレ……んん!」

唇が離れた瞬間を狙って、シエラは懇願するが聞き入れてはもらえない。

(どうして…・・・突然、こんなことされたら……もっと好きになってしまうじゃないの)

喉元までせりあがっていた想いが溢れて止まらなくなる。シエラの頬を雨ではない、何か熱いものが濡らしていく。唇の感触と共にしょっぱさも感じて、シエラは初めて自分が涙を流していることに気がついた。

それはどうやらグレイも同じだったようで、彼は目を見開き咄嗟にシエラと自らとの間に距離を取る。

「……すまない、泣かせるつもりじゃ……」

グレイが言い終わらぬ内に、シエラはドレスが汚れるのも厭わず、ヘタリとその場で膝を折った。
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