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真実

伝えられた真実

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「え……」

(あなたと話をしたかったって……)

その意味が分からぬほど、シエラは鈍感ではなかった。幼い頃から人との接触が少なかったとはいえ、人の気持ちが分からないわけではない。カーティスは変わらずの無表情だが、シエラには何気なく照れているように見えた。

「……申し訳ありません。そういった意味でのお誘いは、公爵夫人として今後受け取ることは出来ません」

王族の人間に対して、ここまできっぱりと発言するのは、さすがのシエラでも気が引けたがそれでも言わなければならないと思った。どう転んでも、この先ずっと自分の夫はグレイだけだ。幼い頃の記憶は成長すればするほど輝きをまして、真実とはほど遠い幻影を見せる。それ故に、自分はグレイに執着しているだけなのかもしれない。

(それでも……これから先、私がカーティス王子を好きになることは絶対にない)

シエラはカーティスの瞳を捉えた。ここで、少しでも心が傾いたような素振りを見せてはいけない。

「……」

カーティスはしばらくシエラの瞳に魅入られたように唇を引き結んでいたが、やがて「ふ……」と笑い、何事かを呟いた。

しかしシエラには何と言ったのか聞こえず、仕方なくカーティスの言葉を待つしかない。

「あなたにそこまで想われるあいつは幸せ者ですね……。ですが、あいつには勿体ない」

その言い草にカチンと来たシエラは「勿体ないとは何事か!」と反論しようとしたが、カーティスはそれを予期して、片手を振って遮る。

「あなたがご存じないことを、1つ教えます。それでもあいつのことを好きでいられたら……その時、私はあなたを諦めます」

きっぱりとした物言いに、シエラは一瞬気圧される。

さすがというべきか、王族の発言は少し圧を加えただけでも、ピリピリとした緊張感を伴う。シエラは「結構です」とは言えず、ただ「グレイのことを嫌いになるなどありえない」と毅然として頷くしかなかった。

(どんなことを聞かされても自分がグレイのことを嫌いになることはない……)

根拠などないが、長い間積もり積もった想いが、自信となって支えてくれているような気がした。

己の圧に負けず見返してくれるシエラに、カーティスは感心したように頷き口を開く。

「──……ディアナとグレイは、恋仲なのですよ」
「……は」

乾いた息がシエラの唇から漏れた。ディアナ……とは、カーティスの実妹であり、王女である人だ。グレイとは幼い頃からの友人だとそのように聞いているが……。

「あの2人は幼い頃から互いを想い合っていた。けれど……王族と公爵家の繋がりは、ディアナとグレイが結婚などしなくてもすでに強固なものになっている。当時の公爵家に必要だったものは、王家との繋がりではなく、発明家でもあらせられたあなたのおじい様の書いた膨大な技術書と、財産……そして、それら全てを受け継ぐあなただった」

カーティスの言葉は平坦だった。だから余計に真実味を帯びて、シエラの心にひびを入れていく。

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