上 下
19 / 29
茶会

強引

しおりを挟む

(……?気のせいかしら)

その視線の意味を捉えきれずにいると、カーティスはおもむろにシエラの手を取ってその甲に口づけを落とした。

黄色い悲鳴が周囲から沸き起こる。

「母上の茶会を楽しんでおられますか?」

静かに問われて、シエラは笑顔は作れないながらも「はい、とても。王妃様がとてもお優しい方でいらっしゃるからかもしれませんが、茶会全体も朗らかな雰囲気を感じられてとても居心地が良いです」と過度ではない世辞も交えて答えた。

「……そう、ですね。母はとても優しいです。あなたがそう言ってくださると私としましてもとても嬉しい」

ぶっきらぼうに見えながらも、その声音には心が籠もっている。こうして話してみると冷たい人のようには感じない。

むしろ自分と同じ無表情が常であるようなところに親近感を覚えて、ついいらぬことを言ってしまう。

「噂に名高い王宮の菓子職人が作る菓子も……食べられて感動しておりますわ」
「どれが気に入られましたか?」

まさかそんなことを問い返されるとは思わず、シエラは狼狽える。どれが一番美味しいかなんて考えていなかった。1番初めに美味しいと感じたのは苺の果肉入りスコーンだったけれど、その次にはラズベリージャムのクッキーが美味しいと思った。

「うーん」 

考え込むシエラを、カーティスは熱心な様子でじっと見つめる。

(そんなに美味しいお菓子が知りたいのかしら……)

シエラは真剣に考えた。

けれど結局は、どれもこれも美味しかったから答えは出なかった。仕方なくシエラは「全部です」と答える。

すると、滅多に笑わないカーティスが「ふっ」と笑みを零した。それにより、再び黄色い悲鳴が周囲から上がり、嫉妬と言う名の視線の矢がシエラに容赦なく突き刺さる。

カーティスはその声に僅かに眉間を寄せた。鬱陶しいと感じたらしい。

「もしよろしければ……サロン室の外にある王家自慢の庭をご案内いたします。そこに王宮の菓子職人が作った菓子を並び置かせて、ゆっくりお話致しませんか」
「え?」
「日傘を用意致しましょう」
「え、あの……それは」

有無を言わせぬ口調に、シエラは混乱する。例え自分が公爵夫人といえども、そこまでする必要はない。確かに招待したのは王族である王妃だが、少し挨拶すれば王子として礼を尽くすには十分だ。

(どうしてこんなことになるのよ!)

混乱するシエラを見かねたのか、王妃が側までやってくると「駄目よ、カーティス」と嗜める声が横合いから飛んでくる。

(ああ、良かった……)

しかし、助かった!と安堵の息を吐いたのも束の間。

「シエラさんをエスコートするのなら、ちゃんと了承を得なさい」
「……申し訳ありません。シエラ嬢、庭をご案内したいのですがよろしいでしょうか」

(そんな……。王妃様が見守っている前で断れるはずないじゃないの!)

内心で怒っていても、シエラの表情には感情が出ない。改めてその性質に感謝しながらシエラは「……光栄にございます」と答えざるを得なかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

彼女があなたを思い出したから

MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。 フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。 無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。 エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。 ※設定はゆるいです。 ※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ] ※胸糞展開有ります。 ご注意下さい。 ※ 作者の想像上のお話となります。

その手は離したはずだったのに

MOMO-tank
恋愛
4歳年上の婚約者が幼馴染を好きなのは知っていた。 だから、きっとこの婚約はいつか解消される。そう思っていた。 なのに、そんな日は訪れることなく、私ミラ・スタンリーは学園卒業後にマーク・エヴァンス公爵令息と結婚した。 結婚後は旦那様に優しく大切にされ、子宝にも恵まれた。 いつしか愛されていると勘違いしていた私は、ある日、残酷な現実を突きつけられる。 ※ヒロインが不憫、不遇の状態が続きます。 ※ざまぁはありません。 ※作者の想像上のお話となります。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

愛しのあなたにさよならを

MOMO-tank
恋愛
憧れに留めておくべき人だった。 でも、愛してしまった。 結婚3年、理由あって夫であるローガンと別々に出席した夜会で彼と今話題の美しい舞台女優の逢瀬を目撃してしまう。二人の会話と熱い口づけを見て、私の中で何かがガタガタと崩れ落ちるのを感じた。 私達には、まだ子どもはいない。 私は、彼から離れる決意を固める。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...