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茶会
強引
しおりを挟む(……?気のせいかしら)
その視線の意味を捉えきれずにいると、カーティスはおもむろにシエラの手を取ってその甲に口づけを落とした。
黄色い悲鳴が周囲から沸き起こる。
「母上の茶会を楽しんでおられますか?」
静かに問われて、シエラは笑顔は作れないながらも「はい、とても。王妃様がとてもお優しい方でいらっしゃるからかもしれませんが、茶会全体も朗らかな雰囲気を感じられてとても居心地が良いです」と過度ではない世辞も交えて答えた。
「……そう、ですね。母はとても優しいです。あなたがそう言ってくださると私としましてもとても嬉しい」
ぶっきらぼうに見えながらも、その声音には心が籠もっている。こうして話してみると冷たい人のようには感じない。
むしろ自分と同じ無表情が常であるようなところに親近感を覚えて、ついいらぬことを言ってしまう。
「噂に名高い王宮の菓子職人が作る菓子も……食べられて感動しておりますわ」
「どれが気に入られましたか?」
まさかそんなことを問い返されるとは思わず、シエラは狼狽える。どれが一番美味しいかなんて考えていなかった。1番初めに美味しいと感じたのは苺の果肉入りスコーンだったけれど、その次にはラズベリージャムのクッキーが美味しいと思った。
「うーん」
考え込むシエラを、カーティスは熱心な様子でじっと見つめる。
(そんなに美味しいお菓子が知りたいのかしら……)
シエラは真剣に考えた。
けれど結局は、どれもこれも美味しかったから答えは出なかった。仕方なくシエラは「全部です」と答える。
すると、滅多に笑わないカーティスが「ふっ」と笑みを零した。それにより、再び黄色い悲鳴が周囲から上がり、嫉妬と言う名の視線の矢がシエラに容赦なく突き刺さる。
カーティスはその声に僅かに眉間を寄せた。鬱陶しいと感じたらしい。
「もしよろしければ……サロン室の外にある王家自慢の庭をご案内いたします。そこに王宮の菓子職人が作った菓子を並び置かせて、ゆっくりお話致しませんか」
「え?」
「日傘を用意致しましょう」
「え、あの……それは」
有無を言わせぬ口調に、シエラは混乱する。例え自分が公爵夫人といえども、そこまでする必要はない。確かに招待したのは王族である王妃だが、少し挨拶すれば王子として礼を尽くすには十分だ。
(どうしてこんなことになるのよ!)
混乱するシエラを見かねたのか、王妃が側までやってくると「駄目よ、カーティス」と嗜める声が横合いから飛んでくる。
(ああ、良かった……)
しかし、助かった!と安堵の息を吐いたのも束の間。
「シエラさんをエスコートするのなら、ちゃんと了承を得なさい」
「……申し訳ありません。シエラ嬢、庭をご案内したいのですがよろしいでしょうか」
(そんな……。王妃様が見守っている前で断れるはずないじゃないの!)
内心で怒っていても、シエラの表情には感情が出ない。改めてその性質に感謝しながらシエラは「……光栄にございます」と答えざるを得なかった。
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