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茶会
苛立ち
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王妃様との茶会は5日後。
幸いにも、シーズンでまだ公の場に着ていないドレスはたくさんある。何か急いで用意するものもない。
それでも、シエラは急いでグレイに手紙を書いた。茶会に出席してもいいか。自らの屋敷で茶会を主催するわけではない場合、妻が夫に聞く必要はない。
が、王妃様の茶会となれば話は別だ。
「……奥様、茶会へご参加される時のドレスはいかがしましょうか」
手紙を書き終え執事に渡した後、一休みしていると、エナが執務机の上に紅茶を置く。ふわりと柔い湯気が漂うと、茶の豊かな香りがして、緊張に強張った肩から力が抜けた。
「そうねぇ……まだ温かい季節だし、明るい色がいいと思うの。ピンクとか、水色とか……」
「そうですね……奥様は愛らしいお顔立ちですし。この際、もっと華やかなものを着てみるのはいかがですか?」
「……そうね」
華やかなドレスが似合わないとは思っていない。だけど、この幼い顔立ちをもう少し大人びたものに見せたくて、明るい色といえば白を身に纏うことが多かった。
(でも……たまには、本当に似合うものを身に着けた方がいいわよね)
うん、そうしよう。と心に決めてティーカップに口をつける。
その日の晩。珍しくグレイが帰っていた。
一体どうしたのかと思い、驚きながら出迎えるとグレイはニコニコ笑いながら「一緒に食事をしようか」と提案してくる。
「分かったわ」
答えると、グレイは満足そうに笑いながら使用人達に食事の支度をするようにと指示を出した。
2人広いテーブルにつくと、グレイは早速「手紙の件だけどね」と話を切り出す。どうやら手紙はその日の内に王宮に届けられたらしい。
「行かなくてもいいんじゃない?」
軽い調子で言われたので、最初何を言われたのかよく分からなかった。
(……行かなくてもいいんじゃない?って言ったの?)
「どうして?」
「なにが?」
「どうして……王妃様主催のお茶なのよ?しかも直々にお誘い頂いたのだから、行かないと」
「行く必要はないよ」
「……だから、どうしてよ」
「逆にどうして、君が王宮に行きたがるのか分からないよ。この間の忘れ物だって、執事に届けさせれば良かっただけじゃないか」
可笑しい。そういう話ではないはずだ。
こんな時、いつものグレイなら「君の好きにしたらいいよ」と言うだけなのに。
(まるで……私を王宮から遠ざけたいみたい)
「王妃様からの直々の誘いを断るなんて、失礼よ」
「私から王妃様には言っておくから失礼なことにはならない」
頑ななグレイに、シエラは苛立ちを募らせる。
幸いにも、シーズンでまだ公の場に着ていないドレスはたくさんある。何か急いで用意するものもない。
それでも、シエラは急いでグレイに手紙を書いた。茶会に出席してもいいか。自らの屋敷で茶会を主催するわけではない場合、妻が夫に聞く必要はない。
が、王妃様の茶会となれば話は別だ。
「……奥様、茶会へご参加される時のドレスはいかがしましょうか」
手紙を書き終え執事に渡した後、一休みしていると、エナが執務机の上に紅茶を置く。ふわりと柔い湯気が漂うと、茶の豊かな香りがして、緊張に強張った肩から力が抜けた。
「そうねぇ……まだ温かい季節だし、明るい色がいいと思うの。ピンクとか、水色とか……」
「そうですね……奥様は愛らしいお顔立ちですし。この際、もっと華やかなものを着てみるのはいかがですか?」
「……そうね」
華やかなドレスが似合わないとは思っていない。だけど、この幼い顔立ちをもう少し大人びたものに見せたくて、明るい色といえば白を身に纏うことが多かった。
(でも……たまには、本当に似合うものを身に着けた方がいいわよね)
うん、そうしよう。と心に決めてティーカップに口をつける。
その日の晩。珍しくグレイが帰っていた。
一体どうしたのかと思い、驚きながら出迎えるとグレイはニコニコ笑いながら「一緒に食事をしようか」と提案してくる。
「分かったわ」
答えると、グレイは満足そうに笑いながら使用人達に食事の支度をするようにと指示を出した。
2人広いテーブルにつくと、グレイは早速「手紙の件だけどね」と話を切り出す。どうやら手紙はその日の内に王宮に届けられたらしい。
「行かなくてもいいんじゃない?」
軽い調子で言われたので、最初何を言われたのかよく分からなかった。
(……行かなくてもいいんじゃない?って言ったの?)
「どうして?」
「なにが?」
「どうして……王妃様主催のお茶なのよ?しかも直々にお誘い頂いたのだから、行かないと」
「行く必要はないよ」
「……だから、どうしてよ」
「逆にどうして、君が王宮に行きたがるのか分からないよ。この間の忘れ物だって、執事に届けさせれば良かっただけじゃないか」
可笑しい。そういう話ではないはずだ。
こんな時、いつものグレイなら「君の好きにしたらいいよ」と言うだけなのに。
(まるで……私を王宮から遠ざけたいみたい)
「王妃様からの直々の誘いを断るなんて、失礼よ」
「私から王妃様には言っておくから失礼なことにはならない」
頑ななグレイに、シエラは苛立ちを募らせる。
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