上 下
14 / 29
茶会

苛立ち

しおりを挟む
王妃様との茶会は5日後。

幸いにも、シーズンでまだ公の場に着ていないドレスはたくさんある。何か急いで用意するものもない。

それでも、シエラは急いでグレイに手紙を書いた。茶会に出席してもいいか。自らの屋敷で茶会を主催するわけではない場合、妻が夫に聞く必要はない。

が、王妃様の茶会となれば話は別だ。

「……奥様、茶会へご参加される時のドレスはいかがしましょうか」

手紙を書き終え執事に渡した後、一休みしていると、エナが執務机の上に紅茶を置く。ふわりと柔い湯気が漂うと、茶の豊かな香りがして、緊張に強張った肩から力が抜けた。

「そうねぇ……まだ温かい季節だし、明るい色がいいと思うの。ピンクとか、水色とか……」
「そうですね……奥様は愛らしいお顔立ちですし。この際、もっと華やかなものを着てみるのはいかがですか?」
「……そうね」

華やかなドレスが似合わないとは思っていない。だけど、この幼い顔立ちをもう少し大人びたものに見せたくて、明るい色といえば白を身に纏うことが多かった。

(でも……たまには、本当に似合うものを身に着けた方がいいわよね)

うん、そうしよう。と心に決めてティーカップに口をつける。

その日の晩。珍しくグレイが帰っていた。

一体どうしたのかと思い、驚きながら出迎えるとグレイはニコニコ笑いながら「一緒に食事をしようか」と提案してくる。

「分かったわ」

答えると、グレイは満足そうに笑いながら使用人達に食事の支度をするようにと指示を出した。

2人広いテーブルにつくと、グレイは早速「手紙の件だけどね」と話を切り出す。どうやら手紙はその日の内に王宮に届けられたらしい。

「行かなくてもいいんじゃない?」

軽い調子で言われたので、最初何を言われたのかよく分からなかった。

(……行かなくてもいいんじゃない?って言ったの?)

「どうして?」
「なにが?」
「どうして……王妃様主催のお茶なのよ?しかも直々にお誘い頂いたのだから、行かないと」
「行く必要はないよ」
「……だから、どうしてよ」
「逆にどうして、君が王宮に行きたがるのか分からないよ。この間の忘れ物だって、執事に届けさせれば良かっただけじゃないか」

可笑しい。そういう話ではないはずだ。

こんな時、いつものグレイなら「君の好きにしたらいいよ」と言うだけなのに。

(まるで……私を王宮から遠ざけたいみたい)

「王妃様からの直々の誘いを断るなんて、失礼よ」
「私から王妃様には言っておくから失礼なことにはならない」

頑ななグレイに、シエラは苛立ちを募らせる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...