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不穏に揺れる

夫婦の夜

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シエラは寝室に腰掛けて、着せられたネグリジェのリボンの形を生真面目に整えていた。

これ以上ないくらいにリボンが整うと、次は鏡の前へ行き、軽く髪を整える。


その髪がどんなに乱れていようとも、シエラが美しいことにかわりはないのだか、恋する乙女の前にはちょっとした髪の乱れも命取りになるものなのである。

(……うん、大丈夫)

窓から差し込む月明かりが、銀の髪を淡く輝かせる。夜闇に溶ける菫色の瞳は、洞窟の奥で密かに輝く神秘的なアメジストのようだ。

我ながら美しい。

と、シエラがナルシスト全開に自分なりのドヤ顔をしていると「入るよ」と声がかかる。「どうぞ」とシエラがか細く答えると、扉はゆっくりと開いて、グレイがバスローブを着た姿で入ってきた。

ここは夫婦の寝室である。

と言っても、毎夜同じ寝室で寝ているわけではない。グレイは公爵という地位にあって領地の管理と国政を支える立場にあるため、王宮に寝泊まりしていることが多い。それ以外の時は大抵、離れの寝室で眠っていることもある。

どうして、離れの寝室で眠るのか。

シエラは率直に聞いてみたことがあるのだが、グレイは曖昧に笑うだけで何も答えてはくれなかった。

こうして2人一緒の寝室で眠るのは月に決まって2回ほどだ。シエラにとっては貴重な夫婦の時間。緊張の面持ちで、歩み寄るグレイを見上げると、彼はクスリと色気たっぷりに笑った。

「まだ、慣れないの」
「……そりゃそうよ」

ぎこちなく頷くシエラの耳をグレイはゆっくりと撫でた。

「大丈夫だよ。それに、もう何度もしてるんだから……痛くないでしょ?」

と囁かれる。

違うんです。違うんです。痛いとか痛くないとかの前にすごく、緊張するんです。だってあなたが格好いいから。すごくすごく色っぽくて、大人っぽくて。堪らなくなるから。

シエラは脳内で物凄い早口にグレイを褒めたが、当然表情が変わるはずもない。

冴え冴えとした月明かりが、シエラの無表情を照らす。

グレイはその表情を見つめながらふっとその表情を真似るように真顔になった。

(いつもニコニコしてる人が真顔になると、怒ってるみたいに見える)

グレイの整った顔に特に怒りの感情は見えないが、普段彼が花のように笑うから、真顔に一層違和感を覚えるんだろう。

そんなことを考えていると、グレイの指先がシエラの唇を撫でる。緊張に身体がガチリと固まると「ふ」とグレイが薄く笑う。

「私が愛しているのは、あなただけだよ」

その言葉が合図だった。

そして2人の影は月夜の闇に交じり合い、溶けていく。
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