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晩餐会より

王女様

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「何の話をしているの?」

グレイである。

(あれ?さっきまで……あそこにいたような……?あれ?)  


先まで、令嬢達に囲まれていたはずのグレイが、何故かもう近くにいる。

ほえー……。

口を半開きにして呆けるシエラに、グレイは甘やかな笑顔を向ける。

「何、話してたの?シエラ」
「……?」  

(あれ、何を話していたかしら……?)

シエラは記憶力が良いほうなのだが、グレイの笑顔を向けられた途端、心のみならず記憶まで浄化されて真っ白になってしまった。

つまり、シエラはグレイのことが大好きすぎるのである。

「ホホホ、なんでもありませんわ。貴婦人の内緒話を聞きたがるなんて、紳士のするべきことではありませんわよ」

どこから出したのか、アマリアは豪奢な扇子で自らを扇いで高笑いしながらその場を去ってしまった。

しかし、グレイはそんな彼女には見向きもせずに、シエラを凝視する。


「……私には言えないこと、話してた?」

捨てられた子犬のように首を傾げるグレイに、シエラは胸がきゅんと締め付けられるのを感じながらも、アマリアと話していた内容を改めて思い出す。

ほとんど、グレイに対する棘のある言葉である。

一体何を説明すれば良いと言うのか。本当のことを言ったら、グレイは嫌な思いをするに決まっている。


真剣に悩めば悩むほど、シエラの表情は冷たく冴えていった。


「ただの世間話よ」

特に意図しているわけではないのだが、シエラはグレイと会話をする時、緊張して冷たい口調になってしまう。

「……そう?」

ふーん?とグレイはしばらく何か考える素振りを見せたが、それ以上何か聞いてくることはなかった。そして以外にも、令嬢達の元には戻らずその場に留まって食事を運んできてくれる。

(どうしたのかしら……?)

もぐもぐと、フルーツを咀嚼しながら、シエラは背の高いグレイを見上げる。

その視線に気づいたグレイはニコリと笑うが、言葉を発しもしない。それに対して、シエラもニコリと笑い返したいのだが、表情筋は死んだように動かない。

気まずくて、シエラはもぐもぐとフルーツを咀嚼し続けていると、会場内がざわりと揺れた。


王族の登場である。


──…きゃあぁあああああああ!!!


ものすごい悲鳴(?)だ。

相変わらず、王族の人気は凄まじい。

「はあぁぁ……今日もなんて、素敵なのかしら。カーティス王子」
「凛々しくて、男らしくって……1度でいいから、一緒に踊ってみたいわ」

カーティス王子は、この国で唯一の王子である。先の令嬢がツラツラと述べた通り、彼は王子ではあるのだが、自ら軍の鍛錬に参加したり、遠征で指揮を取ったりと、自らを律して、なるべく質素な暮らしをしているという。

精錬とした佇まいと、精悍な顔立ちに、令嬢達はメロメロだ。

そしてもう1人。

カーティスの手を取る少女。

光の角度によって豊緑に見える漆黒の髪に、柔らかな水色の瞳。

快活な笑顔が輝かしい──王女ディアナである。
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