5 / 29
晩餐会より
王女様
しおりを挟む「何の話をしているの?」
グレイである。
(あれ?さっきまで……あそこにいたような……?あれ?)
先まで、令嬢達に囲まれていたはずのグレイが、何故かもう近くにいる。
ほえー……。
口を半開きにして呆けるシエラに、グレイは甘やかな笑顔を向ける。
「何、話してたの?シエラ」
「……?」
(あれ、何を話していたかしら……?)
シエラは記憶力が良いほうなのだが、グレイの笑顔を向けられた途端、心のみならず記憶まで浄化されて真っ白になってしまった。
つまり、シエラはグレイのことが大好きすぎるのである。
「ホホホ、なんでもありませんわ。貴婦人の内緒話を聞きたがるなんて、紳士のするべきことではありませんわよ」
どこから出したのか、アマリアは豪奢な扇子で自らを扇いで高笑いしながらその場を去ってしまった。
しかし、グレイはそんな彼女には見向きもせずに、シエラを凝視する。
「……私には言えないこと、話してた?」
捨てられた子犬のように首を傾げるグレイに、シエラは胸がきゅんと締め付けられるのを感じながらも、アマリアと話していた内容を改めて思い出す。
ほとんど、グレイに対する棘のある言葉である。
一体何を説明すれば良いと言うのか。本当のことを言ったら、グレイは嫌な思いをするに決まっている。
真剣に悩めば悩むほど、シエラの表情は冷たく冴えていった。
「ただの世間話よ」
特に意図しているわけではないのだが、シエラはグレイと会話をする時、緊張して冷たい口調になってしまう。
「……そう?」
ふーん?とグレイはしばらく何か考える素振りを見せたが、それ以上何か聞いてくることはなかった。そして以外にも、令嬢達の元には戻らずその場に留まって食事を運んできてくれる。
(どうしたのかしら……?)
もぐもぐと、フルーツを咀嚼しながら、シエラは背の高いグレイを見上げる。
その視線に気づいたグレイはニコリと笑うが、言葉を発しもしない。それに対して、シエラもニコリと笑い返したいのだが、表情筋は死んだように動かない。
気まずくて、シエラはもぐもぐとフルーツを咀嚼し続けていると、会場内がざわりと揺れた。
王族の登場である。
──…きゃあぁあああああああ!!!
ものすごい悲鳴(?)だ。
相変わらず、王族の人気は凄まじい。
「はあぁぁ……今日もなんて、素敵なのかしら。カーティス王子」
「凛々しくて、男らしくって……1度でいいから、一緒に踊ってみたいわ」
カーティス王子は、この国で唯一の王子である。先の令嬢がツラツラと述べた通り、彼は王子ではあるのだが、自ら軍の鍛錬に参加したり、遠征で指揮を取ったりと、自らを律して、なるべく質素な暮らしをしているという。
精錬とした佇まいと、精悍な顔立ちに、令嬢達はメロメロだ。
そしてもう1人。
カーティスの手を取る少女。
光の角度によって豊緑に見える漆黒の髪に、柔らかな水色の瞳。
快活な笑顔が輝かしい──王女ディアナである。
139
お気に入りに追加
589
あなたにおすすめの小説

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。

愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。

元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない
MOMO-tank
恋愛
薬師の腕を上げるために1年間留学していたアリソンは帰国後、次期辺境伯の婚約者ルークの元を訪ねた。
「アリソン!会いたかった!」
強く抱きしめ、とびっきりの笑顔で再会を喜ぶルーク。
でも、彼の側にはひとりの女性、治療師であるマリアが居た。
「毒矢でやられたのをマリアに救われたんだ」
回復魔法を受けると気分が悪くなるルークだが、マリアの魔法は平気だったらしい。
それに、普段は決して自分以外の女性と距離が近いことも笑いかけることも無かったのに、今の彼はどこかが違った。
気のせい?
じゃないみたい。
※設定はゆるいです。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる