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晩餐会より

アマリア

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「……シエラ?どうしたの、ぼおっとして」
「おば様!」

長く物思いに耽っていたシエラに声をかけたのは、祖父が亡くなった後、しばらく生活を共にした伯爵夫人。同時に祖父の異母妹であるアマリアだ。若い頃に夫である伯爵を亡くし、その後、女主人として伯爵家を統率してきた女傑である。

しかし、そのような功績があるにも関わらず彼女自身は春のように温かい人だ。

祖父を亡くして涙にくれ、絶望していたシエラの心を支え続けてくれた人。

「また、夫君を見つめていたの?」
「ええ、そうよ」
「相変わらず、おモテになるのね。あなたの旦那様は……あなたをほおっておいて」  

棘のある言い方に、シエラは「全くだ」と思いながらも苦笑を零す。アマリアの前では、シエラの表情筋は僅かに和らぐのか、その表情は微笑んでいるようにも見えた。

「彼は優しいのよ」
「……どこが優しいものですか。今、あなたをこんな場所に放っておいている時点で優しくなどありません」


アマリアの言うことも分からなくはない。

「私も、文句を言ってるわよ」
「文句を言っているのに、全然効果がないじゃない!」
「1度、本気で断りを入れてくれたことがあるんだけど……」
「そうなの?」

実は、そうなのである。優しいグレイは、もちろんシエラの言葉を聞き入れて令嬢達に断りをいれてくれた。

まあ、しかし。

「面白いくらい、効果がなかったの」
「……はあ」

アマリアは溜息を吐いて「やれやれ」と額に手を当てる。

「夫の容姿が整いすぎているのも考えものね。やっぱり私の夫みたいに、少し整っているくらいが丁度いいのよ」

アマリアは、今でも亡くなった伯爵のことを想っている。伯爵が生きていた当時はおしどり夫婦として有名だった。うらやましいと思う。

「ねえ、シエラ」
「なあに?」

アマリアは、ちらりとグレイへ視線をやってから少し大きめの声で言う。

「離婚したかったら、いつでも言っていいのよ?」

何故、声を大きくしたのか。

その意味を介することの出来ないシエラは首を傾げながら、小さな声で答える。

「嫌よ」
「別に今すぐじゃなくて……彼のことが嫌いになったら私が手を貸すわってことよ」
「そんなことには絶対にならないわよ」

自信満々に言ってのけるシエラに、アマリアは肩を竦めて「どうしてそんなことが言えるのよ。容姿はともかく、もっと良い男がいると思わないの?」と問いかけてくる。

「思わない」
「……ねぇ、シエラ。そう断言できるのはあなたが幼少期、外に出なかったからで──……」

アマリアが言いかけたところで、予想外の人物が近づいてきた。
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