3 / 29
晩餐会より
笑顔
しおりを挟む(い、一体なんなの!?)
自分が何かしてしまっただろうか。人に見られることに慣れないシエラは、どうすればその視線を遮ることが出来るのか分からず、咄嗟にぬいぐるみで顔を隠した。
すると。
「あ!なんで隠しちゃうの?」
と、美少年が近づいてくる。
どうしよう!とシエラはもう1度祖父を見上げる。
やはり無表情。
(こういう時くらい、助けてよねー!)
シエラは心の中で大絶叫した。
そんなシエラの荒れる心中など露ほども知らない少年は、先程まで泣いて叫んでいたとは思えないほどニコニコと笑って「お名前は?」と問いかけてる。
何が面白くてこんな表情になるのか。何が哀しくてこんな表情になるのか。
シエラは間近に寄せられたそれはそれは美しい顔に見惚れてしまい、言葉が出なかった。
それを訝しんだ美少年は、懲りずにもう1度「名前、なんて言うの?」と問いかける。
シエラは、祖父以外の人間と喋ることがあまりないので、どういう表情をしたらいいのか分からず、とりあえず目の前の少年と同じような顔を意識的に作ってみた。
表情筋がヒクヒクと痙攣するのを感じながら今までにないほど勇気を振り絞って「シ、シエラ……」と答える。
(声、掠れちゃった……)
頬が熱くなるのを感じながら、おずおずと視線をあげると、美少年は嬉しそうに笑って「僕の名前はグレイだよ!よろしくね、シエラ」と自己紹介した。その笑顔は弾けるように鮮やかで、シエラの目の裏に焼きついて、忘れられなくなってしまった。
それ以来、シエラとグレイは2人の預かり知らぬところで婚約者となった。
成長するに連れて「婚約」の意味は理解したけれど、シエラは初めての出会いからグレイに一目惚れしたも同然で、彼の朗らかさに救われたために、「婚約」出来て心底良かったと思えている。
友人の出来ないシエラにとっては、グレイが唯一世界に彩りを与えてくれる存在だったのだ。
──……とはいえ、2人には婚約してからしばらくは、まともに会えていなかった期間がある。
幼い頃など、出会った時以来、全く会えなかった。
なぜなら幼いシエラを王都に連れていくのは祖父自身で、彼は極度の人見知りで、引きこもることで精神の安定をはかる人間だったからである。
ならばシエラの付き添いに侍女でも付ければ良いのではないかと言われるだろうが、祖父は身内以外──つまり、シエラ以外の人間を全く信用していなかった。
それ故に、シエラはグレイとの出会いの時に学んだ表情を忘れてしまった。
そして現在まで感情が全く表に出ない習性が定着してしまい、今のシエラがいる。
56
お気に入りに追加
465
あなたにおすすめの小説
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない
MOMO-tank
恋愛
薬師の腕を上げるために1年間留学していたアリソンは帰国後、次期辺境伯の婚約者ルークの元を訪ねた。
「アリソン!会いたかった!」
強く抱きしめ、とびっきりの笑顔で再会を喜ぶルーク。
でも、彼の側にはひとりの女性、治療師であるマリアが居た。
「毒矢でやられたのをマリアに救われたんだ」
回復魔法を受けると気分が悪くなるルークだが、マリアの魔法は平気だったらしい。
それに、普段は決して自分以外の女性と距離が近いことも笑いかけることも無かったのに、今の彼はどこかが違った。
気のせい?
じゃないみたい。
※設定はゆるいです。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる