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晩餐会より

笑顔

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(い、一体なんなの!?)

自分が何かしてしまっただろうか。人に見られることに慣れないシエラは、どうすればその視線を遮ることが出来るのか分からず、咄嗟にぬいぐるみで顔を隠した。

すると。


「あ!なんで隠しちゃうの?」


と、美少年が近づいてくる。


どうしよう!とシエラはもう1度祖父を見上げる。


やはり無表情。


(こういう時くらい、助けてよねー!)


シエラは心の中で大絶叫した。

そんなシエラの荒れる心中など露ほども知らない少年は、先程まで泣いて叫んでいたとは思えないほどニコニコと笑って「お名前は?」と問いかけてる。


何が面白くてこんな表情になるのか。何が哀しくてこんな表情になるのか。

シエラは間近に寄せられたそれはそれは美しい顔に見惚れてしまい、言葉が出なかった。


それを訝しんだ美少年は、懲りずにもう1度「名前、なんて言うの?」と問いかける。

シエラは、祖父以外の人間と喋ることがあまりないので、どういう表情をしたらいいのか分からず、とりあえず目の前の少年と同じような顔を意識的に作ってみた。   


表情筋がヒクヒクと痙攣するのを感じながら今までにないほど勇気を振り絞って「シ、シエラ……」と答える。
 
(声、掠れちゃった……)


頬が熱くなるのを感じながら、おずおずと視線をあげると、美少年は嬉しそうに笑って「僕の名前はグレイだよ!よろしくね、シエラ」と自己紹介した。その笑顔は弾けるように鮮やかで、シエラの目の裏に焼きついて、忘れられなくなってしまった。


それ以来、シエラとグレイは2人の預かり知らぬところで婚約者となった。


成長するに連れて「婚約」の意味は理解したけれど、シエラは初めての出会いからグレイに一目惚れしたも同然で、彼の朗らかさに救われたために、「婚約」出来て心底良かったと思えている。


友人の出来ないシエラにとっては、グレイが唯一世界に彩りを与えてくれる存在だったのだ。


──……とはいえ、2人には婚約してからしばらくは、まともに会えていなかった期間がある。


幼い頃など、出会った時以来、全く会えなかった。


なぜなら幼いシエラを王都に連れていくのは祖父自身で、彼は極度の人見知りで、引きこもることで精神の安定をはかる人間だったからである。


ならばシエラの付き添いに侍女でも付ければ良いのではないかと言われるだろうが、祖父は身内以外──つまり、シエラ以外の人間を全く信用していなかった。


それ故に、シエラはグレイとの出会いの時に学んだ表情を忘れてしまった。


そして現在まで感情が全く表に出ない習性が定着してしまい、今のシエラがいる。
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