愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖

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晩餐会より

出会い

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無愛想なせいで、シエラは幼い頃から友人がいなかった。感情の起伏は激しく、内心では元気いっぱいなのに、表にそれらの感情が出ない。


喜んでいるのに笑顔になれない。
悲しいのに涙が出ない。

それはシエラが幼少の頃、周囲に「表情」を教える者がいなかったからだ。と知る者は少ない。

シエラは、幼い頃に両親を亡くし、当時侯爵であった厳格な祖父に育てられた。

祖父は、シエラと同様に表情に乏しい人だった。仕事熱心ではあったけれど、社交性もなかったために、パーティーや茶会には参加せず、屋敷を尋ねる人もいない。


そんな人間と2人きりで幼少期を過ごしたシエラは、当然の如くに表情に乏しくなってしまった。

それでもシエラは幸せだった。祖父は礼儀作法にはうるさかったが、自分のことを大切にしてくれるし、わがままを言えば聞いてくれる。

そんな生活に満足していた。

しかしある日、祖父は唐突に「公爵家へ行くぞ」と言って、王都までシエラを伴った。


引きこもりがちなシエラは、空から降りかかる陽光に干からびそうになりながら、お気に入りのぬいぐるみを抱え公爵邸へ一歩を踏み出す。


踏み出した途端、甲高い叫び声が遠くから轟いて、シエラはビクリと小さな身体を震わせた。


「嫌だ!知らない女の子と仲良くならないといけないなんて嫌だ!絶対に嫌!!!僕にはあの子がいれば十分なのーー!!」
「そんなことを言ってはなりません!!あなたももう7歳なのですから、いい加減分別をつけなさい!」 
「い・や・だ!!!」


ものすごい勢いだ。思わず祖父を見上げるシエラだったが、そこにあるのは予想通りの無表情。


この時ばかりは、シエラの滅多に動かない眉が下がった。

(知らない女の子って……私のことでしょう?こんなに泣いているのに無理やり会わせるなんて……可哀想だわ。ついでに私も可哀想だわ)


そう思ってシエラは、祖父の手を強く引いたが今日ばかりは我儘を聞いてはもらえず「こら」と静かに怒られて、逆に引っ張られてしまった。


大声の元がいると思われる扉の前につくと、無常にも扉が開く。


(……最初から嫌われてるのに、どうして会わないといけないのよ!)


シエラはとにかく「風よ鳥よ、扉を閉めろ」と最近読んだ本に書かれていた通りに呪文を唱えたが、鳥も風もあらわれることなく、扉は乾いた空気を切って開く。


「あ……」


開いた扉の先。大きな若草色の瞳を見開いている美少年がそこにいた。

(すごい……。私より綺麗な子なんて始めて見たわ)

心の中で関心しながらも、シエラはすぐに気まずい思いをすることになる。早くこの場を立ち去りたくて仕方がなくなった。

じー………。

なぜか、美少年が視線を外してくれない。
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