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地獄のような日々
第7話 惨め
しおりを挟む2年の月日が経った。なんて、簡単には言うけれど、この2年間はリリアにとってはどうしようもないほど苦しく耐え難いものだった。
一時期は重なった精神的苦痛から倒れて、ヨウォンの采配により療養のために別荘地で過ごすこともあった。
けれど、ジルとの物理的距離が離れるとリリアは不安で堪らなくなり、毎晩悪夢に魘され眠れなくなってしまう。
度重なる睡眠不足は、リリアの神経をより乱してしまい、涙を流さない日はなかったほどだ。穏やかな気候の別荘地へ行ってもリリアの精神は回復するどころかむしろひどくなった。そのためリリアが別荘地で過ごしたのはたったのふた月しかない。
『まあ、お姉様ったら……。もうお戻りになったの?』
邸宅へ戻ったリリアを心配する風を装って、嘲笑を帯びた微笑みを向けてくるミラの頬を、リリアはその場にジルがいることも忘れて、思い切り引っ叩いた。
『きゃあぁああああ!!』
『ミラ!』
大袈裟に叫んで見せるミラに、ジルはすぐさま駆け寄る。
『お……お姉様、ひどいわ……。ミラは心配して差し上げただけなのに……』
グスグスと涙を零すミラの肩をジルは労わるように撫でながら、ぎろりとリリアを睨みつけた。
『なんてことをするんだ』
冷たい声。それはかつて、媚びるように近寄ってくるミラに対して、ジルが放つ冷たい声音によく似ていた。
その声音がボロボロになった精神に響いて、脳が痺れるような感覚を覚える。リリアは枯れ枝のように細くなった両腕で、向けられる敵意から己を守るように身体をかき抱き、身構えた。
けれど、ジルは何故かそれ以上は何も言わなかった。
『……ジル様?』
どうしてもっと、リリアを責めないのか。と言外に、ミアはジルを責め立てる。
きっと、今のリリアがあまりにも惨めだから。心優しいジルは例えリリアを疎ましく思っても、責め立てる気にはならなかったのだろう。
『……痛い、痛いわ、ジル様』
諦めの悪いミアは、リリアに対する怒りが収まらないのか。しつこいくらいに『痛い、痛い』と繰り返す。そんなはずはない。リリアは幼少期から公爵家の令嬢として育ち、ナイフやフォーク以上に重たいものを持ったことなど一度もないのだ。そんな人間が思い切り力を出したとて、幼子ほどの力しかない。精々、猫からの強烈なパンチを食らった程度の威力しかないはずだ。現に『痛い、痛い』と泣くミラの頬は腫れるどころか、赤くすらなっていない。
それでもジルは、ミラの事が心底心配だというように、彼女を優しく抱き上げて『医者を呼ぼう』と呆然と立ち尽くすリリアに背を向けてその場を去ってしまった。
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