3 / 7
壊れた愛情
第3話 魅了の魔法
しおりを挟む
『君を愛してる。何があっても、君を愛し続けられる自信があるよ』
幼き日。愛を囁いてくれた婚約者が今、目の前で泣き崩れる義妹─ミラを抱きしめていた。
そんな光景を目の当たりにして、リリアは拳を握りしめる。
「ごめんなさい……お姉様。本当にごめんなさい。私……なんてことを」
(この状況で「大丈夫よ」なんて言える人間がいるなんて、まさか本当に思っているわけないわよね?)
愛する婚約者に「間違えて」魅了の魔法なんてものをかけたミラを、どうして許せると思うのか。
皆が「お前はまだ見習いの魔女なのだから、むやみやたらに魔法を使ってはいけない」と静止したのに。
『大丈夫よ!私、魔法実技の成績はもの凄く良いんだから!』
自信満々にそう言ってのけて彼女は、きっと習いたての魔法を、公爵邸に集められた父の知人達に自慢したかったのだろう。枯れた花をもう一度咲かせてみせるわ!と宣言して彼女は突然詠唱し始めた。初めは彼女の持つ杖の尖端が燐光を放ち始めた。
そこまでは良かった。
そこからは、どう言うわけか。
杖から溢れ出した光は、彼女の目の前にあった枯れた花にではなく、事の成り行きを見守っていた婚約者──ジルを包み込んでしまい──……。
そして、今に至る。
ちらと見えたミラの手の平には、魅了の魔法をかけた人間に刻まれるハート型の紋様が浮かび上がっていた。濃いピンク色の紋様はとても愛らしいように見えるが、実は「あなたの心臓を捕らえて離さない」という忌々しい意味が込められている。
そして、ジルの手の甲には青いハートの紋様。それは「空白の心臓」を意味する。
つまり「ジルの心はすでに彼自身の手を離れてミラの手の中にある」ということで、その紋様は魅了の魔法にかかっている何よりの証だった。
「あぁ、そんなに泣かないで、ミア。それより怪我はないかい」
「う……ぅぅ……ジル様……ごめん、なさい。私ったら……ドジで」
すべてを「ドジ」で片付けようとする義妹がリリアは心底許せなかった。
(泣きたいのは……私の方よ!)
憤慨するリリアだったが、周囲は「まあ、ミアだから」と何故か許すような雰囲気を醸し出し始める。そして彼らは伺うようにリリアを見つめた。
その視線に籠められた意味は大体こうだ。
許してやったらどうだ。
この子のドジはいつものことだろう。
こんなに泣いているのだから許してやれ。
魅了の魔法なんて数年で解けるのだから許してやれ。
だが、そんな雰囲気に流されるほど、リリアは気の弱い人間ではない。
許せないものは許せない、とはっきりと言う人間だった。
「……いつものように泣いて許されると思っているんでしょう?ミラ」
問いかけると、ミラは華奢な身体をビクリと震わせた。
リリアは、この義妹の性格を良く分かっていた。
幼き日。愛を囁いてくれた婚約者が今、目の前で泣き崩れる義妹─ミラを抱きしめていた。
そんな光景を目の当たりにして、リリアは拳を握りしめる。
「ごめんなさい……お姉様。本当にごめんなさい。私……なんてことを」
(この状況で「大丈夫よ」なんて言える人間がいるなんて、まさか本当に思っているわけないわよね?)
愛する婚約者に「間違えて」魅了の魔法なんてものをかけたミラを、どうして許せると思うのか。
皆が「お前はまだ見習いの魔女なのだから、むやみやたらに魔法を使ってはいけない」と静止したのに。
『大丈夫よ!私、魔法実技の成績はもの凄く良いんだから!』
自信満々にそう言ってのけて彼女は、きっと習いたての魔法を、公爵邸に集められた父の知人達に自慢したかったのだろう。枯れた花をもう一度咲かせてみせるわ!と宣言して彼女は突然詠唱し始めた。初めは彼女の持つ杖の尖端が燐光を放ち始めた。
そこまでは良かった。
そこからは、どう言うわけか。
杖から溢れ出した光は、彼女の目の前にあった枯れた花にではなく、事の成り行きを見守っていた婚約者──ジルを包み込んでしまい──……。
そして、今に至る。
ちらと見えたミラの手の平には、魅了の魔法をかけた人間に刻まれるハート型の紋様が浮かび上がっていた。濃いピンク色の紋様はとても愛らしいように見えるが、実は「あなたの心臓を捕らえて離さない」という忌々しい意味が込められている。
そして、ジルの手の甲には青いハートの紋様。それは「空白の心臓」を意味する。
つまり「ジルの心はすでに彼自身の手を離れてミラの手の中にある」ということで、その紋様は魅了の魔法にかかっている何よりの証だった。
「あぁ、そんなに泣かないで、ミア。それより怪我はないかい」
「う……ぅぅ……ジル様……ごめん、なさい。私ったら……ドジで」
すべてを「ドジ」で片付けようとする義妹がリリアは心底許せなかった。
(泣きたいのは……私の方よ!)
憤慨するリリアだったが、周囲は「まあ、ミアだから」と何故か許すような雰囲気を醸し出し始める。そして彼らは伺うようにリリアを見つめた。
その視線に籠められた意味は大体こうだ。
許してやったらどうだ。
この子のドジはいつものことだろう。
こんなに泣いているのだから許してやれ。
魅了の魔法なんて数年で解けるのだから許してやれ。
だが、そんな雰囲気に流されるほど、リリアは気の弱い人間ではない。
許せないものは許せない、とはっきりと言う人間だった。
「……いつものように泣いて許されると思っているんでしょう?ミラ」
問いかけると、ミラは華奢な身体をビクリと震わせた。
リリアは、この義妹の性格を良く分かっていた。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。

罪なき令嬢 (11話作成済み)
京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。
5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。
5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、
見る者の心を奪う美女だった。
※完結済みです。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした
風見ゆうみ
恋愛
「俺とルピノは愛し合ってるんだ。君にわかる様に何度も見せつけていただろう? そろそろ、婚約破棄してくれないか? そして、ルピノの代わりに隣国の王太子の元に嫁いでくれ」
トニア公爵家の長女である私、ルリの婚約者であるセイン王太子殿下は私の妹のルピノを抱き寄せて言った。
セイン殿下はデートしようといって私を城に呼びつけては、昔から自分の仕事を私に押し付けてきていたけれど、そんな事を仰るなら、もう手伝ったりしない。
仕事を手伝う事をやめた私に、セイン殿下は私の事を生きている価値はないと罵り、婚約破棄を言い渡してきた。
唯一の味方である父が領地巡回中で不在の為、婚約破棄された事をきっかけに、私の兄や継母、継母の子供である妹のルピノからいじめを受けるようになる。
生きている価値のない人間の居場所はここだと、屋敷内にある独房にいれられた私の前に現れたのは、私の幼馴染みであり、妹の初恋の人だった…。
※8/15日に完結予定です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観ですのでご了承くださいませ。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる