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壊れた愛情
第1話 幼き日の約束
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「ねぇ、ジル。あたくしが大人になったら、本当に結婚してくれる?」
花冠をつけた少女─リリアは、妖精のように花畑の中をくるくると踊り、隣で優しく微笑む少年─ジルに笑いかけた。
「うん、もちろんだよ」
ジルは物静かに告げた。
細められたその瞳は、少女への愛に溢れていた。彼はリリアの陽光に輝く金髪に優しい口づけを落とす。
「大人になった君はどんなに……綺麗だろうね」
「その言い方だと、今の私が美しくないみたいじゃないの」
「そういうことじゃないよ。今の君がとても綺麗だから……大人になったらきっと眩しすぎて見えなくなってしまうかもね」
「なぁに、それ!」
リリアは、きゃらきゃらと笑った。ジルは照れくさそうにしながらも「本当の事だよ」と念を押す。
公爵令嬢と宰相子息。
身分的に釣り合いの取れたいわゆる政略結婚。けれど2人は、互いに恋をしていた。幼心に芽生えた初々しく美しいその想いを2人は大切に育んだ。
そして彼らが10歳になり婚約すると、2人の距離はより縮まった。
2人で花の指輪を毎日交換し、会えぬ時には手紙を綴り、常に互いを恋しがり、そして支え合った。
リリアの愛する母が亡くなった時には、嘆き悲しみにくれ食事も取ることさえ出来なくなった彼女をジルは寝る間も惜しんで支え続けた。
『大丈夫だよ、リリア。僕がついてる。僕は……何があっても君の傍にいるからね』
優しい言葉。
抱きしめられた時に感じる確かなぬくもり。
慈しみが溢れ出る瞳。
惜しみなく注がれる愛情を糧にして、リリアはなんとか立ち直ることが出来た。
2人は、長い年月をかけて確かな絆で結ばれ、幼き恋心を深い愛に育て上げて見せた。
けれど──……。
そんな2人の日常は、ある1人の少女の登場によって壊れ始める。
「はじめまして、ミラと申します!よろしくお願いします……あ、違った。致しますわ!」
「……」
上品な言葉遣いに悪戦苦闘しながら、元気よく挨拶をする少女─ミラをリリアは睨みつけた。
ミラの母親は、リリアの父であるヨウォン公爵の長年の愛人だった女で、病弱だったリリアの母の心労の大いなる原因となった人間なのである。
『……最後にもう一度、あの人の顔を見たかったなんて思うのは贅沢なことね。だって愛しい子供の顔を見ながら死ねるのだから。ねぇ、リリア……ずっと見守っているから、どうか好きな人と幸せになって、毎日愛を伝えあって。私とあの人のようになっては駄目よ』
そう言って儚げに微笑んだ母の顔をリリアは忘れていない。
母が逝った時。父はその場にいなかった。どこにいたのかなんて聞かなくても分かる。
彼は、長年の愛人であるミラの母の元へ行っていたのだ。
そんな母を苦しめた女と、その子供と共に暮らさなければならないなんて……。
「絶対にいや!どうして私がこいつらと一緒に住まないといけないのよ!」
花冠をつけた少女─リリアは、妖精のように花畑の中をくるくると踊り、隣で優しく微笑む少年─ジルに笑いかけた。
「うん、もちろんだよ」
ジルは物静かに告げた。
細められたその瞳は、少女への愛に溢れていた。彼はリリアの陽光に輝く金髪に優しい口づけを落とす。
「大人になった君はどんなに……綺麗だろうね」
「その言い方だと、今の私が美しくないみたいじゃないの」
「そういうことじゃないよ。今の君がとても綺麗だから……大人になったらきっと眩しすぎて見えなくなってしまうかもね」
「なぁに、それ!」
リリアは、きゃらきゃらと笑った。ジルは照れくさそうにしながらも「本当の事だよ」と念を押す。
公爵令嬢と宰相子息。
身分的に釣り合いの取れたいわゆる政略結婚。けれど2人は、互いに恋をしていた。幼心に芽生えた初々しく美しいその想いを2人は大切に育んだ。
そして彼らが10歳になり婚約すると、2人の距離はより縮まった。
2人で花の指輪を毎日交換し、会えぬ時には手紙を綴り、常に互いを恋しがり、そして支え合った。
リリアの愛する母が亡くなった時には、嘆き悲しみにくれ食事も取ることさえ出来なくなった彼女をジルは寝る間も惜しんで支え続けた。
『大丈夫だよ、リリア。僕がついてる。僕は……何があっても君の傍にいるからね』
優しい言葉。
抱きしめられた時に感じる確かなぬくもり。
慈しみが溢れ出る瞳。
惜しみなく注がれる愛情を糧にして、リリアはなんとか立ち直ることが出来た。
2人は、長い年月をかけて確かな絆で結ばれ、幼き恋心を深い愛に育て上げて見せた。
けれど──……。
そんな2人の日常は、ある1人の少女の登場によって壊れ始める。
「はじめまして、ミラと申します!よろしくお願いします……あ、違った。致しますわ!」
「……」
上品な言葉遣いに悪戦苦闘しながら、元気よく挨拶をする少女─ミラをリリアは睨みつけた。
ミラの母親は、リリアの父であるヨウォン公爵の長年の愛人だった女で、病弱だったリリアの母の心労の大いなる原因となった人間なのである。
『……最後にもう一度、あの人の顔を見たかったなんて思うのは贅沢なことね。だって愛しい子供の顔を見ながら死ねるのだから。ねぇ、リリア……ずっと見守っているから、どうか好きな人と幸せになって、毎日愛を伝えあって。私とあの人のようになっては駄目よ』
そう言って儚げに微笑んだ母の顔をリリアは忘れていない。
母が逝った時。父はその場にいなかった。どこにいたのかなんて聞かなくても分かる。
彼は、長年の愛人であるミラの母の元へ行っていたのだ。
そんな母を苦しめた女と、その子供と共に暮らさなければならないなんて……。
「絶対にいや!どうして私がこいつらと一緒に住まないといけないのよ!」
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