魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。

星空 金平糖

文字の大きさ
上 下
1 / 7
壊れた愛情

第1話 幼き日の約束

しおりを挟む
「ねぇ、ジル。あたくしが大人になったら、本当に結婚してくれる?」

花冠をつけた少女─リリアは、妖精のように花畑の中をくるくると踊り、隣で優しく微笑む少年─ジルに笑いかけた。

「うん、もちろんだよ」

ジルは物静かに告げた。

細められたその瞳は、少女への愛に溢れていた。彼はリリアの陽光に輝く金髪に優しい口づけを落とす。

「大人になった君はどんなに……綺麗だろうね」
「その言い方だと、今の私が美しくないみたいじゃないの」
「そういうことじゃないよ。今の君がとても綺麗だから……大人になったらきっと眩しすぎて見えなくなってしまうかもね」
「なぁに、それ!」

リリアは、きゃらきゃらと笑った。ジルは照れくさそうにしながらも「本当の事だよ」と念を押す。

公爵令嬢と宰相子息。

身分的に釣り合いの取れたいわゆる政略結婚。けれど2人は、互いに恋をしていた。幼心に芽生えた初々しく美しいその想いを2人は大切に育んだ。

そして彼らが10歳になり婚約すると、2人の距離はより縮まった。

2人で花の指輪を毎日交換し、会えぬ時には手紙を綴り、常に互いを恋しがり、そして支え合った。

リリアの愛する母が亡くなった時には、嘆き悲しみにくれ食事も取ることさえ出来なくなった彼女をジルは寝る間も惜しんで支え続けた。

『大丈夫だよ、リリア。僕がついてる。僕は……何があっても君の傍にいるからね』

優しい言葉。
抱きしめられた時に感じる確かなぬくもり。
慈しみが溢れ出る瞳。

惜しみなく注がれる愛情を糧にして、リリアはなんとか立ち直ることが出来た。

2人は、長い年月をかけて確かな絆で結ばれ、幼き恋心を深い愛に育て上げて見せた。


けれど──……。


そんな2人の日常は、ある1人の少女の登場によって壊れ始める。


「はじめまして、ミラと申します!よろしくお願いします……あ、違った。致しますわ!」
「……」

上品な言葉遣いに悪戦苦闘しながら、元気よく挨拶をする少女─ミラをリリアは睨みつけた。 

ミラの母親は、リリアの父であるヨウォン公爵の長年の愛人だった女で、病弱だったリリアの母の心労の大いなる原因となった人間なのである。

『……最後にもう一度、あの人の顔を見たかったなんて思うのは贅沢なことね。だって愛しい子供の顔を見ながら死ねるのだから。ねぇ、リリア……ずっと見守っているから、どうか好きな人と幸せになって、毎日愛を伝えあって。私とあの人のようになっては駄目よ』

そう言って儚げに微笑んだ母の顔をリリアは忘れていない。

母が逝った時。父はその場にいなかった。どこにいたのかなんて聞かなくても分かる。

彼は、長年の愛人であるミラの母の元へ行っていたのだ。

そんな母を苦しめた女と、その子供と共に暮らさなければならないなんて……。

「絶対にいや!どうして私がこいつらと一緒に住まないといけないのよ!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

リリーの幸せ

トモ
恋愛
リリーは小さい頃から、両親に可愛がられず、姉の影のように暮らしていた。近所に住んでいた、ダンだけが自分を大切にしてくれる存在だった。 リリーが7歳の時、ダンは引越してしまう。 大泣きしたリリーに、ダンは大人になったら迎えに来るよ。そう言って別れた。 それから10年が経ち、リリーは相変わらず姉の引き立て役のような存在のまま。 戻ってきたダンは… リリーは幸せになれるのか

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

私は身を引きます。どうかお幸せに

四季
恋愛
私の婚約者フルベルンには幼馴染みがいて……。

処理中です...