異世界旅人の日常

河内 祐

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狩り

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「ソレデ空、コレカラドウスルノ?」
「うん、先ずは畑をみてからだね」

 そう答えて畑に向かう。
 門番が言っていた通り山の麓には、そこそこの広さの畑が水路で細かく分かれているが、今は誰も耕していない。

「まぁそれもそうか。魔獣が出たら堪らないし」

 貯蓄があったのが救いだった。
 貯蓄が無ければ既に餓死者が出ていたかもしれない。

「まぁそれもいつまでもつか」

 魔獣や獣、地震などの天災、こう言った村だと貯蓄で乗り切っていくしか無い場面が沢山ある。
 領主が兵を派遣して保護に向かうなんて事はこの世界だと難しい。
 なんなら、切り捨てられてしまう事の方が多い。
 現代日本の様な安定した食料や、自衛隊はこの世界には存在しない。
 その為に村を見捨てて他の復興が優先されてしまう。

「ハンターがいればまだ良いけど。この村のハンターは戦う気が無いそうだし」

 そうなると、ますます危ない。
 生活費を得れないハンターが犯罪者になってしまうからだ。

「急がないと」
「空ー!足跡ガアルヨー!」
「わかったー!」

 畑を散策していたらスラ助が足跡を見つけた、それが件の魔術だと良いんだけど。

「コレ」
「なるほど」

 見てみると確かに狼の足跡だった。

「魔獣かどうかはわからないけど。狼は賢いし畑までは降りてこない。多分コレは魔獣のかな」

 それが分かると早速準備だ。

「“アイテムボックス”オープン」

 そこから縄、矢と弦、良くしなる木の枝を持ってきて準備に取り掛かる。

「魔獣はおそらく山の何処かに住んでいる、だとしたら」

 山と畑の境目に生えている木に、僕は縄をピンと張るようにかけていく。
 その後は、数本の木の枝に弦を結びつけて矢をセッティング。
 その後は張ってある縄にひっかけるようにして、弦を伸ばす。

「そうするとあら不思議、弓を使った狩人の罠が完成」

 縄に引っ掛かりすると弓から矢が放たれる罠だ。この世界にはくくり罠とかもあるが、ぶっちゃけ狼とかの魔獣になると壊させれてしまうなら少しでもダメージを与えられる方が良い。

「だけど、しっかり捕まえないと手負いだから余計危ないんだよね」

 手負いの魔獣ほど怖い物は無い。

「じゃあスラ助、トレ山さん、魔獣を探すよ」
「アイアイキャプテン」

 いつから僕は海賊に⁉︎

「“狂気の箱”No.32凝視型自動追跡ステアオートマチックカメラ」

 そう唱えると沢山の目玉がついた生物が僕の手の平から溢れる落ちる。

「ギシャ」
「アアアア」
「ギィイイイ」

 地面に落ちた瞬間、生物が幾つにも分かれて、一つ目の生物群になる。

「散開」
「「「ギィイイイイイ」」」

 僕がそう命令すると目玉達は、素早く山の中に入っていった。

「見えてきた見えてきた」

 暫くすると幾つもの映像が頭の中に映し出されていく。

「悪いけどこの間は僕何も出来ないから、トレ山さん、スラ助、何かあったら僕を連れて逃げて欲しい」
「合点承知ノ助」
 ガサガサ(了解)
「……」

 スラ助がまたどこからかわからないけど、変な言葉を覚えてきた。

(どこだ……)

 視点がやや低い映像の一つ一つを僕は見ていく。
 流れいる川、いない。
 木が倒れて少しだけ開ている場所、いない。
 岩があり日向が当たる場所、いない……いや……。

「見つけた」

 岩と岩との隙間に出来た洞窟の中から、少しばかり尾が見えた。
 自然界ではありえない長さ、魔獣だ。

「見つけたよ。行こうか」

 僕は能力の接続を切って、早速岩があったところに向かう。

「あそこか」

 少し離れた所から、僕たちは岩の洞窟を見つけた。
 此処からでも岩の洞窟からは尾が見えていた。

「もう夕方だ早く倒さないと」

 暗くなれば、あの魔獣の時間だ。
 あいつを見つけられなくなる。

「“フレアボム”」

 僕は火の魔法を洞窟の出口に向かって放つ、

 ドカン!

 火の魔法は洞窟の床に触れた瞬間に、爆発した。

「ヤッタ!」

 スラ助が嬉しそうにピョンピョン跳ねているけど、それはフラグだよ!

「グラアアアアアアアア!」

 案の定、魔獣は姿を現した。
 姿は狼、しかし毛色は赤で全身が燃えているようだった。

「グル……」

 魔獣は僕達を見つけると一定の距離をとって睨みつけるようにして立っていた。

「“フレアボム”も効いてなさそうだし。魔法に耐性のある魔獣かな」


 僕は自分の武器であるナイフを取り出して構える。
 コレは旅に出る前に師匠に貰った物だ。
 切れ味も良く、なかなかに良い物だと思う。

「グラァ!」

 僕のナイフを見た瞬間、魔獣は俺に飛びかかってきた。

「スラ助、トレ山さんは離れてて!」

 僕はそう言うと、魔獣の下を通りながらナイフで斬りつける。

「グ‼︎」

 しかし、魔獣は痛みを気にする素振りを見せず。僕に噛みつこうとして来た。

「危なっ!」

 僕は咄嗟に躱すが、

「グラァァ!」
「なっ!?」

 魔獣の前足で攻撃して来たのに対処が出来ず、右手全体で受けてしまった。

 カラン

 はたき落とされたナイフが地面に響く。

「っ!」

 右腕にも痛みが走る何処か折れたかもしれない。

「グラァァアア!」

 魔獣は止めを刺そうと僕に噛みつこうとするが、

「“フレアボム”!」

 その瞬間、口に入れる様にして僕は魔法を魔獣に入れた。

「ギャイン!」

 体の中からの魔法には流石に効いたのか、魔獣の口から血が流れる。

「“ハイキュア”」

 僕は回復の魔法を唱えて、右腕を回復させる。
 そしてナイフを拾い、魔獣に近づくが……。

「!!」

 魔獣は踵を返して逃げていった。

「トレ山さん!奴を追って!」
 ガサ!(了解!)

 トレ山さんも猛スピードで魔獣を追った。

「空アソコッテ……」
「うん罠があるよ」

 魔獣が向かった先には罠が幾つも仕掛けてある。

「ガァアアア!!」

 遠くの方から魔獣の声が聞こえたどうやら罠にかかった様だ。

「見つけた!」

 声が聞こえた所には体に何本も矢が刺さっている。あの魔獣がいた。
 けど、その近くには……。

「来るな!お前たち!」

 何故か槍を持った門番がいた。

「何であなたが此処に」

 僕は慌てて近づこうとするが……。

「来るな!」

 門番はそう言って槍を構える。

「後もう少しだったのに!お前たちのせいで!お前たちのせいで!」

 門番はそう言って魔獣から矢を抜く。

「何をしているんだ!」

 僕は慌てて止めようとするが……

「良し!良し!」

 門番は矢を数本抜くと回復の液体を魔獣に流し込んだ。

「何をしてるんだよ!“フレアボム”!」

 僕は慌てて魔法を撃ち込むが、回復した魔獣はヒラリヒラリと交わした。

「凄いな!流石、上級ポーションだ!魔獣を一発で治した!」
「何故こんな事を!」

 僕は門番に怒鳴る様に問いかける。

「俺の家は農家でな!畑仕事の最中に魔獣に殺された!」
「なら尚更わからない!何故そいつを治す!」
「村の奴らが家族を見捨てたからだよ!」
「!」
「村の奴らは知ってたんだ!魔獣が近くの村で暴れているのに!だけど他の奴らを逃す為に俺らの家族を見捨てて魔獣の餌にした!出稼ぎに行ってた俺には魔獣の被害が偶然出た様に装ってな!」

 そうか……。
 この人も切り捨てられた側の人間なのか。
 愛する人達は他を生かすために切り捨てらたのか。

「俺は魔獣が嫌いだ!見ただけで吐き気を催す!だが村の奴らはそれ以上に大っ嫌いだ!だから魔獣を手に入れた!村の奴らが死んでいったのを見て最後に魔獣を殺す!コレが俺の復讐だ!」

 そう言って男は腕輪をかざした。

「これが魔獣を操る道具だ!さぁ奴を殺せ!魔獣!その後は村の奴らだ!」
「グルァアアア」

 男が命令したのに対して魔獣は辛そうにしている。


「どうした!早くやれ!」
「なるほど」

 僕はそれを見て納得する。

「なんだよ!?」

 門番はイライラしてる様だった。

「あなたはそこの魔獣よりも最低なのがわかった」
「なんだと!!」
「魔獣は無理矢理あなたの命令を聞いている。別に聞きたくもないのに隷属させれて!そいつには何の罪も無かった!」
「!!黙れよ!お前も魔獣を殺すだろ!」
「えぇ殺しますよ?僕が生きていくために彼らは必要です」
「なら偉そうに俺に言うな!」
「だけど……僕はこんな命を貶した事はしない!」

 そして、僕は両腕を前に構える。

「“狂気の箱 ”No.3千里眼の狙撃銃サードアイスナイパー
「ギョギョ」

 そこには気持ちの悪い銃が顕現する。

「おい!何をしてんだクソ魔獣!早くこいつらを!!」

 パンパン!

 短い銃声が二回響いく。

「えっ?」

 男は自分の胸元から流れる血に疑問の声を上げる。

「あなたは許されない事をした」
「……えっ?」

 僕の声が聞こえたが、彼は納得いかないと言う顔をする。

「この世界は命が安い。切り捨てなきゃ生きれない。あなたはそれを恨む権利があった。だけどやり方を間違えた」
「……」

 僕の声が聞こえたかはわからないが、彼は目を見開いたまま地面に倒れて死んでいった。

「グ……グ……」

 魔獣の方はまだ息があった。

「君には何の罪も無い。ただごめん。僕が生きていくのに君の命をいただいていくよ」
「グル」

 そう言うと魔獣は目を閉じた。
 抵抗もしない、自分の死を悟ったのだろう。

 パン

 短い銃声が辺りに響く。

「さてと……帰るよ。スラ助、トレ山さん」
「ウン」
 ガサガサ

 男の死体と狼の魔獣を“アイテムボックス”に入れて僕はトレ山さんに乗った。

「ネェ?空?」
「うん何?」

 暗い道の中、トレ山さんの上でスラ助は聞いて来た。

「モシ、トレ山サンヤ、僕ガ死ヌト、誰カガ生レタラ空ハ、ドウスルノ?」
「もちろん。スラ助達を守るよ。その人には悪いけど……僕の中ではトレ山さん、スラ助の命の方が何倍も重たいんだ」
「……」
「嫌だった?」
「ウウン。嬉シイヨ」
 ガサガサ(以下同文)
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