劣等魔術師“口なし”の英雄譚

河内 祐

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故郷

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「それじゃあ行こうか」
『はいマスター』

校長先生に退学の旨を伝えた次の日に、僕達はこの街から離れる。

『“王都大脱出作戦!”いよいよ決行ですね!』
「いや何それ⁉︎初耳過ぎるんだけど⁉︎」
『すみません。暇だったので?』
「なんで疑問形?」

そうやってお互いふざけながら王都の門の一つについた。
門の前には数人並んでいた。

「王都は入るのは時間がかかるけど、出る分には審査とか無いから時間もかからないよ」
『なるほど。指名手配犯が監獄から出でもしたら大変ですね』
「やめて怖いから」
『無理です』
「まさかの否定!」

そうやってアイのボケに僕はツッコミを入れていきながら、僕達の番を待った。

「次の者達、前へ!」
「はい」

ついに衛兵に呼ばれて、僕達は前に進んだ。

「ふむ」

衛兵は三人組で一人は僕達の顔と手元にある紙を何度も見て、余す事なくチェックをして、もう二人は槍で道を塞いでいた。

「人相書き無し偽装系統の魔法も無さそうだな。問題無し!通ってよし!」

そうチェックをする衛兵さんが言うと、槍を退かして道を開けた。

『ふぅ~緊張しました』

それからは道を幾分か歩いて魔術ゴーレムに必要な石を探して最中にアイがそう呟いた。

「そうだよね。ああ言うのって何だか緊張しちゃうよね」
『マスターがうっかりやったがバレたらと』
「何もやってないし。そんなの言うなら昨日のアイの方が何かやってそうだけど?」
『……』
「ねぇ何で沈黙なの?」
『石がありましたよマスター』
「何かあったの⁉︎」
『石です』
「そうじゃない!言語が難しい!……あっ石みっけ」
『マスター急に素に戻られるますね』

アイが何か言っているが今は関係ない。

「アイ、その石頂戴」
『あいあいさー』
「いや普通に頂戴」

僕は貰った石を錬成盤に乗せて、回路を描いていく。

「石は他の鉱石と違って属性魔術には向いてないんだ。魔術の使用に耐えきれずに粉々に砕けてしまう」

僕は回路を描きながらアイに話しかける。
これは別次元からの癖だ。
長年の孤独を避ける為に僕は、簡単な回路であれば難なく描ける様になってから、これをする様になっていた。

『前マスターはそれで魔術で石を使うのをやめていました』

アイも返答をしてくれる。
これもおそらく癖であろう。

「うん。はっきり言って英断だよ。粉々になった瞬間に暴発でもしたら困るし」
『ではなぜ石を?』
「単純に貯蓄出来る魔力量が多いんだ。他の鉱石よりも長期的な運営が可能になる。属性魔術じゃ無ければの話だけどね」
『魔術ゴーレムは属性魔術では無いのですか?』
「うん魔術ゴーレムは属性を持たないよ」

魔術ゴーレムは魔力に形を持たせた魔術で、一番近しい系統は攻撃系統だろうか?

「あとは……これで完成と……」

最後の回路を書き終えて二つの石、全てに回路を描いた。

『この回路だと……効果は“物質操作”?いや“融合”の回路もありますね』
「その通り」

僕は石を地面に埋める。

ゴゴゴ……

すると地面から二台、馬の形をした土人形が出てきた。

『なるほど……石から流れる魔力が周囲の土と融合、その後“物質操作”によって馬の形を成しているんですね』
「正解!」

そう返答しながら、足を折って座っている馬の背の部分に布を置く。

「アイ乗ってみて」
『イエッサー』

そう答えてアイはゴーレムに跨る。
その後、ゴーレムは立ち上がり辺りを少し歩いた。

『ふむふむ……痛くないですし良きですね』

アイはご満悦の様ですごく目をキラキラさせていた。

「そうかそれなら良かった」
『手綱はどうするんですか?』
「要らないよ。ゴーレムだから全部自動操縦で出来てるから」
『便利な物ですね』
「凄いものを作ってしまった」
『自分で言うのですね』

そして、僕もウキウキと作ったゴーレムに乗る。
ゴーレムが立ち上がるとかなり視界が高くなり、少し驚いた。

「僕の故郷に着くまで多分、このゴーレムでも夕方までは掛かるだろうから休憩しながら行こうね」
『それでも大分早いですね。村を三つも超えるとなると王都の交通機関でも二日はかかりますよね?』
「う~ん……乗ったことないからわからない!」
『あっそうですか』

そう言って額を抑えたアイはゴーレムを起動させて、先頭を走っていった。

「て言うか速くない⁉︎凄い使いこなしてるじゃん‼︎」
『マスター!負けた方にキツくて鬼畜な罰ゲームを与えましょう!』
「何で自分有利状態でそんな事を言うの⁉︎」
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