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修行は終わりました。

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「居たか‼︎」
「いえ‼︎まだ発見していません‼︎」
「クソ‼︎」

アークが異次元で修行をしている間、世間では、大騒ぎになっていた。
アークが“始まりの試練”で消えた日、学校側はその事を世間に秘密にし、教師達は無断で“始まりの試練”に入ってアークを探していた。
しかし、それを王都の兵士がそれに気づき、教師達を逮捕、そこから生徒の一人が行方不明になったと言うのがわかった。

「行方不明の生徒は魔法が使えない‼︎魔獣の危険に晒されているのだ‼︎急いで探せ!」
「了解‼︎」

“魔法が使えない生徒”実はこの学校、それすら世間に隠していた。
『生徒が魔法を使えなくなったのは学校側の不手際』そう言われるのを恐れたからだ。その為にアークは魔法が使えないのにダンジョンに行くことになったのだ。

「五階層と四階層に人員を集めろ‼︎ダンジョンは下に行けば行くほど危険度が高い!」
「了解‼︎」

王都の兵士はそれを知り急いで捜索隊を結成した。
魔法が使えれば問題ない。“始まりの試練”は魔法さえ使えば簡単に乗り切れるダンジョンだからだ。
しかし、魔法が使えないとなると話は別だ。
危険度が一気に高くなる。
自分を守る術が無いからだ。

「もう三日目だ……」

本部で、その捜索の指揮をしていた人がため息をつく。

「ダンジョンで飲まず食わず。危険な魔獣。弱った行方不明者は体力的にも精神的にもきつくなっていく。しかも自衛手段が無い……」

“始まりの試練”はそこまで大きなダンジョンじゃない。
三日もかかっいるのに見つからない。
魔獣に全て食われたのかも知れない。

「一緒にいた生徒は何と言っていた?」
「“転移魔法の罠にかかってしまった。守りきれなかった私が悪い”と」

部下の一人がそう答える。
一緒に居た生徒、これはアリス・ホワイトの事だ。
彼女は兵士達に、嘘と事実が混ざった事を言って、自分を“友人を守れずにいた自分を責めている生徒”として演じていた。

「今回は不幸な事故だ。気を落とさないで貰いたいな」

実際に世間ではそうなっている。
彼女は上手く演じたのだ。 
ローグ・キャスパーもアリスのようにでは無いが、上手く操作を切り抜けていた。

「操作は二日後に終了する。それまでに発見出来なければ、行方不明者は死んだ者とする。捜索部隊にもそう伝えろ」
「了解」

部下にそう告げた時だった。

「ご報告します!」

本部に一枚の手紙が届いた。

ーーー


僕が此処に来て、どれくらい経っただろうか?
此処は異次元、世界と世界の狭間の空間。
時に置いていかれず、置いていく事もない空間。

「アイ」
『なんでしょう?』

僕は新しい道具を作りながらアイに聞く。

「僕が此処に来て何年経った?」
『ざっと109年です』
「あれ?」

てっきり、もっと居て5億年ぐらいのものかと思っていたけど……そうでも無いのかな?

『12億と8000年飛ばしますが』
「想像以上に居た⁉︎」

まさかそこまで居たなんて‼︎

『長生きですね』
「年はとってないからね」

此処だと年はとらない。
永遠に生きるのが可能だ。

『ていうか何を作ってるんですか?』

アイは不思議そうに僕が手元で削っている木の枝を見る。

『前マスターの研究書には、その様な物がありませんでしたが?』
「これはね、自作の魔術道具だよ」
『自作?……自作なのですか⁉︎』
「うん」

アイが凄くびっくりしていた。
何億年と過ごして、アイがだいぶ感情豊かになってきた気がする。
さっきも冗談を言っていたし。

『マスターが自分から新しい物を作るなんて……』
「その言い方だと僕が怠け者みたいなんですけど⁉︎」

そして、僕をからかう事も多くなった。

「檜の杖に朝顔の蔓を絡ませて」

僕は新しい道具をどのように作っていくのか。
工程を説明していく。

「植物から抽出した染色液を使って青くする。そして魔術回路を作る」

僕はそう言って錬成盤に置き、回路を書いていく。

『フムフム』

アイはそれを興味深く見ていた。

「そして……!回路の上から赤い塗料を塗る!」
『ナンダト⁉︎』

アイものってきた。

「そしてそして!更に回路を‼︎」
『あっ……回路は落ち着いてやりましょう』
「…………はい」

そっちも乗ってきたのに‼︎

「……」

僕は魔術回路を書き上げる。

『それで……マスターこれには一体どの様な効果があるのですか?』
「秘密」
『えっ?』
「来たる日に教えるよ」
『なんですか⁉︎それ⁉︎』

僕はツッコミをするアイを尻目に、次の事を始める。

『ちょっとマスター‼︎』

アイのツッコミが後ろから響いた。

そして翌日。

「アイ……心して聞いてほしい」
『はい』

僕の真剣な表情を見て、アイも真剣な雰囲気を醸し出している。

「僕は今日、此処から出る」
『‼︎』

僕の発言にアイはピクンと震えた。

『何故ですか?』

それは少し怒声の様にも聞こえた。

「君の前マスターの研究書を僕は完全に理解した。魔術の訓練も欠かさずやってきた。もう、僕は此処では……」

その時に思い出す。
“口なし”。
そう言われて蔑まれいた日々を……。

ー行くのか?
ー役立たずのお前が?
ーなんのために?

幻聴が僕に囁く。
此処から出て僕を帰そうとしないように。
……だけど。

「僕は行く。もう全ての魔術を知った。出来ることが増えた。僕はもう……」

そこで息を吸う。
嫌な物を内側から出す様にする。

「“口なし”なんて言わせない」

そう言ってアイを見る。

『そうですか……わかりました』

アイは僕の周りを飛ぶ。

『マスターは此処から出る事が可能な資格を有しています。……此処から出ていかれるのは少し寂しい気もしますが……時がその悲しみを流すでしょう』
「何言ってんのアイ?君も行くよ?」
『エっ?』

アイの言葉にそう返した僕にアイは変な声を出した。

「なんで、そんな悲しそうな雰囲気を出すの?」
『えっ?」
「僕が此処で何年、何千、何億とこの広い世界で生きていけたのは……アイ……君のお陰なんだよ?」
『えっ?』
「そんな君を僕が置いていくと思う?そんな事しないよ?一緒に来てもらうよ?」
『えっ?』
「さっきから同じ返答しかして無い⁉︎バグった⁉︎」
『えっ?』
「バグった‼︎」
『しかしマスター』
「あっ戻った」

元の調子に戻ったアイの話を僕は聞く。

『私はこの通り、マスターの様な体がありません。あるのは膨大な記録と声だけです。マスターの世界では恐らく生きていけないでしょう』
「大丈夫だよ。アイ専用の道具を作ったんだから」
『えっ?』

またアイがバグってきたので急いで道具を用意する。

『マスターこれは?』
「これがアイに送る道具」

そこにあったのは女性の形をしたマネキンの様な物だった。

「アイって声が女性だから。やっぱり女性の形をした方が良いかと思ってこういう女性の形にしたよ」
『へー』

そう言ってアイは……。

「何を見てるの?」
『いえ……謂わゆる女性の象徴と言うべきか、母性の象徴とでも言うべきか……そこの大きさが……あまり……』
「?」

僕は何が言いたいのか分からず首を傾げる。

「この道具は、何処にでも行けるように無駄な機能は一切付いていないから。特に問題無いと思うよ」
『……なるほど……そういうことですか…………』

アイは何故かあまり釈然としている様に見えなかったけど、使ってくれたら良さがわかるだろう。

「道具の中に入るには胸部に近づけば良いよ」
『了解しました』

そう言ってアイは道具に近づく。
すると、胸部の部分が開き、アイが入れる程の隙間が中にあるのが分かる。

「どう?操作出来る?」 

胸部が閉じて女性の形になったアイに僕は話しかける。

『はい。接続が完了しました。操作可能です』
「よかった」

アイの返事に僕は旨を撫で下ろす。

『マスター』
「なに?」
『ありがとうございます‼︎」
「むぎゅ‼︎」

そう言ってアイは僕に抱きついてきた。

『マスターが修行を終えて、此処から出た時に私はまた一人になるかもしれないと思っていました!前マスターに指示させれて此処に残った時から妙な虚しさを私は感じていました!今ならわかります!あれは“寂しい”だったんですね‼︎そして今の気持ちもわかります‼︎これは“嬉しい”ですね‼︎』
「そうなんだ」
『はい!ありがとうございます!マスター!』
「僕もありがとうね。アイ」
『?』

僕の発言にアイは不思議そうに首を傾げる。
人形の体を持って、感情がよりわかりやすくなっている。

「さっきも言ったけど。僕はきっと孤独には耐えれなかった……」

学校でも、アリス・ホワイトが居たから僕は頑張っていけたんだ。
例えそれが嘘だったとしても。

「アイのお陰で僕は外に行く為の手段を持てた。そして……アイのお陰で僕は死なずに済んだ」
『マスター……』
「アイ、これからもよろしく頼むよ」
『はい!よろしくお願します‼︎マスター』
「じゃあ出ようか‼︎」
『はい‼︎』

そして、僕は一本の杖を取り出した。
それは赤く塗られた木の枝と蔓だった。

『それは⁉︎』
「そう‼︎昨日作ってた道具だ!」

僕は杖に魔力を込める。
すると、足元から光り輝く粒子が飛び回る。

「アイ。君の前マスターはきっとこの方法を考えて居たよ」
『⁉︎』

だけど、研究書には書かなかった。
その理由はアイを此処に残す為じゃない。
アイを……この修行を乗り越えるのに必要な物を大切にしてくれる人を選ぶ為に書かなかった。
アイを大切に思うのなら、人形も杖も書かなくて!

「この方法を思いつく‼︎」

僕がそう叫んだ瞬間、杖に絡まっている朝顔の蔓から朝顔が咲き始める。

「行くよアイ!」
『了解しました!』

その瞬間、僕達は消えた。
そして、僕の修行の場は音もなく崩れていく。
もう誰も此処には来ない。

ーーー

「行方不明者を探せ‼︎」
「何処だ⁉︎」

ダンジョンには沢山の捜索隊が動いていた。

「ちくしょう‼︎何処に居るんだ⁉︎」
「魔獣の巣もよく見とけ!運ばれたかも知れない!」

その時だった。

ゴゴゴゴゴゴ……

地面が突然、揺れだした。

「なんだ⁉︎何が起きている!」
「班長!地面にヒビが‼︎」
「なに⁉︎」

地面に無数の亀裂が走る。

「退避だ!退避ー!」

班長の命令で一斉に逃げる。

ドカン!

そして、全員が地面から退いた瞬間、地面が爆ぜた。

『マスター、もっと安全な方法は無かったのですか?』
「ごめんなさい」

そして、穴から二人の人間が出てきた。

「班長、あれって……」

近くで見ていた班長とその部下が話す。

「ああ!間違ってない!捜索写真の通りだ!」
「「「よっしゃああああ!」」」

それを聞いて近くにいた人達は一斉に歓声を上げた。

「えっ⁉︎なになに⁉︎」

それにアークは完全についていけてなかった。

『とりあえず殲滅しますか⁉︎』
「駄目だからね⁉︎」

ーーー

「ご報告します!」
「何だ‼︎」

手紙を持ってきた部下を見る。

「本日!午後四時頃に行方不明者と女性を発見しました‼︎健康状態は二人とも良好です‼︎」
「おお!見つかったのか⁉︎」
「はい‼︎“始まりの試練”第六階層で!」
「第六階層⁉︎」
「“始まりの試練”は実は第六階層!行方不明は『そこに転移した』と言っています‼︎」
「わかった‼︎大至急応援部隊を送る!行方不明者達は保護も続けろ!」
「了解しました!」







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