大魔導師と賢者

河内 祐

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白銀の街“世界樹”

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これは不思議だ。

「いや~ありがとうございます。もうダメかと思いました」
「そうですか」

声がしている場所は確かに僕の目の前にあるはずだ。

「研究に夢中になり過ぎてしまって……」
「体の管理も大切な仕事ですよ」

けど僕の目の前には、その人がおらず有るのは。

「はい。気をつけます」

そこにあるのは、壁の様に築かれた皿の山、壁の向こうでは、まだハフハフと食べている音が聞こえてくるのだが、えっまだ建設すんの?

「そもそも何を研究していたんですか?」

ここまで、この人を熱中させた物はなんなのか?気になり思わず聞いてしまう。

「“人工魔導結晶”についての研究です」
「へぇ……」

魔導結晶とは言うなれば“魔力の鉱石”だ。
大きさ、色、様々でこれを加工すれば様々な魔力を流すだけで魔法を使う魔法道具を作ることが出来る。
僕が一度、ガードナーと連絡を取ったのは、魔導結晶を用いた道具なのだが……。

「“人工”とは大した物ですね」
「そうでしょう!そうでしょう!」

この魔導結晶……あまり取れない希少な鉱石なのだ。

「何人もの魔法使いがこの結晶を生み出す為に挑戦してきました!もし、この魔法が成功すれば世界の文明は大きく発達します!」
「おお……頑張ってください」
「ご飯ありがとうございました!」

そう言って、こちらに顔を見せてきた。
その人の顔は茶髪が目までかかっており目が見えなかったが、鼻にそばかすがついており、それ以外には特徴が無かった。

「いえいえ……次から気をつけてくださいね」
「はい!」

元気よく返事をした後、その人はまたさっきまでいた席に座った。

「えっ?研究室に戻らないんですか?」

もうお開きな空気だと思ったのだが。

「あっ!いえ、命の恩人のあなたが席を立たなかったのでてっきりまだお話があるのかと」
「単純に私がお腹を減らしているだけです」

結局、あれから食べれてないし、ここでご飯を食べることにした。

「あっ!そうなのですね!」
「えぇですから、あなたに別に話があるわけでは無いので、もう研究室に戻って大丈夫ですよ?ここは私が払いますから」
「何から何まですいません……お名前をお聞きしても?」
「“秋明菊の大魔導師”エメル・サフィスです」
「大魔導師様なのですね⁉︎」
「えっ!はいそうですが?」

あまりの鬼気迫る表情にやや驚き気味に返事をする。

「お願いです!私の研究の手助けをしてください!」
「………………へっ?」

あまりの展開に僕は変な声が漏れた。



「実は私の研究、行き詰まっているのです」
「そうなんですか」

まぁ沢山の魔法使いが散っていった研究だ。そう簡単にはいかないだろう。

「魔法陣を使い術者の魔力から魔導結晶を作り出す術までは思いついたんですが」
「魔法陣が発動しないのですか?」
「いえ……魔法陣は作動するのです」
「?なら問題ないのでは?」

魔法陣を使った魔法は魔法陣が作動すれば100%発動する。もし作動しないなら魔法陣に問題があるが作動するとなると……。

「うーん……ちょっとその魔法陣を研究室で見せてくれますか?」
「えっ良いのですか?」
「良いですよ。ぶっちゃけ暇だったので」

その後、僕は料理を食べ終えて研究室に向かった。
物足りなさも、多少は消えたと思う。

「研究室は何階ですか?」
「45階です」
「使用した魔法陣の型は?」
「設置型5重魔法陣 附属魔法陣付きです」

研究室に向かいながらその魔法陣について少しでも知ろうとする。

「設置ならまだ重ねれますね」

魔法陣は基本的に、円の上に重ねるように大きな円を描き、そこに文字などの記号を記して魔法を描く。
円が多ければ多いほど魔法陣は効果は大きくなるが、それを安定させるために多くの記号、文字が必要になり、作るまでに時間がかかる。

「そうなのですが、円を新たに作ると何故か効果が発揮できなくなるんですよね」
「……なるほど、だから附属魔法陣を用意したのですね」
「はい」

附属魔法陣とはメインの魔法陣を補佐する役割があり、たいていメインの魔法陣より小さい。

「付属魔法陣には“魔力を設置型に集中させる”ようにしています。そしてメインの設置型魔法陣には“集中した魔力を物理的に固めるようにする”ように設定しています」
「なるほど」
「あっここです」
「お邪魔します……うぉ」

案内された研究室には床一面に大きく魔法陣が描かれていた。
魔法陣には真ん中に5重に書かれた魔法陣を囲むように四方に小さい魔法陣が4つ描かれていた。
それこそ隙間が無いような状態だ。

「この魔法陣を起動してみても?」
「はい。大丈夫です」

僕は彼女の返答を聞き。
早速、魔法陣に魔力を流してみた。

ブォン……

「む」

魔法陣は問題なく機能した。
しかし、肝心の魔導結晶が出てこない。
と思っていたが……

「なるほど」
「え?」

僕はそう小さく呟くと、魔力をもう一度、魔法陣に魔力を流す。
しかし、今度は魔力の魔法陣に流すだけではなく。

「もっと、魔力が魔法陣で、渦巻く、ように」
「あっ!」

それを見て、彼女が驚きの声をあげる。

「なっなんで⁉︎」

そこには小さいながらも魔導結晶が魔法陣から生まれていたからだ。

「今回のあなたの考えは悪くありませんでした」
「では何故……」
「あなたの付属魔法陣ですよ。問題があったのは」
「えっ?」
「付属魔法陣には“魔力を設置型の魔法陣に集中させる”ようにしていた」
「はい」
「しかし、それだけではダメです」
「⁉︎」

僕の言葉に彼女は驚いたようだ。

「付属魔法陣から流れた魔力の向きが真っ直ぐ中心へ結果4つの魔力の流れ全てがぶつかり合う結果になってしまいました」
「あっ!なるほど!」

彼女は目から鱗という表情を見せてきた。

「お互いにぶつかり合って消滅、もしくは霧散してしまったのですね!」
「正解です、後は付属魔法陣に魔力の流れを設定すれば誰でも魔導結晶を作れますよ」
「ありがとうございます!“秋明菊の大魔導師”様」
「いえいえ」

これは明らかに彼女の功績が大きい。
僕は最後にほんの手助けをしただけに過ぎない。
僕等が研究の成功に喜んでいるその時だった。

バン!

突然、勢いよく扉が開いた。

「なっなんだ⁉︎」

僕は咄嗟に魔法陣を描く。

「ご安心をエメル・サフィス様」

そう言ってフードをぶ厚く被って顔を見せない人達が大勢部屋に入ってきた。

「私たちはあなたの敵では無いですし、むしろ味方です」
「……はい?」

全く信じられない言い分なのだが?
いきなり部屋に入ってくる人たちだし。

「“はい”とは同意ですか?」
「いやいや違います」

妙に天然か?この人。

「私たちはあなたの隣にいる人の部下です」
「となり?僕の隣にはは先ほどまで空腹で倒れていた人しかいませんよ?」
「「「……その人です」」」

僕の発言にフードを被っていた人たちは苦渋の決断をするかのように肯定した。

「その大魔導師エメル・サフィスさん」

僕の隣にいた彼女は僕の袖を引っ張る。

「はい?」
「合格です!」
「……えっ?」




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