大魔導師と賢者

河内 祐

文字の大きさ
上 下
10 / 17

クリーミー花のルーティン(前編)

しおりを挟む
太陽が燦々と輝き、オイラ達のいる建物を照らし出す。

「おはようございます。イルミさん」
「おはようなのさ」

オイラの朝のルーティンは、この男の声から始まる。
結局、オイラは名前を言いこの塔にいる。
寄生する生物がいなくなった今、オイラは特にこれといった行動をする必要も無くなってしまったからだ。
花を咲かせるにしてもオイラの一生よりもこいつらの方が早く死ぬ。
ゆっくりやっていくさ。

「はぁ~」
「欠伸が長いのさ」
「もうすぐ、魔導連盟の“世界樹会議《ユグドラシル》”がありますからね。研究成果や開発した魔法を見せる為のレポートを作っているんですよ」
「“世界樹会議《ユグドラシル》”?」
「まぁ有り体に言って報告会ですね。魔導連盟の支部や本部に行ってレポートを提出。数日経って、そのレポートの結果が届きますね」
「結果が悪ければ?」
「まぁ資格剥奪ですね」
「うへぇ大変なのさ」

そんな会話をしながら、この男“エメル・サフィス”はオイラに水をかける。

「まぁ私やマウグスレベルの魔法使いはそうそう剥奪されませんよ」
「何故なのさ?」
「使えるからです」
「身も蓋もない」
「事実なので」

利用価値がある人間は大変なのさ。
そう思いながら、オイラは歩き出した。
行くのは竃なのさ。

「花なのに火に燃えないって不思議ですね」
「オイラ達は魔力が体の表面に膜のようにあるから、火を寄せ付けないのさ」
「なるほど」

竃から火をつけながら、卵を四つ割りフライパンに乗せて、端がカリカリになった時に皿に移す。
そしてソーセージを数本焼いてそれぞれの皿に盛り付けてトマトなどの野菜を乗せて終わり。
その間にエメルはパンを焼き、コーヒーを用意していた。

「あなたがいるおかげで大分楽ですね」
「そうだろうそうだろう」

皿を机に移動させて、オイラたちは朝食を摂る。植物もご飯を食べるのさ。

「植物は排泄をしませんよね」
「100%摂取できるのさ」

それでも摂取が出来ない奴もある。
その時は吐いたりして体から出されるのだ。

「ここら辺の食べ物は食べやすいのさ」
「それは良かった」
「おお~いい匂いです」

朝食を食べ始めると丁度、金髪の女“モア”が降りてきた。髪がなかなか芸術点が高いことになっている。
この女にはなぜかオイラの寄生が歯が立たなかったのさ。

「イルミさんが来てから、料理が美味しくなりましたね」
「そうですね」

そう言って、この女はガツガツご飯を食べる。それを見ると作っている方も悪い気はしないのさ。

「マウグス遅いですねぇ」
「主、何故か今までの研究成果レポートを手直ししていました」
「彼女も“世界樹会議”に来るのですかね?」
「賢者なのに?」

この世界の“賢者”や“大魔導師”についてはエメルに教えてもらった。
知っている分、あの女の行動理由がわからない。
賢者は何もしなくて良いはずなのさ。

「“賢者”も報告は出来ますよ?作った魔法の権利を有する為に」
「なるほど」

そうか、人の世は色々と大変だったのさ。
……アイツの家も色々とあったし。

「しかし、マウグスが書いたレポート……気になりますね」
「そうなんですか?主の魔法が気になるんですか?」
「それもありますが一番は“彼女が書いた”というところです。彼女は基本“自分さえ理解すれば良い”のスタンスなので、他者に理解させようとなると彼女は大変なのですよ」
「主にそんな悩みが!?」
「それは意外なのさぁ」
「彼女は突拍子の無い物を創造するのに長けていますが、他者がそれを理解するのは難しいですね」
「エメルさんもですか?」

ふと気づいたようにモアはそう言った。

「僕は……まぁ……他者よりは理解できますね」
「うむ!流石、私のライバルだな!」
「おや、おはようございます」

エメルがそう答えた時に、黒髪の女が降りてきた。

「モア……凄い髪型だな」
「……流行です」
「嘘つけ!」

黒髪の女、マウグスの言葉にモアが口を尖らせてそう言ったが意味がなかったようだ。

「しかし、エメルが私をよくわかっているようで、私は嬉しかったよ」
「そうですか、それは何よりです」
「つれないなーもう」
「ツンツンしないでください」

自分の理解者がいて嬉しかったのか、マウグスは凄いエメルにツンツンしている。
何処か微笑ましささえ感じるこの光景も。

「やめろやぁああ!」
「フハハハハ!器が小さいのがバレたな!」
「あなたじゃなければ、あと数分もった!」

すっごい喧嘩が始まるのである。

「イルミさんは今日は何をするんですか?」
「この塔の管理補佐なのさ。蔵書の管理とか」
「良いですねぇ。平和ですね」

それを横目にオイラ達は朝食を食べ終え、食器を洗い始める。
その時だった。

『ビー!ビー!』

突如として、警報が辺りに鳴り響いた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...