大魔導師と賢者

河内 祐

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ペットでは無い!

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花を咲かせないと。

日がガラスを透過して、オイラたちがいる場所を余すことなく暖める。
ここは植物の楽園、自分たちを食らう存在のない安寧の場所。

「ねぇ……イルミ」
「どうしたのさ」

そんなところの中央に石畳で作られた広場があった。
彼女はそこで、白い机に書を白い椅子に自分を置いてゆっくりとした時間を過ごしていた。

「私はもう長くないのかしら?」
「どうだろうね」
「あっさり言うわね。もっと悩んでよ」

めんどくさいなぁヤンデレか?

「植物のオイラに聞いても意味ないぞ?オイラの一年があんたら生き物の十年なんだからな。そう考えるとみんな早死にさ」
「そうねー……植物換算だと私は何年生きれる?」
「一ヶ月」
「結構短いわね」
「お前はそれほど儚い花さ」

そう言ってオイラは葉を伸ばして、彼女の手に触る。

「お前からは生命力を感じない。もう散るさ」
「……ねぇイルミ」
「何さ?」
「私が死んだらどうする?」
「何もしないさ。何もここで枯れるのもいいかもしれない」
「ダメよ?私より長生きして?」
「……再会まで長そうだなぁ」
「そうよ。貴方は百年よりも千年よりも長生きして。そして……天国に行く私に満開の地面を見せて?」
「良いさ約束してやる」

そう言ってオイラは彼女の頬に優しく触れた。
植物のオイラがわからないほど彼女の頬には熱が無かった。

「さよなら。私の綺麗な花よ」
「さよなら。オイラの儚く無垢な人よ」

そう言ってオイラたちは二度と会う事が無かった。

花を咲かせないと。
君が天国にいるのなら

「う~ん」

暗闇から目を覚ますと声が聞こえてきた。

「どうしますか?」
「すり潰すのが無難じゃないか?手引書にもそう書かれてるし」
「すり鉢が貴方の爆発でないんですが?」
「ピーヒャラピーヒャラ」
「独特な口笛で誤魔化さないでください。捻って揚げますよ?」
「こらこら私を料理するな」
「主が料理されようとどっちでもいいので早く薬を作りませんか?」
「おーいモア?最近、私に冷たくない?」
「安心してくださいいつも冷たいです」
「……」
「あっこれは本気で傷ついてますね」

近くには、金髪の女、黒髪の女、それに銀髪で眼鏡をかけているやつもいた。
黒髪の女は口を尖らせているが、あいつの言葉からはあまり正当性を感じない。

(今は……何かの揉め事か?逃げるなら今か!!)

そう思ったが吉日、早速行動に……

「あっ目覚ましてますね。この花」
(何で気づいんてんのさ!?もう少し時間をおけ!今、逃げようとしてただろうが!この眼鏡が!)
「今、こいつお前のことを眼鏡と罵倒してたぞ」
(なんでわかるんだよ!!この黒髪ゴリラが!)
「誰がゴリラだ!」
「だからなんでわかるんだよ!」

もう耐え切れず、ツッコミをしてしまった。

「あっ……」
「「「……」」」

ダッ!

「あっ逃げましたよ!!」

脳味噌寄生不可女がなんか言ってるが、こちらはスルー逃げないと殺されるし!

「あっ大丈夫ですよ」

眼鏡が何か喋ってるがスルーだ!スルー!

「逃走経路となる道の大半に罠があるので」

ポチ

「へっ?」

足が何かを踏んだ気がして、ついオイラは下を見た。
カッと床が光って……

ドゴン!
「ホゲええええええ!!」

そこでオイラの意識は途絶えた。

ーーー

「どうなってるんだぁああ!?」

僕は目の前の光景に頭を抱える。

「すっごい爆発でしたね」
「おかしい!僕のトラップの魔法はあんな威力じゃありませんでしたし!そもそも爆発なんてしないはずでした!」
「私のおかげだな!」
「お前かぁああ!」

そう僕はツッコミをするが、わかっていた。わかっていたさ。目の前で「ドャァ」としているこの女は誰も彼もが恐る殺し屋よりも厄介な女だとわかっていたのに!勝手に魔法陣くらいこいつならいじるだろうに!

「全ての魔法陣をいじる事は出来なかったからな。クリーミー花の運のなさがわかるな」
「そうですね。モアさんと僕もきっと運の女神に見捨てらているのでしょうね」
「こらこら。目の前にいる全ての元凶に聞こえる様な声で言うじゃ無いよ」
「自分から言うのか」

僕は、はぁ~~~と長いため息がもれる。

「それで……この花どうしますか?」
「そうですね。モアさんの魔法解除に使うためにもすり鉢が必要なのですが……」

僕はチラリとマウグスを見る。
マウグスはテヘペロとし、頭にコツンと手を置くが、その手を重めの石に変えてやろうか?

「すり鉢を買うにしても街まで遠いし、瓶に詰めて逃げれない様にしときましょう」
「はい」

とりあえずはすり鉢が手に入るまで、クリーミー花を閉じ込めることで、ことなきを得た。

はずだった。

始まりはその次の日だった。

「なぁメガネさんよぉ……オイラをここから出して欲しいのさ」
「ダメです」

クリーミー花は目を覚まして、僕らとコミュニケーションを取る様になっていた。

「すり鉢じゃない方法でも魔法の解除をオイラ達は出来るからさ。解除出来たら解放してくれない?」
「それは大変、魅力的な案ですが、貴方が嘘をついてる可能性があるので、少なくともすり鉢をゲットするまで、貴方を逃すつもりはありません」
「暇なのさ~。頼むよ~」
「では、僕の愚痴話を聞いてください」
「うわ。数ある解決法のうち、返しに困る話を選択する意地の悪さオイラは嫌いなのさ」
「なら暇を満喫してください」
「わかったよ!聞いてやるのさ」

それが問題だった。
クリーミー花にとりあえず日頃の愚痴話を聞かせる様になってしまう様になってしまい。

「それでさぁ……マウグスがさぁ……」
「うんうん……それは辛いのさ。吐いて楽になるのさ」
「私の主、今日も色々と爆破して」
「辛いよなぁ……あんたはよく耐えてるのさ」

クリーミー花に、モアさんと僕はマウグスの愚痴を言う様になってしまった。
もう場末のバーみたいになっている。

「ほら……お酒を注いでやるからさ。もう飲んで忘れるのさ」
「「あ~リィ~がとぅ~」」
「呂律が大ピンチになってるのさ……」
「そういえばですねぇ。通販で買ったすり鉢が明日届きましたから。貴方、死にたくなければ、魔法解除の方法をふkfdるhvっっdhczdrgcxdですよ」
「終盤何を言ってるのかわからなかったのさ」
「サフィスさんが言おうとしたのは、ぐうfjkfzせうxsyjcxですよー」
「全くわからないのさ⁉︎」
「あってますよモアさん」
「合ってないのさ⁉︎」
「「グゥ……」」
「寝ちゃったのさ⁉︎」

そして、次の日、

「あ~二人ともそこをどいてくれないか?」

そこにはすり鉢を持ってこちらに向かってくるマウグスがいた。

「主!ここには何もいませんよ!」
「嘘をつくな」
「ダメですマウグス!」
「何がダメなんだエメル。お前も見ただろう?クリーミー花はすり鉢以外にも花びらから色水を取り魔法陣につけると解除するという方法があると言っていたが失敗したぞ!」
「このままではクリーミー花に日頃、貴方の愚痴話を聞かせてストレス発散という素晴らしい方法が無くなります!“知恵の塔”にはクリーミー花は必要なんです!」
「凄いな!まるで陰口を叩かれているのを知った様な気分だ!」
「主!しっかり私たちが責任を持って飼うので!」
「オイラはペットじゃないのさ!」
「モアがそういうなら仕方がないな!大切に育てるんだぞ!」
「はい主!」
「なんでさ⁉︎」
「魔法の解除は後回しになるぞ!」
「問題ないです!」
「しっかり散歩に連れて行けるか!」
「はい!」
「飼って良し!」
「だからオイラはペットじゃないのさ⁉︎」





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