大魔導師と賢者

河内 祐

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クリーミー花は虫の息

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『コロス!!』

蜥蜴はそう言うなり巨大な自前の尻尾で僕達を吹き飛ばそうとした。

「うお!」
「きゃあ!?」
「ぐえ!」

マウグスが攻撃を受けたがそんなの知ったこっちゃない!

「発射!」
『!?』

目くらましの魔法をかけて蜥蜴が混乱している最中に奇跡的にしゃがむ事によって尻尾を回避したモアさんを連れて僕は近くの棚を倒して結界を貼り避難する。

「何ですか!?何であんな蜥蜴モドキモンスターがいるんですか!?」
「わかりませんよ!」

何であんな危険生物が此処に来たんだ!?

「それはだな……」

ズルズルと匍匐前進しながらマウグスが僕達が避難していた場所に入ってきた。

「あっ生きてたんですか」

てっきり死んだかと。

「あんなので死ぬほどマウグス様はやわではない!」

そう言って元気なのを見せるかのように、体を動かす。ふむ確かに問題無さそうだ。

「あそこを見てみろ」

マウグスはそう言って蜥蜴の足元を指差す。

「あっ!あれって!?」

モアさんから驚嘆の声が出る。
そこには僕達が最初森を行くのに使った魔法陣があった。

「多分、森であいつと魔法でドンパチやった時にお前の魔法陣が魔力に反応してあの蜥蜴をこっちに輸送してしまったんだ」
「何ですかその不幸のピ●ゴラスイッチは」

まさかの展開に僕はつい呟く。

「そして、これは幸運でもある」

マウグスは笑顔で僕達を見る。

「私に作戦がある」
「良い案なのに五百ゴールド」
「僕もそれで」

願をかけるように僕達は賭けをするが……。

「今!!あいつがいる!イコール!あいつをぶっ殺してあの花を奪おう作戦だ!」
「「ああ……やっぱり」」

世の中ままならないなぁ……と僕達から深いため息が出る。

「作戦でも何でもない作戦をあたかも作戦であるかのように言うし」
「ペテン師ですね」

更に深いため息が漏れそうになった。

「あっ」

しかしマウグスはそんなのお構いなしだった。

「エメル……あいつ魔法唱えてるぞ」
「えっ?」

マウグスの言葉に耳を疑った。

「ほら見ろ」
『我が敵を喰らえ”!』

マウグスが指差している所では既に魔法が唱えられていた。
光のビームが僕達を貫く為に結界を壊そうとしていた。

「さぁエメル」

マウグスは笑顔で僕を見た。

「どうする?」

ピシ

結界にヒビが入った。

「うぉおおおお!?」

僕は急いで魔法陣を描く。

「発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射!」

それはもうがむしゃらに魔法陣を書いては、壊れてきた結界を補強した。
壊れては直し、壊れては直し壊れては直しを三十回は繰り返してやっと相手のビームが終わった。

『フン!』

結界の向こう側から蜥蜴の声が聞こえた。
普通に喋れるんかい!!

『良クゾ!我ノ魔法ヲ防イダ!』

蜥蜴は僕達に近づく。

『シカシ!奇跡ハ一度!次ハ死ヌ!』

そう言って蜥蜴は魔法の詠唱を始めるが……

「死ぬのはなぁ」

僕は蜥蜴を呟く。

「あなたの方だ!」
『?』

蜥蜴は意味がわからないと言う風に首をかしげるが……。

『!!』

それもすぐ終わった。
蜥蜴に顔色があるかはわからないがあの時はかなり焦っている様に見えた。

「山を食らうのは東をはしる兎!」

蜥蜴は僕達を見ていた。
正確に言えば僕の後ろだ。

「陽を溶かのは西を歩く亀!」

そこには詠唱をしているマウグスがいた。
彼女は僕が結界の補強をしている間からずっと強力な魔法を生み出す詠唱をしていたのだ。

『ヤメロ!』

蜥蜴は尻尾や爪で結界を壊す。

「だけど……」
「今一度、月夜に酒を交わすのは旧知の友!そこに奇跡を見せろ”!」
「もう遅い!」
『グワァ!』

詠唱を終えたマウグスの魔法が蜥蜴を襲い、蜥蜴は壁や床に跳ね回った。
最初は足をじたばたと動かしていた蜥蜴は最後には何も動かさなくなった。

「良し!」

僕は蜥蜴を倒した確かな手ごたえを感じて思わずガッツポーズを取る。

「さてと……クリーミー花を回収せねば、モア手伝え」
「はい!」

モアさんは元気よく返事してマウグスと一緒に蜥蜴の所に向かう。

「これですね」

モアさんは蜥蜴の頭に生えているクリーミー花を見つけて早速抜こうとする。
その時だった……

『とう!』
「えっ!?」

なんと花が動き出してモアさんの頭に根っこを張ったのだ!

『ふははははははは!!とうとう人間の体を手に入れたぞ!』

花からはそんな威勢のいい声が響く。

「お前は誰だ!?」

マウグスは花に問いかける。

『おいらは、さっきまであの蜥蜴に寄生していたクリーミー花さ!!こいつを乗っ取ってやったぜ!』
「なんだと!?」
『おいらたちクリーミー花は元々、生物に寄生しそいつの肉体を操作し、生命力を食っていく植物なのさ!おっと眼鏡の兄ちゃん!魔法を撃とうするなよ!そしたらこいつが死ぬぞ!』
「ちっ!」

僕はクリーミー花に狙いをつけていた魔法陣を解除する。

『さてと……早速、こいつの生命力を奪おうかね』

そうクリーミー花がニヒルに笑った瞬間だった。

「ひぃあ!?何ですかコレ!?」

モアさんが突然動き出した!

『えっ!?ちょっ!?なんで動くのさ!?おいらの根でお前は動けないはずたろ!?』
「嫌ー!頭から変な声が聞こえてきますぅうう!?気色悪い!?」
『変な声とは失礼だな!?いいか!おいらはな……』
「ひぃあ!声が返答してきたぁあ!」

ガンガン!

『ぷべら!?』

モアさんは頭を壁に振り回してクリーミー花が壁にぶつかり怪我を負った。

『ちょっ!?ヤメロ!?』
「消えろ!変な声もろとも消えろー!』

ガンガンガンガン!

『ねぇっ!』
「消えろ!消えろ消えろ消えろ!消えろ!」

ガンガン!

『ほんと……』

ガンガンガンガン!

『まっ……て……』
「モア……もうやめてやれ……」

最後の方にはクリーミー花はほとんど虫の息になっていた。

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