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私の罪・長尾有美
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和気藹々とした雰囲気だった。
私は磐城君の優しさを感じて、みずほが羨ましくなっていた。
私のエースだって優しいけど、私だけのエースじゃないんだ。
彼は学校のヒーローだから独り占めには出来ないんだ。
私は磐城君が見えなくなった後も手鏡を見ていた。
私の罪さえ忘れさせるほんわかした気分だったからだ。
でもそれを一掃する出来事に遭遇したのだ。
何気に見ていた手鏡の中に見覚えある顔が写り込んだのだ。
クラスメートの町田百合子と福田千穂だった。
私は慌てて手鏡を鞄にしまった。
(あの二人、こんなに仲が良かったっけ?)
それは見たことも無いような不思議なツーショットだった。
私は二人を観察しようと椅子に身を潜めた。
磐城君がカフェに戻ったのはそれから暫くしてからだった。
あろうことか、磐城君はいきなり私の肩を叩いた。
――ビクッ!?
その途端、心臓が跳びはねた。
『ん!? もうー、びっくりさせないでよ!』
磐城君を見ると、私の声に驚いて思わず後退りをしていた。
『ごめん』
『ごめんじゃないの』
私は勢いで上がった肩を少しずつ下ろし、胸の辺りを手で押さた。
磐城君余りに早く戻ったからた。
私はすっかり油断していたらしい、だから声が裏がえってしまった。
『もうー、気付かれちゃうじゃない』
やっと落ち着いた私は磐城君を叱り始めた。
『気付かれるって、誰に?』
『ホラ、あの二人』
私は今まで見ていたボックス席を指差した。
『どれどれ……』
磐城君は私の指の先を目で追った。
『そんなことよりあの二人よ。何かおかしと思うんだけど』
私が目をやると、例の二人はまだいた。
さっきカフェの中に入った、町田百合子と福田千穂だ。
『ねえ磐城君。女装探偵なんでしょう? あの二人探らない?』
(えっ!?)
私は磐城君の心の声が聞こえた気がした。
その推察通り、磐城君はフリーズしていた。
『みずほ……自殺じゃなかったのよね?』
私はそう言いながらスマホのメールを表示させた。
――岩城みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ――
それは、磐城君に送られたのと同一だったようだ。
『磐城君が女装しているって知っていたわよ。勿論みずほもね』
私はウインクした。
『えっっっーー!?』
今度は磐城君の声が裏返った。
『さあ、磐城君の叔父さんの探偵事務所に行って女装よ』
私の言葉にもっと驚いたようだ。
『バレていたのか?』
磐城君が肩を落とした。
『うん。余りに可愛かったから、後で強請ってやろうとみずほと笑ってた』
そう言いながら磐城君を見ると、益々落ち込んでいた。
私は磐城君の弱点を探し出そうと思いピッタリ密着した。
(きっと磐城君の心臓バクバクだな)
こんなことは始めての経験だった。
私はエースともベタベタ出来ない。
悪いことをしていると思いながらも、私は磐城君と腕を組んだ。
だって嫌気が差して逃げられたらことだもの。
『女装探偵が本当に磐城君なのか確かめたくて、みずほと後を付けたの。多分この道よね』
私はそう言いながら、イワキ探偵事務所に続く道を歩き出した。
磐城君は益々しょぼくれた。
私はそんな磐城君を引き摺りながらイワキ探偵事務所の前に立っていた。
覚悟を決めたように、磐城君はイワキ探偵事務所のドアを叩いた。
『何だ瑞穂か。あれっ? 女の娘も一緒か』
磐城君のオジサンは私の訪問に驚いたようだった。
きっと、みずほ以外の女性を連れて来たことがなかったのかな?
あれっ、違った。
確かみずほも此処のこと知らなかったはずだ。
『それにしても珍しい』
オジサンは私を見ながら言った。
『ねえ瑞穂の叔父さん。瑞穂の女装をお願い』
でも私はそんなことはお構いなしで、しゃしゃり出てお願いのポーズをした。
『大切に着ろよ』
そう言いながらオジサンは、奥様の形見のワンピースを出してくれた。
『はい、それとスパッツ』
『瑞穂のオジ様古い。それ今レギンスって言うのよ』
『し、知っていたよ』
私の勢いにオジサンはしどろもどろだった。
磐城君は奥さんの花嫁道具の一つである三面鏡の前で着替えを始めた。
オジ様の話だと、結婚する前ドレッサーかこれにするか迷ったそうだ。
その頃の流行りはドレッサーだったらしい。
でも場所をとるからと、これに決めたそうだ。
そんな話しを聞きながら磐城君は鏡を見ていた。
だんだん女に変わっていく磐城君は三面鏡をしょんぼり見ていた。
磐城君の女装が終わり急いでカフェまで戻る。
さっき外から見ていた場所で確認すると、町田百合子と福田千穂はまだ其処に居てくれた。
どうやら二人は真剣に話し合っているようだった。
私と磐城君はその背中越しの席に腰を下ろした。
磐城君が小型録音機のスイッチを入れる。
それと同時にじっと聞き耳を立てた。
手持ちぶさたの私は鞄の中から手鏡を出した。
化粧する真似をしながら、二人の様子を伺うつもりだった。
途端にドキッとした。
みずほが磐城君に送った、コンパクト越のウインクを思い出したがら……
(ヤバい。向こうに気付かれる!? バレたらどうしよう)
磐城君をそっと見たら青ざめていた。
(今の磐城君なら二人に気付かれないだろう。だったら私も化粧をすればいいんだ)
私は遂に開き直った。
運ばれてきたコーヒーを飲んで、少しだけ落ち着いてきた時遂に二人が話し始めた。
『ねえ、次に死ぬのは誰にする?』
福田千穂だった。
私は自分の耳を疑った。
『だって三連続なんでしょう? 誰かが続かなきゃ意味無いと思うのよ』
千穂はさも当たり前のように言った。
(えっ、三連続って何? あ、あのことかな?)
私の住んでいる地域には三連続で死が発生すると言う迷信がある。
所謂こじつけだと思うけど、一人が死に次の人が死ぬ。
そんな時、死が呼んだとか言って恐れたのだった。
だから注意しろと言う暗示らしい。
(まさか……その最初の死って?)
私はそれが父の死かも知れないと思った。
(だとしたら、みずほの死の原因を作ったのはこの私だ)
もしそうだとしたら、私は磐城君に何て言って謝ったらいいのだろうか?
父の死はやはり突然死によるものだった。
それは心臓突然死と呼ばれるものだった。
心臓に栄養と酸素を運ぶ冠動脈が動脈硬化を起こして狭くなり、其処に血栓が詰まったりすると発祥するらしい。
やはり私が原因だったようだ。
でも父が死んだと学校に連絡が入ったのはかなり後だった。
もしかして、今更だけど私は私の企みが父に死をもたらせたのではないことを祈っていた。
嫌がる磐城君に女装までさせて始めた犯人探し。
それがこんな結果をもたらせることになるなんて。
私は改めて私の罪の深さを感じていた。
でも、此処から離れる訳にはいかない。
たとえどんな結果が待っていようが、最後まで聞かなければいかないと判断した。
それがみずほへの罪滅ぼしへと繋がるかどうかは判らなかったけど。
『そうね、それだったら、誰が良いの?』
町田百合子が殺してほしい人を催促した。
『うーん、そうだなー。磐城君以外なら誰でもいいわ』
『だったら、最初に戻そうか?』
(えっ、最初? 最初って何だ?)
『最初?』
千穂も私と同じ反応をだった。
私は何が何だか判らずに聞き耳を立てた。
『そうよ。始まりは有美の親父じやない? だから今度は松尾有美。後追い自殺なら誰も傷付かないから』
(えっ!? そんな……)
恐る恐る隣を見る。
磐城君も私を見ていた。
目が合いそうだったので、何が何だか判断が着かないような素振りをした。
(何故!? 何故最初が私なの? あっ、そうか……やっぱり私の父の死が発端だったんだ)
私は恐怖に震えた。
でも本当は……腰さえも抜けていたのだ。
『あっ、それがいい。物凄くいいアイデア』
暫く考えてから千穂が言った。
『そうよね。松尾有美だったらきっとみんな大喜びするはずよ。だってあの子サッカー部のエースの彼女じゃない?』
悪びれた様子もなく、千穂は平然と言い放った。
『そう。ライバル何て始末した方がいいのよ』
百合子が言う。
『みんな大喜びするものね』
千穂はご機嫌だった。
私は愕然とした。
千穂の発言は私の死だけではなく、みずほの死さえも喜んでいるようにしか聞こえなかったから……
(千穂、そんなにみずほの死が嬉しいの? 確か貴女達、保育園時代からの付き合いで幼なじみじゃなかったの?)
私は恐ろしくなった。
そっとスマホカバーを開けて、メールを表示する。
――岩城みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ――
私の目に飛び込んできたその文字は、あの日のままだった。
(誰がこのメールを私に送信したの? 嘘つき……嘘ばっかり……みずほはこの二人に殺されたたんじゃない)
私は全身に鳥ハダに覆われながら其処にいるしかなかったのだった。
『出ようか?』
磐城君が言った。
でも私は動けなかった。
腰だけではなく、全身に力が入らないのだ。
私は放心状態だった。
磐城君はそっと私の横に移動して、体を支えて立ち上がろうとした。
『ねえどうして最初にいわきみずほを選んだの?』
その時。
千穂は私達が一番聞きたいことを質問した。
磐城君はその答を知りたいらしくて、一旦上げた腰を又戻した。
『うーん、それはね』
百合子は暫く考えてから話出した。
『翔太のためかな?』
(翔太!? 磐城君が行くはずだった交流戦で大活躍をしてレギュラーを取ったと言う、隣のクラスの橋本翔太さんなの!?)
『翔太をレギュラーにしたくてね』
(やっぱり……)
その答えに私は意気消沈した。
磐城君があまりにも可哀想だったからだ。
でもその種を撒いたのは間違いなく私なのだ。
父親を殺すだけだった計画がとんでもない方向に向かおうとしていた。
『そっかー。磐城君を呼び戻すためにメールを打ったのか? 頭良いね』
『でしょ? 全く有美の親父さん良いタイミングで死んでくれたから』
『橋本君に何か言われたの?』
『ううん、別に……ただ磐城君がグランドに来なければ、とかね』
『だからキューピット様で《いわきみずほ》って書いたのか?』
『そうよ。男でも女でも良かったのよ』
『でも磐城君か死んだらイヤだから……』
『だからどっちかって聞いたのか?』
『女のみずほはともかく、磐城君は絶対に死なせたくないもの』
『でも一瞬躊躇ったわ。だってもしかしたら翔太が疑われたかも知れないのに……私ったらダメね』
『本当ね。でも良かった、誰も気付いていないみたいだからね』
千穂は笑っていた。
顔は見えないけど、声がウキウキしているように感じた。
磐城君を陥れるためにキューピット様をやろうと持ち出した百合子。
それに乗ってみずほを死に追いやったクラスメート。
でもまだそれでは終わらない。
私の全身を恐怖がまとわりついていた。
私は泣いた。
卑怯者だと自分で自分を責めながら……。
私は恐怖に震えながらやっとカフェを後にした。
でも本当は……磐城君もやっと歩ける程度だったみたい。
それでも磐城君は私を自宅前まで送ってくれた。
岩城みずほの恋人は彼女が自慢していた以上に優しい人だった。
私は磐城君の優しさを感じて、みずほが羨ましくなっていた。
私のエースだって優しいけど、私だけのエースじゃないんだ。
彼は学校のヒーローだから独り占めには出来ないんだ。
私は磐城君が見えなくなった後も手鏡を見ていた。
私の罪さえ忘れさせるほんわかした気分だったからだ。
でもそれを一掃する出来事に遭遇したのだ。
何気に見ていた手鏡の中に見覚えある顔が写り込んだのだ。
クラスメートの町田百合子と福田千穂だった。
私は慌てて手鏡を鞄にしまった。
(あの二人、こんなに仲が良かったっけ?)
それは見たことも無いような不思議なツーショットだった。
私は二人を観察しようと椅子に身を潜めた。
磐城君がカフェに戻ったのはそれから暫くしてからだった。
あろうことか、磐城君はいきなり私の肩を叩いた。
――ビクッ!?
その途端、心臓が跳びはねた。
『ん!? もうー、びっくりさせないでよ!』
磐城君を見ると、私の声に驚いて思わず後退りをしていた。
『ごめん』
『ごめんじゃないの』
私は勢いで上がった肩を少しずつ下ろし、胸の辺りを手で押さた。
磐城君余りに早く戻ったからた。
私はすっかり油断していたらしい、だから声が裏がえってしまった。
『もうー、気付かれちゃうじゃない』
やっと落ち着いた私は磐城君を叱り始めた。
『気付かれるって、誰に?』
『ホラ、あの二人』
私は今まで見ていたボックス席を指差した。
『どれどれ……』
磐城君は私の指の先を目で追った。
『そんなことよりあの二人よ。何かおかしと思うんだけど』
私が目をやると、例の二人はまだいた。
さっきカフェの中に入った、町田百合子と福田千穂だ。
『ねえ磐城君。女装探偵なんでしょう? あの二人探らない?』
(えっ!?)
私は磐城君の心の声が聞こえた気がした。
その推察通り、磐城君はフリーズしていた。
『みずほ……自殺じゃなかったのよね?』
私はそう言いながらスマホのメールを表示させた。
――岩城みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ――
それは、磐城君に送られたのと同一だったようだ。
『磐城君が女装しているって知っていたわよ。勿論みずほもね』
私はウインクした。
『えっっっーー!?』
今度は磐城君の声が裏返った。
『さあ、磐城君の叔父さんの探偵事務所に行って女装よ』
私の言葉にもっと驚いたようだ。
『バレていたのか?』
磐城君が肩を落とした。
『うん。余りに可愛かったから、後で強請ってやろうとみずほと笑ってた』
そう言いながら磐城君を見ると、益々落ち込んでいた。
私は磐城君の弱点を探し出そうと思いピッタリ密着した。
(きっと磐城君の心臓バクバクだな)
こんなことは始めての経験だった。
私はエースともベタベタ出来ない。
悪いことをしていると思いながらも、私は磐城君と腕を組んだ。
だって嫌気が差して逃げられたらことだもの。
『女装探偵が本当に磐城君なのか確かめたくて、みずほと後を付けたの。多分この道よね』
私はそう言いながら、イワキ探偵事務所に続く道を歩き出した。
磐城君は益々しょぼくれた。
私はそんな磐城君を引き摺りながらイワキ探偵事務所の前に立っていた。
覚悟を決めたように、磐城君はイワキ探偵事務所のドアを叩いた。
『何だ瑞穂か。あれっ? 女の娘も一緒か』
磐城君のオジサンは私の訪問に驚いたようだった。
きっと、みずほ以外の女性を連れて来たことがなかったのかな?
あれっ、違った。
確かみずほも此処のこと知らなかったはずだ。
『それにしても珍しい』
オジサンは私を見ながら言った。
『ねえ瑞穂の叔父さん。瑞穂の女装をお願い』
でも私はそんなことはお構いなしで、しゃしゃり出てお願いのポーズをした。
『大切に着ろよ』
そう言いながらオジサンは、奥様の形見のワンピースを出してくれた。
『はい、それとスパッツ』
『瑞穂のオジ様古い。それ今レギンスって言うのよ』
『し、知っていたよ』
私の勢いにオジサンはしどろもどろだった。
磐城君は奥さんの花嫁道具の一つである三面鏡の前で着替えを始めた。
オジ様の話だと、結婚する前ドレッサーかこれにするか迷ったそうだ。
その頃の流行りはドレッサーだったらしい。
でも場所をとるからと、これに決めたそうだ。
そんな話しを聞きながら磐城君は鏡を見ていた。
だんだん女に変わっていく磐城君は三面鏡をしょんぼり見ていた。
磐城君の女装が終わり急いでカフェまで戻る。
さっき外から見ていた場所で確認すると、町田百合子と福田千穂はまだ其処に居てくれた。
どうやら二人は真剣に話し合っているようだった。
私と磐城君はその背中越しの席に腰を下ろした。
磐城君が小型録音機のスイッチを入れる。
それと同時にじっと聞き耳を立てた。
手持ちぶさたの私は鞄の中から手鏡を出した。
化粧する真似をしながら、二人の様子を伺うつもりだった。
途端にドキッとした。
みずほが磐城君に送った、コンパクト越のウインクを思い出したがら……
(ヤバい。向こうに気付かれる!? バレたらどうしよう)
磐城君をそっと見たら青ざめていた。
(今の磐城君なら二人に気付かれないだろう。だったら私も化粧をすればいいんだ)
私は遂に開き直った。
運ばれてきたコーヒーを飲んで、少しだけ落ち着いてきた時遂に二人が話し始めた。
『ねえ、次に死ぬのは誰にする?』
福田千穂だった。
私は自分の耳を疑った。
『だって三連続なんでしょう? 誰かが続かなきゃ意味無いと思うのよ』
千穂はさも当たり前のように言った。
(えっ、三連続って何? あ、あのことかな?)
私の住んでいる地域には三連続で死が発生すると言う迷信がある。
所謂こじつけだと思うけど、一人が死に次の人が死ぬ。
そんな時、死が呼んだとか言って恐れたのだった。
だから注意しろと言う暗示らしい。
(まさか……その最初の死って?)
私はそれが父の死かも知れないと思った。
(だとしたら、みずほの死の原因を作ったのはこの私だ)
もしそうだとしたら、私は磐城君に何て言って謝ったらいいのだろうか?
父の死はやはり突然死によるものだった。
それは心臓突然死と呼ばれるものだった。
心臓に栄養と酸素を運ぶ冠動脈が動脈硬化を起こして狭くなり、其処に血栓が詰まったりすると発祥するらしい。
やはり私が原因だったようだ。
でも父が死んだと学校に連絡が入ったのはかなり後だった。
もしかして、今更だけど私は私の企みが父に死をもたらせたのではないことを祈っていた。
嫌がる磐城君に女装までさせて始めた犯人探し。
それがこんな結果をもたらせることになるなんて。
私は改めて私の罪の深さを感じていた。
でも、此処から離れる訳にはいかない。
たとえどんな結果が待っていようが、最後まで聞かなければいかないと判断した。
それがみずほへの罪滅ぼしへと繋がるかどうかは判らなかったけど。
『そうね、それだったら、誰が良いの?』
町田百合子が殺してほしい人を催促した。
『うーん、そうだなー。磐城君以外なら誰でもいいわ』
『だったら、最初に戻そうか?』
(えっ、最初? 最初って何だ?)
『最初?』
千穂も私と同じ反応をだった。
私は何が何だか判らずに聞き耳を立てた。
『そうよ。始まりは有美の親父じやない? だから今度は松尾有美。後追い自殺なら誰も傷付かないから』
(えっ!? そんな……)
恐る恐る隣を見る。
磐城君も私を見ていた。
目が合いそうだったので、何が何だか判断が着かないような素振りをした。
(何故!? 何故最初が私なの? あっ、そうか……やっぱり私の父の死が発端だったんだ)
私は恐怖に震えた。
でも本当は……腰さえも抜けていたのだ。
『あっ、それがいい。物凄くいいアイデア』
暫く考えてから千穂が言った。
『そうよね。松尾有美だったらきっとみんな大喜びするはずよ。だってあの子サッカー部のエースの彼女じゃない?』
悪びれた様子もなく、千穂は平然と言い放った。
『そう。ライバル何て始末した方がいいのよ』
百合子が言う。
『みんな大喜びするものね』
千穂はご機嫌だった。
私は愕然とした。
千穂の発言は私の死だけではなく、みずほの死さえも喜んでいるようにしか聞こえなかったから……
(千穂、そんなにみずほの死が嬉しいの? 確か貴女達、保育園時代からの付き合いで幼なじみじゃなかったの?)
私は恐ろしくなった。
そっとスマホカバーを開けて、メールを表示する。
――岩城みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ――
私の目に飛び込んできたその文字は、あの日のままだった。
(誰がこのメールを私に送信したの? 嘘つき……嘘ばっかり……みずほはこの二人に殺されたたんじゃない)
私は全身に鳥ハダに覆われながら其処にいるしかなかったのだった。
『出ようか?』
磐城君が言った。
でも私は動けなかった。
腰だけではなく、全身に力が入らないのだ。
私は放心状態だった。
磐城君はそっと私の横に移動して、体を支えて立ち上がろうとした。
『ねえどうして最初にいわきみずほを選んだの?』
その時。
千穂は私達が一番聞きたいことを質問した。
磐城君はその答を知りたいらしくて、一旦上げた腰を又戻した。
『うーん、それはね』
百合子は暫く考えてから話出した。
『翔太のためかな?』
(翔太!? 磐城君が行くはずだった交流戦で大活躍をしてレギュラーを取ったと言う、隣のクラスの橋本翔太さんなの!?)
『翔太をレギュラーにしたくてね』
(やっぱり……)
その答えに私は意気消沈した。
磐城君があまりにも可哀想だったからだ。
でもその種を撒いたのは間違いなく私なのだ。
父親を殺すだけだった計画がとんでもない方向に向かおうとしていた。
『そっかー。磐城君を呼び戻すためにメールを打ったのか? 頭良いね』
『でしょ? 全く有美の親父さん良いタイミングで死んでくれたから』
『橋本君に何か言われたの?』
『ううん、別に……ただ磐城君がグランドに来なければ、とかね』
『だからキューピット様で《いわきみずほ》って書いたのか?』
『そうよ。男でも女でも良かったのよ』
『でも磐城君か死んだらイヤだから……』
『だからどっちかって聞いたのか?』
『女のみずほはともかく、磐城君は絶対に死なせたくないもの』
『でも一瞬躊躇ったわ。だってもしかしたら翔太が疑われたかも知れないのに……私ったらダメね』
『本当ね。でも良かった、誰も気付いていないみたいだからね』
千穂は笑っていた。
顔は見えないけど、声がウキウキしているように感じた。
磐城君を陥れるためにキューピット様をやろうと持ち出した百合子。
それに乗ってみずほを死に追いやったクラスメート。
でもまだそれでは終わらない。
私の全身を恐怖がまとわりついていた。
私は泣いた。
卑怯者だと自分で自分を責めながら……。
私は恐怖に震えながらやっとカフェを後にした。
でも本当は……磐城君もやっと歩ける程度だったみたい。
それでも磐城君は私を自宅前まで送ってくれた。
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