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幼なじみ・木暮悠哉
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俺は幼馴染みだった岩城(いわき)みずほの告別式に出席していた。
学校の屋上から飛び降りたんだ。
でも自殺ではなかった。
どうやら誰かに突き落とされたらしいのだ。
それは通夜の準備中に発覚したようだ。
俺の親友の磐城瑞穂(いわきみずほ)が見つけたのだ。
実は、瑞穂はみずほの恋人だったんだ。
岩城みずほ遺体は、送り出した時とほぼ同じ状態のまま帰って来たようだ。
CTなどの最新機器を駆使してくれたからだった。
死因は全身打撲と脳挫傷。
飛び降りた事実に間違いなかったが一つだけ気になる箇所があったようだ。
それは、胸元に微かに付いた痣。
もし打ち付けたのだとしたら、もっと強く出るらしいのだ。
物凄く気になった瑞穂は悪いと思いながらその部分を見て、痣が手の形になっているに気付いたのだ。
警察は頭を抱えた。
みずほが飛び降りた屋上にはクラスメートが全員集まっていたそうだ。
父親の葬儀中だった松尾有美(まつおゆみ)と、サッカーの練習試合会場へ向かっていた磐城瑞穂を除いて。
そう、全員が自殺の目撃者だったからだ。
二人は同じ保育園に通っていた。
だから何時もこんがらがって、騒動を起こしていたんだ。
だって二人とも《いわきみずほ》だったからだ。
二人は犬猿の仲だった。
事の発端は瑞穂のお祖母ちゃんが紙オムツを届けたことに始まる。
新入りの保育士が間違えてみずほに渡したのだ。
中身を見てみずほは泣き出した。
そして余りに泣きすぎて、お漏らしをしてしまったのだ。
それはみずほにとって汚点となってしまったのだった。
みずほはその時はもうとっくにオムツを卒業していたのだ。
そんなことを知らない瑞穂は地区の運動会でみずほに恋をした。
――バシッ。
みずほの平手打ちが炸裂した。
瑞穂が勝手に惚れて強引にキスをしたからだった。
そんな二人がラブラブな関係になるなんて。
同じ高校には通わなかったけど、俺は本当に陰で二人を応援していたんだ。
俺は岩城みずほの旅立ちを一般席から見守っていた。
その中には瑞穂の姿もあった。
いくら結婚を許された恋人でも、家族席には座れないのだ。
二人は十五歳同志だったけど、双方の家族の公認の仲だったのだ。
瑞穂の哀しみが俺の心を打ち、涙が後から後から溢れ出てきた。
ハンカチで拭っても拭ってもダメだったのだ。
そっと瑞穂を見ると、苦しそうに俯いていた。
(恋人が殺されたのかも知れないのだ。それもクラスメートの誰かに……俺だったら気が狂ってしまうな)
そんなことをずっと考えていた。
この時はもう殆どの人がみずほが自殺ではないことを知っていたのだ。
木魚と銅鑼の音が斎場内にあるホールに広がる。
そこかしこですすり泣きの音が聞こえる。
その中には瑞穂のライバルの橋本翔太(はしもとしょうた)の姿もあった。
俺と瑞穂は一緒の少年サッカー団だった。
橋本翔太は違う少年サッカー団で、時々試合もあり良く対戦で顔を合わせていたのだった。
俺はこっそりと其処へ移動した。
「さっき聞いたのだけど、みずほが自殺じゃないって知ってた?」
俺の質問に橋本翔太は頷いた。
「朝ね。瑞穂はみずほさんと逢い引きをしていたんだ」
「逢い引き!?」
「うん。二人は示し合わせて、愛の時間を堪能していた。『オハヨー』『好きだよ』『アイシテル』なんて言い合って……」
「やるうー」
「みずほさんは赤い糸を持っていて、サッカーグランドの見える木に結び付けるんだ。『サッカーが上達しますように』そう言いながらね。そして『はい、私のおまじない効くのよ』って言って、その糸を瑞穂のスパイクの中に入れるんだよ」
「見てたのか?」
翔太は頷いた。
「みずほさんがどうして亡くなったのか詳しいことは知らないけど……」
「みずほには誰かに突かれたような痣があったそうだ」
「そりゃあ、殺しの可能性も否定出来ないかも知れないな。誰かに突き落とされたのか? でもあの時、確か大勢の人が屋上に集まっていたと言っていたな」
「うん。確か全員が自殺の目撃者だとか言っていたな……あーあ、こりゃ難航するな」
俺は何故翔太がこんな話しを始めたのか解らずにいた。
「町田百合子(まちだゆりこ)って知ってる?」
翔太は突然話を変えた。
「えっ、誰それ?」
「あっ、知らなければいいんだ」
「何だよ、気になるな。もしかしたら何かみずほと関係あるの?」
「いや、違うと思う。何て言うか気持ち悪いんだよ、ストーカーみたいでな」
「ストーカーとは穏やかじゃないな」
「うん。そうなんだ。気が付けば何時も傍にいるんだよ。この間も……」
翔太は、そう前置きしてから話し始めた。
サッカーの練習試合の前日、監督が言ったそうだ。『明日の試合の出来具合を見て、新入生からレギュラーを決める』
と――。
瑞穂も翔太同様にそれを目指して頑張ってきた。
二人は本当にいいライバルだったんだ。
でも翔太は独り言を呟いてしまったそうだ。
瑞穂とみずほがいちゃついていたその木の脇で『磐城がグランドに来なければ』
と――。
最後の別れに柩の中に花を入れる。
俺は別れを惜しむ振りをして、瑞穂を見ていた。
瑞穂は隠し持った赤い糸をみずほの指先に結んだ。
(もしかしたらさっき翔太の言ってたおまじないの赤い糸かな?)
何気にそう思った。
それはきっと、さっきまで瑞穂の小指に結ばれていたのではないのか?
二人は運命の赤い糸で繋がれている。
そう思った。
きっとみずほの愛に報いるために、それを入れたのだろう。
何故瑞穂がモテるのか解らないけど、みずほは一途に愛していたのだ。
どんなに綺麗な花で飾られても柩の中のみずほが痛々しい。
今にも起き上がってきて何か言いたそうだった。
俺もみずほの死を受け入れたくなかっただけなのかもしれない。
みずほの見える小窓越しに唇を近付けた瑞穂。
きっとキスでもしてやりたかったのだろう。
でも釘付けされた柩はもう二度と開くことが出来ないのだ。
俺の心中に虚しさだけが心の隅々まで広がっていった。
「ところで、お兄さんを殺した犯人は見つかったの?」
「いや、まだだよ」
「木暮(こぐれ)や瑞穂とのリフティング大会楽しみにして行ったら……」
「俺の兄貴が変死したからな」
「確か、デパートのエレベーターの前だったよね」
「あの遺体を見たら、何もする気になれなくなっちゃってさ」
「でも、又何時か戦おうよ」
翔太はそう言って、斎場を後にした。
俺は瑞穂とみずほの付き合い出したいきさつを知っていた。
だから、みずほを殺した犯人が憎くて堪らなくなった。
(もしかしたらこの中に居るのだろうか?)
気が付くと、告別式を終え会場を後にするみずほのクラスメートの一人一人を見つめている俺がいた。
学校の屋上から飛び降りたんだ。
でも自殺ではなかった。
どうやら誰かに突き落とされたらしいのだ。
それは通夜の準備中に発覚したようだ。
俺の親友の磐城瑞穂(いわきみずほ)が見つけたのだ。
実は、瑞穂はみずほの恋人だったんだ。
岩城みずほ遺体は、送り出した時とほぼ同じ状態のまま帰って来たようだ。
CTなどの最新機器を駆使してくれたからだった。
死因は全身打撲と脳挫傷。
飛び降りた事実に間違いなかったが一つだけ気になる箇所があったようだ。
それは、胸元に微かに付いた痣。
もし打ち付けたのだとしたら、もっと強く出るらしいのだ。
物凄く気になった瑞穂は悪いと思いながらその部分を見て、痣が手の形になっているに気付いたのだ。
警察は頭を抱えた。
みずほが飛び降りた屋上にはクラスメートが全員集まっていたそうだ。
父親の葬儀中だった松尾有美(まつおゆみ)と、サッカーの練習試合会場へ向かっていた磐城瑞穂を除いて。
そう、全員が自殺の目撃者だったからだ。
二人は同じ保育園に通っていた。
だから何時もこんがらがって、騒動を起こしていたんだ。
だって二人とも《いわきみずほ》だったからだ。
二人は犬猿の仲だった。
事の発端は瑞穂のお祖母ちゃんが紙オムツを届けたことに始まる。
新入りの保育士が間違えてみずほに渡したのだ。
中身を見てみずほは泣き出した。
そして余りに泣きすぎて、お漏らしをしてしまったのだ。
それはみずほにとって汚点となってしまったのだった。
みずほはその時はもうとっくにオムツを卒業していたのだ。
そんなことを知らない瑞穂は地区の運動会でみずほに恋をした。
――バシッ。
みずほの平手打ちが炸裂した。
瑞穂が勝手に惚れて強引にキスをしたからだった。
そんな二人がラブラブな関係になるなんて。
同じ高校には通わなかったけど、俺は本当に陰で二人を応援していたんだ。
俺は岩城みずほの旅立ちを一般席から見守っていた。
その中には瑞穂の姿もあった。
いくら結婚を許された恋人でも、家族席には座れないのだ。
二人は十五歳同志だったけど、双方の家族の公認の仲だったのだ。
瑞穂の哀しみが俺の心を打ち、涙が後から後から溢れ出てきた。
ハンカチで拭っても拭ってもダメだったのだ。
そっと瑞穂を見ると、苦しそうに俯いていた。
(恋人が殺されたのかも知れないのだ。それもクラスメートの誰かに……俺だったら気が狂ってしまうな)
そんなことをずっと考えていた。
この時はもう殆どの人がみずほが自殺ではないことを知っていたのだ。
木魚と銅鑼の音が斎場内にあるホールに広がる。
そこかしこですすり泣きの音が聞こえる。
その中には瑞穂のライバルの橋本翔太(はしもとしょうた)の姿もあった。
俺と瑞穂は一緒の少年サッカー団だった。
橋本翔太は違う少年サッカー団で、時々試合もあり良く対戦で顔を合わせていたのだった。
俺はこっそりと其処へ移動した。
「さっき聞いたのだけど、みずほが自殺じゃないって知ってた?」
俺の質問に橋本翔太は頷いた。
「朝ね。瑞穂はみずほさんと逢い引きをしていたんだ」
「逢い引き!?」
「うん。二人は示し合わせて、愛の時間を堪能していた。『オハヨー』『好きだよ』『アイシテル』なんて言い合って……」
「やるうー」
「みずほさんは赤い糸を持っていて、サッカーグランドの見える木に結び付けるんだ。『サッカーが上達しますように』そう言いながらね。そして『はい、私のおまじない効くのよ』って言って、その糸を瑞穂のスパイクの中に入れるんだよ」
「見てたのか?」
翔太は頷いた。
「みずほさんがどうして亡くなったのか詳しいことは知らないけど……」
「みずほには誰かに突かれたような痣があったそうだ」
「そりゃあ、殺しの可能性も否定出来ないかも知れないな。誰かに突き落とされたのか? でもあの時、確か大勢の人が屋上に集まっていたと言っていたな」
「うん。確か全員が自殺の目撃者だとか言っていたな……あーあ、こりゃ難航するな」
俺は何故翔太がこんな話しを始めたのか解らずにいた。
「町田百合子(まちだゆりこ)って知ってる?」
翔太は突然話を変えた。
「えっ、誰それ?」
「あっ、知らなければいいんだ」
「何だよ、気になるな。もしかしたら何かみずほと関係あるの?」
「いや、違うと思う。何て言うか気持ち悪いんだよ、ストーカーみたいでな」
「ストーカーとは穏やかじゃないな」
「うん。そうなんだ。気が付けば何時も傍にいるんだよ。この間も……」
翔太は、そう前置きしてから話し始めた。
サッカーの練習試合の前日、監督が言ったそうだ。『明日の試合の出来具合を見て、新入生からレギュラーを決める』
と――。
瑞穂も翔太同様にそれを目指して頑張ってきた。
二人は本当にいいライバルだったんだ。
でも翔太は独り言を呟いてしまったそうだ。
瑞穂とみずほがいちゃついていたその木の脇で『磐城がグランドに来なければ』
と――。
最後の別れに柩の中に花を入れる。
俺は別れを惜しむ振りをして、瑞穂を見ていた。
瑞穂は隠し持った赤い糸をみずほの指先に結んだ。
(もしかしたらさっき翔太の言ってたおまじないの赤い糸かな?)
何気にそう思った。
それはきっと、さっきまで瑞穂の小指に結ばれていたのではないのか?
二人は運命の赤い糸で繋がれている。
そう思った。
きっとみずほの愛に報いるために、それを入れたのだろう。
何故瑞穂がモテるのか解らないけど、みずほは一途に愛していたのだ。
どんなに綺麗な花で飾られても柩の中のみずほが痛々しい。
今にも起き上がってきて何か言いたそうだった。
俺もみずほの死を受け入れたくなかっただけなのかもしれない。
みずほの見える小窓越しに唇を近付けた瑞穂。
きっとキスでもしてやりたかったのだろう。
でも釘付けされた柩はもう二度と開くことが出来ないのだ。
俺の心中に虚しさだけが心の隅々まで広がっていった。
「ところで、お兄さんを殺した犯人は見つかったの?」
「いや、まだだよ」
「木暮(こぐれ)や瑞穂とのリフティング大会楽しみにして行ったら……」
「俺の兄貴が変死したからな」
「確か、デパートのエレベーターの前だったよね」
「あの遺体を見たら、何もする気になれなくなっちゃってさ」
「でも、又何時か戦おうよ」
翔太はそう言って、斎場を後にした。
俺は瑞穂とみずほの付き合い出したいきさつを知っていた。
だから、みずほを殺した犯人が憎くて堪らなくなった。
(もしかしたらこの中に居るのだろうか?)
気が付くと、告別式を終え会場を後にするみずほのクラスメートの一人一人を見つめている俺がいた。
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