ゴールドスカル(不完全な完全犯罪・瑞穂と叔父の事件簿)

四色美美

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クリスマスの日に・磐城瑞穂

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 ストーカーはマネージャーだった。木暮敦士の時も、原田学の時も。
原田学は木暮敦士がスキンヘッドで殺された事実を知っていた。
何故なら彼はあの現場を見ていたからだ。
ライブイベントパフォーマンスで、あのデパートにギタリストとして参加していたからだ。
だから原田学は自分がスキンヘッドになっていると気付いた時震え上がったのだろう。
その事実を知らされた彼氏は押し黙ってしまった。
もしかしたら、ラブデスゲームの被害者になるかも知れなかったからだ。


自分が好きになった男の気持ちを掴むためには手段を選ばない。
彼女もきっと邪悪になっていたのだろう。


MAIさんやみずほは別として、女性は怖いと思った。


でも何時かは俺も恋をしたい。
みずほのことを忘れるつもりはないけれど、いつまでもウジウジしていたらみずほが悲しむと思ったんだ。




 街はクリスマスツリーが輝いている。
俺に新しい恋人でも出来たらきっと二人で……
何て思いながら木暮と見ていた。


でも一つ困ったことが起きた。
すっかり女装に木暮が嵌まってしまったのだ。


「今後はもっと上手くやるから又手伝わせてくれ」
木暮がはそう言いながら叔父にウインクした。


(えっー!? もしかしたら俺の相棒? やだ、益々サッカーが出来なくなる。あぁ、俺の夢が……)


「なぁ、また女子会に潜入しようよ」
木暮が俺の耳元で囁く。


「でも学校に知れたら大変だぞ」
俺はさも知り尽くしたように言ってやった。


「女装なんて、仕事だけで充分だ」
俺はそう言いながら、叔父の奥さんのワンピースを見ていた。


(そうだよ。浮かれている場合じゃなかった。叔母さんの敵討ちが先決だったんだ)
形見のワンピースにそっと触れる。


(叔母さん待ってて、必ず叔父さんと一緒に犯人を探して出してみせるから)
俺達は、同士と言う絆で結ばれている。俺はそう感じた。


そっと叔父を見る。
優しそうな眼差しが、余計に悲しく映る。
その途端。
心がジンジンと疼き、新たな闘志に掻き乱さられていく。


俺は改めて、事件解決を誓っていた。



  そんなある日。
MAIさんから女子会への招待状がイワキ探偵事務所に届いた。


MAIさんは俺達を女装をさせて楽しもうとしていたのだ。
ま、木暮はすっかりうつつを抜かせていたけどね。


「今後はもっと上手くやるから、なあ瑞穂一緒に行こうよー」


「お前解っているのか? 主催するのはMAIさんなんだそ。お前の兄貴の奥さんだった人だぞ」


「うん。解ってる。それが何だって言うんだ」
木暮はすかっり我を忘れて、女装出来る喜びに浮かれていた。


「瑞穂の叔父様、お願いしますね」
木暮はそう言いながら叔父にウインクした。


「又お仕事お手伝い致しますので……」
その発言にドキンとした。
それは俺のエースになるという夢が遠退くことを意味していた。


「なぁ、また女装しようよ」
木暮が俺の耳元で囁く。


「やだ。絶対にやだ」
MAIさんに弄ばれことが解っていた俺は突っぱねようとあれこれ考えていた。


(きっとからかわれる)
そう思いつつ招待状を良く見てみた。


「あれっ、これ叔父さんも一緒に。ってことだ」


「どれどれ」
叔父は俺が見ていた招待状を強引に奪い取った。


「あっ、本当だ」
叔父は辛辣な顔をしていた。
それを見て木暮が紙を奪い返した。


「みずほの叔父さんの女装か? 俺達なら解るけど、似合わねえ」
木暮は腹を抱えて笑い出した。


 「そう言えば叔父さん。女装したことあったね」


「えっ、何時だ?」


「ほら……。ま、あの時は俺だけが女装する羽目になったけど」
俺はそう言いながら考えた。
俺が初めて女装した日は俺が奥さんのワンピースを手にしていた時のことだったのだ。
でも結局、叔父は着てくれなかったなと。



 「瑞穂の女装はあの時が最初だったな」


「だって、叔父さんがワンピースを着ようとしていたから見るにみかねてだ」


「瑞穂のお陰で色々真相は把握出来たけど……」


「だったら今度は俺も手伝うよ」
木暮が手を出して三人の手を組ませた。
その行為が嬉しくて思わず涙腺が弱くなった。
その時、俺達は同士と言う絆で結ばれている。そう感じた。
って結局、俺達は相棒か?



 クリスマスの当日、結局叔父も女装することになった。
それはそれは抱腹絶倒の女子会になるはずだった。
聞いた話によると、男性も女装さえすれば会場には入れるそうだ。
でもカフェに入る前に事は起こった。




 それは突然だった。
みずほのコンパクトが熱を帯び、それと同時にワクワクし始めた。
原因不明の挙動不審状態に俺は陥ったのだ。


何かに締め付けられているような感覚で、仕方なく胸を抑えた。
その時、着ていたワンピースのせいだと気付いた。


(もしかしたら叔母さんが……)
そう思いながら周りを見回すと、見知った顔に出会した。
それは叔父が長年探していた奥さんを殺したとされていた人物だった。


(この人は叔母さんを殺した犯人じゃない)
俺の深部が反応した。


叔母さんのワンピースがその人を懐かしがっていたんだ。
だからワクワクしていたんだ。


(自分を殺した容疑者だとされた人なんだよ。もし本当に殺られていたのならこんな風には感じられないはずだ)
俺は叔父にそっと目配せをして耳打ちした。
勿論、俺の霊感が真犯人ではないと告げた。とは言っておいた。


叔父は目を白黒させながらその人を見ていた。
その人は、目の前にいる女性が叔父だと気付くはずもなく立ち去っていた。
俺はホッとしていた。
女装なんて本当はイヤでイヤで堪らなかったんだ。
でもそのお陰で、叔父が誤解をしていたと指摘出来たのだ。
二人の関係を修復出来ないとは思っているけど、少しでも心が軽くなったのではないのかと感じていた。




 結局、女子会は大成功のうちに幕を下ろした。
MAIさんが何故女装した人も良しとしたのか?
それはクリスマスイヴに、家族立ち合いの元で結婚式を挙げるためだった。


お相手は勿論、あのロックミュージシャンだ。


「やっぱりロック好きだね」


「それも、相当のパンクだな」
叔父の目配せの先には、俺の両親もいた。
MAIさんはヘアーメイクアーチストの力をフルに発揮して、其処にいた男性全員をビジュアル系に仕立てたのだ。


でも父はヘビメタに相当近かったのだ。




 「義兄貴の格好……」
自分のことは棚に上げて、叔父は堪らずに笑い出した。


「お前の親とは思えないほどのゴツさだな」


「うん。ねぇ叔父さん知ってる。母はそのゴツさ、じゃぁない男らしさに惚れたんだって」
俺は母の秘密を暴露していた。



MAIさんの結婚式を兼ねた女子会は盛況の内に終った。
俺は二人を見ながら、木暮の兄貴の分まで幸せになってほしいと思っていた。








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