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犯人逮捕?・磐城瑞穂
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『彼はきっとロックグループのボーカル。彼がスキンヘッドになったら、その時が危ない。又人が死ぬかも知れない。だからそうなる前に助けてやってほしいんです』
あの日俺はそう言ってため息をついた。
そんなことがあってから僅かばかりの時間が流れた頃だった。
俺と木暮は叔父の探偵事務所にいた。
あの女性が現行犯逮捕されたと呼び出されたのだ。
それは俺の霊感を公にしたくないと思った叔父の計らいだった。
経緯はこうだ。
ボンドー原っぱの葬儀の日に俺達に声を掛けてきたのは、やはりロックグループのボーカルだった。
彼女を愛してはいたが、浮気者だった。
それにキレたMAIさんが彼をスキンヘッドにして、殺害を計画したとのことだった。
でもMAIさんは犯行を否認していた。
行方不明になっていたゴールドスカルのペンダントヘッドを何故彼が持っているのかが解らなくて、確かめようとしただけだと言っていた。
「あ、そうだ思い出した。確かに彼女はあのペンダントを気にしていたな『ねえ、そのペンダントどうしたの?』あの日、MAIさんは意を決したように言ったんだ。何故だか解らないけど、俺にはそう聞こえたんだよ」
「確か『私が買った物に良く似ているの。ずっと探し続けているんだけど見つからないのよ』って言ってたな」
木暮も言ってくれた。
「そうだよ。確かにMAIさんはそう言っていたよな?」
木暮と目で確認する。
(あれっ!? それじゃ誰が渡したんだ? 木暮の兄貴にペンダントを渡したのは一体誰なんだ?)
俺はあの日のやり取りを思い出しながら、何故か引っ掛かっていた事実を思い出していた。
そして忌まわしいあの記憶もよみがえっていた。
――売れない時代から支えてくれた彼女が、俺の好みのちょいっとロングなチェーンを探してくれたんだ。しかも、ゴールドスカル付き。こんなカッコいいペンダントヘッドなんてそうざらにあるもんじゃない。
俺は素直にそう思った――
木暮の兄貴は確かにMAIさんのプレゼントだと思っていたはずなに……
(でもまあ、そんなこと別にいいか。そうだよな。それでいいんだよな……?)
俺は又例によって、みずほのコンパクトに聞いていた。
要するに、俺の手柄だったってことだから。
あの日木暮と女装して女子会に行かなければ解らないことだったのだ。
第三の犯行が事前に防げたようだ。
俺はそれだけで満足していた。
本当は同意してもらってから録音しないと証拠の価値も意味もないのだ。
そんなのは最初から承知していた。それでも俺はやっていたのだ。
何か手がかりがないものだろうかと模索していたからだった。
でもその裏に卑劣な企みがあろうことなど疑う余裕もなかったのだ。
でも俺はその後の刑事との会話で、MAIさんと木暮敦士との本当の愛を目の当たりにする。
MAIさんは芸能界で生きる木暮敦士を裏から支えようとしていただけだったのだ。
歌手の妻の宿命とも言える、ファンと会社の間で揉まれた末に別れさせられようとしていたのだ。
MAIさんは被害者だったのだ。
事務所の方針だと彼女は思っていた。
それは、ストーカー事件で明るみに出る。
MAIさんはその時理解したようだった。
「『彼を心配させまいとして親友だと嘘を言いましたが、本当は見たこともない男性でした。事務所が私に送ってきた刺客。そうだと思いました』と麻衣さんは言っていたよ」
「刺客って?」
「レイプでもさせる気だったんじゃないのかな?」
「もしかしたら、ストーカーに見せ掛けて?」
俺の言葉に刑事は頷いた。
MAIさんは駆け出しのヘアーメイクアップアーチストだった。
木暮敦士との再会は修行中のことだった。
MAIさんは実母の美容院で働きながら国家資格を取って、東京を拠点とするグループの一員となって頑張っていたのだ。
木暮敦士は親の反対を押しきって、音楽の道へ進んだロッカーだった。
生活のためにヘルパーとアルバイトに明け暮れていた。
美容院なんかに行けるはずがない。
そんな時にヘアーモデルのチラシを見たのだ。
「『木暮君?』って言ったら頷いたそうだ。彼女はその後も『勉強させてもらっている』って言って代金は貰わなかったそうだ」
「そんな姿に兄貴は惚れたのかな?」
「母親も端正でありながら優しい木暮が気に入り、二人は婚約した。木暮敦士は既に二十歳を過ぎていたから親の承諾もなく婚姻出来るからな」
「だから木暮の兄貴はロックに打ち込めたのか?」
「でも、木暮はヘルパーは辞めなかったそうだ。だから彼女は思い切ってスキンヘッドを勧めたそうだ。もっとロックを楽しんでもらいたいと」
「流石、ロック好き」
二人の前途は明るく輝いているはずだったのに……
と俺は思った。
木暮敦士は益々ロックに打ち込んだ。
MAIさんもそれで良いと言ってくれていた。
だから茶髪のロン毛の鬘をやめて、金髪にしたのだった。
時には、母も混じり親子ゴッコ。
仲睦まじい生活。
二人は本当に幸せだった。
勿論弟の悠哉のことを忘れた訳ではない。
それでも家族には言わなかったようだ。
いや違った。
木暮は知っていた。
母親は東京の息子の暮らしを時々見に行っていたのだろう。
だだ会う機会がなかっただけだ。
それでもメジャーデビューが決まって喜んだ。
テレビで会える。
それに期待したんだ。
木暮敦士の所属していたロックバンドの曲がいきなりヒットしたのだから無理はない。
そのテレビが、輝かしい晴れの舞台の映像ではなく木暮の兄貴の惨殺事件を報じた訳だ。
だから木暮は脱け殻のようになってしまったのだ。
叔父が奥さんを殺されて、俺は恋人のみずほを死に追いやられた。
そして木暮は兄貴を惨殺された。
俺達相棒は、三人の其々の傷みを抱えていたのだ。
俺はみずほのコンパクトを握り締めながら、薄暗い取調室の横の小部屋でガラス越しのMAIさんと対面した。
その顔は、学生証に貼り付けてある写真ようなサイズだった。
要するにそれだけ確認出来れば事足りるようだ。
俺は真剣にMAIさんと向かい合っていた。
といっても相手からは俺は見えない。
取調室ではそれはただのミラーだったから。
それはマジックミラーと言って、小窓とでも言うべき程度だった。
明るい部屋では此方側もミラーになり、照明を落とすことにより透けるのだ。
だから部屋が薄暗かったのだ。
普段は閉じているみたいで、壁の一部となるようにはめ込まれる造りだった。
あの日俺はそう言ってため息をついた。
そんなことがあってから僅かばかりの時間が流れた頃だった。
俺と木暮は叔父の探偵事務所にいた。
あの女性が現行犯逮捕されたと呼び出されたのだ。
それは俺の霊感を公にしたくないと思った叔父の計らいだった。
経緯はこうだ。
ボンドー原っぱの葬儀の日に俺達に声を掛けてきたのは、やはりロックグループのボーカルだった。
彼女を愛してはいたが、浮気者だった。
それにキレたMAIさんが彼をスキンヘッドにして、殺害を計画したとのことだった。
でもMAIさんは犯行を否認していた。
行方不明になっていたゴールドスカルのペンダントヘッドを何故彼が持っているのかが解らなくて、確かめようとしただけだと言っていた。
「あ、そうだ思い出した。確かに彼女はあのペンダントを気にしていたな『ねえ、そのペンダントどうしたの?』あの日、MAIさんは意を決したように言ったんだ。何故だか解らないけど、俺にはそう聞こえたんだよ」
「確か『私が買った物に良く似ているの。ずっと探し続けているんだけど見つからないのよ』って言ってたな」
木暮も言ってくれた。
「そうだよ。確かにMAIさんはそう言っていたよな?」
木暮と目で確認する。
(あれっ!? それじゃ誰が渡したんだ? 木暮の兄貴にペンダントを渡したのは一体誰なんだ?)
俺はあの日のやり取りを思い出しながら、何故か引っ掛かっていた事実を思い出していた。
そして忌まわしいあの記憶もよみがえっていた。
――売れない時代から支えてくれた彼女が、俺の好みのちょいっとロングなチェーンを探してくれたんだ。しかも、ゴールドスカル付き。こんなカッコいいペンダントヘッドなんてそうざらにあるもんじゃない。
俺は素直にそう思った――
木暮の兄貴は確かにMAIさんのプレゼントだと思っていたはずなに……
(でもまあ、そんなこと別にいいか。そうだよな。それでいいんだよな……?)
俺は又例によって、みずほのコンパクトに聞いていた。
要するに、俺の手柄だったってことだから。
あの日木暮と女装して女子会に行かなければ解らないことだったのだ。
第三の犯行が事前に防げたようだ。
俺はそれだけで満足していた。
本当は同意してもらってから録音しないと証拠の価値も意味もないのだ。
そんなのは最初から承知していた。それでも俺はやっていたのだ。
何か手がかりがないものだろうかと模索していたからだった。
でもその裏に卑劣な企みがあろうことなど疑う余裕もなかったのだ。
でも俺はその後の刑事との会話で、MAIさんと木暮敦士との本当の愛を目の当たりにする。
MAIさんは芸能界で生きる木暮敦士を裏から支えようとしていただけだったのだ。
歌手の妻の宿命とも言える、ファンと会社の間で揉まれた末に別れさせられようとしていたのだ。
MAIさんは被害者だったのだ。
事務所の方針だと彼女は思っていた。
それは、ストーカー事件で明るみに出る。
MAIさんはその時理解したようだった。
「『彼を心配させまいとして親友だと嘘を言いましたが、本当は見たこともない男性でした。事務所が私に送ってきた刺客。そうだと思いました』と麻衣さんは言っていたよ」
「刺客って?」
「レイプでもさせる気だったんじゃないのかな?」
「もしかしたら、ストーカーに見せ掛けて?」
俺の言葉に刑事は頷いた。
MAIさんは駆け出しのヘアーメイクアップアーチストだった。
木暮敦士との再会は修行中のことだった。
MAIさんは実母の美容院で働きながら国家資格を取って、東京を拠点とするグループの一員となって頑張っていたのだ。
木暮敦士は親の反対を押しきって、音楽の道へ進んだロッカーだった。
生活のためにヘルパーとアルバイトに明け暮れていた。
美容院なんかに行けるはずがない。
そんな時にヘアーモデルのチラシを見たのだ。
「『木暮君?』って言ったら頷いたそうだ。彼女はその後も『勉強させてもらっている』って言って代金は貰わなかったそうだ」
「そんな姿に兄貴は惚れたのかな?」
「母親も端正でありながら優しい木暮が気に入り、二人は婚約した。木暮敦士は既に二十歳を過ぎていたから親の承諾もなく婚姻出来るからな」
「だから木暮の兄貴はロックに打ち込めたのか?」
「でも、木暮はヘルパーは辞めなかったそうだ。だから彼女は思い切ってスキンヘッドを勧めたそうだ。もっとロックを楽しんでもらいたいと」
「流石、ロック好き」
二人の前途は明るく輝いているはずだったのに……
と俺は思った。
木暮敦士は益々ロックに打ち込んだ。
MAIさんもそれで良いと言ってくれていた。
だから茶髪のロン毛の鬘をやめて、金髪にしたのだった。
時には、母も混じり親子ゴッコ。
仲睦まじい生活。
二人は本当に幸せだった。
勿論弟の悠哉のことを忘れた訳ではない。
それでも家族には言わなかったようだ。
いや違った。
木暮は知っていた。
母親は東京の息子の暮らしを時々見に行っていたのだろう。
だだ会う機会がなかっただけだ。
それでもメジャーデビューが決まって喜んだ。
テレビで会える。
それに期待したんだ。
木暮敦士の所属していたロックバンドの曲がいきなりヒットしたのだから無理はない。
そのテレビが、輝かしい晴れの舞台の映像ではなく木暮の兄貴の惨殺事件を報じた訳だ。
だから木暮は脱け殻のようになってしまったのだ。
叔父が奥さんを殺されて、俺は恋人のみずほを死に追いやられた。
そして木暮は兄貴を惨殺された。
俺達相棒は、三人の其々の傷みを抱えていたのだ。
俺はみずほのコンパクトを握り締めながら、薄暗い取調室の横の小部屋でガラス越しのMAIさんと対面した。
その顔は、学生証に貼り付けてある写真ようなサイズだった。
要するにそれだけ確認出来れば事足りるようだ。
俺は真剣にMAIさんと向かい合っていた。
といっても相手からは俺は見えない。
取調室ではそれはただのミラーだったから。
それはマジックミラーと言って、小窓とでも言うべき程度だった。
明るい部屋では此方側もミラーになり、照明を落とすことにより透けるのだ。
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