34 / 45
不安なままで・原田学
しおりを挟む
俺が探偵事務所に入った頃にはまだ陽がかなり高かった。
でも釣瓶落とし良く言ったもので、出てきた時には薄暗くなっていた。
(それにしてもさっきの男性おかしかった。スキンヘッドがそんなに珍しいかったのかな?)
俺は探偵事務所のドアを開け、そっと中を覗いた時のギョッとした男性の顔を思い出していた。
(そうだった。俺だって美容室の鏡にこの頭が写った時、度肝を抜いたのだ。男性だって同じようなものか?)
俺は妙に納得した。
(それでも嬉かったな。俺を知っていてくれた。ボンドー原っぱと言う名前も言ってくれた。確かに社長の言うように解りやすくて忘れ難い名前なのだろうな)
俺はあの男性のことを良く知らない。
あの探偵もだ。
それでも木暮の弟の元警視庁の凄腕刑事って言葉に頼ったんだ。
俺の携帯に唯一残っていた、木暮の奥さんの写真が手掛かりになってくれることを祈るしかないと思って……
『この頃彼女が冷たくて……、解ってます。この名前がイヤだってこと。でもやっと得たチャンスなんです』
そう言った後でそうーっと男性を見てみた。
俺の発言を納得したような顔をしていた。
『この子の浮気現場を押さえてください』
だから俺はさっき、携帯電話の画像を見せながらやっとそう言ったのだ。
そんなことを依頼したくて探偵事務所に行った訳ではない。本当は俺を救ってほしかったんだ。
俺は慌てて、彼処に行く前に携帯の画像を確認した。
何か証拠になる物がないのかと探し回ったのだ。
でも不思議なことにマイピクチャには何も残されてはいなかった。
(嘘だろ?)
俺はもう一度其処を開けた。
カメラ、自動お預かりなど次々とアクセスする。
それでも駄目だった。
ふと、名刺と言う箇所が気になった。
其処を開けて驚いた。
木暮の奥さんのヘアーメイクアップアーチストのMAIさんの写真が収められていたからだった。
それは俺が写した記憶もない代物だったのだ。
『だからと言う訳でもないと思いますが、浮気を疑いまして……、この前も彼女につきまとう男性をストーカー呼ばわりしたって怒られたし……、ひょっとしたらその相手かも? などと勘繰りまして』
とりあえず、ストーカーと言ってみた。
そうすれば、木暮の奥さんを調べてもらえると思ったのだ。
さっき俺がこんな頭にさせられたのは、間違いなくMAIさんの実家だったのだから……
だから俺は、木暮の奥さんを恋人だと言ってしまったのだ。
名刺に入っていた写真を、マイクロSDカードにコピーしてから探偵に渡した。
その時に本当は確かめてみたんだ。其処に何かが写っていないかと……
でも駄目だった。
あの携帯は木暮のとは違って、それを変える場合はリアカバーを外さなければいけないんだ。
だから結構面倒なんだ。
携帯電話の中にそのカードが残されたままになった理由はこれだったのかも知れない。
(きっとソイツはその事実を知らないんだ)
そう思った時、その事実によって俺の頭の中に一人の女性を浮かび上がらせた。
マイピクチャに行けば全ての画像は消すことは出来る。
だけど、俺の携帯でアクセスした奴は名刺に画像があることを知らなかったんだ。
(ってなると、犯人は誰だ? 俺の頭をツルツルに剃り上げた奴は一体何処のどいつなんだ?)
もう答えは出ている。でも信じられないんだ。
俺の親友の奥さんがその人だと言う事実を。
(彼処は確かにMAIさんの実家だ……)
本当はそれだけで充分だったのだ。
俺達はバンド活動を優先していたので、共に職に溢れていた。
其処で木暮が『ヘルパーの資格を取って働こう』って提案してくれたのだ。
俺達は早速、市の施設でやっている講座を受けた。
約三ヶ月で、しかも格安でヘルパー二級の資格が俺達の手に入れることが出来たんだ。
俺達は其処で働くことになった。
病院や施設内では携帯は使えない。
電気機器に狂いが生ずる恐れがあるからだ。だからピッチを探してみたんだ。
病院内で医者や看護士達が使用しているのがそれだ。
でもすぐに使用不可になった。
携帯電話の会社がピッチのサービスを辞めてしまったからだった。
それでも俺達は其処に拘って使い続けた。
だけど最後のサービスとして、携帯電話を無料で交換してくれたのだ。
ピッチも無料だった。携帯電話も無料だった。
それは願ってもいないチャンスだった。
だから俺達は金も払わずに、最新の横モーションタイプの携帯を手に入れることが出来たのだ。
木暮はずっとそのまま使用し続けた。
でも俺は不注意で水の中に落としてしまったんだ。
その携帯には防水機能は付いていなかったんだ。
本当にしまったと思った。無料で手に入れた時に携帯保証を付けなかったから物凄い金額を払わなければいけなかったんだ。
それは貧乏ギタリストの俺にとって痛手となるほどの金額だった。
もう一度名刺に入っていた写真を確認する。
MAIさんの顔に見覚えがあったからだ。
(こんな顔、あの時以来だ……)
何気にそう思った。
それは俺が携帯電話を変えたことを木暮に伝えた時のことだ。
木暮は俺の携帯でMAIさんを撮影していたのだ。
(そうだ。あの時だ。こんなに弾けた笑顔、アイツが一緒じゃないと撮れないな。もしかしたらこれを此処に入れたのは木暮か?)
俺はそれで間違いないと思い始めていた。
(って言うことは? 俺の頭をこんなにしたのはアイツか?)
そう思った途端に震えがきた。
それはいくらアイツでも無理だった。
アイツはもうこの世に居ないのだから……
(それだったらMAIさんか? 確かに俺が良く行っていた美容院だ。間違いなく彼処だ)
俺はその時、『MAIさんのお母さんは美容院を畳んで、居抜きで彼処を売り出すそうだよ』とお袋が電話で言っていたのを思い出していた。
(ってなると、犯人は一体誰なんだ)
俺の心臓は今にも凍り付きそうになっていた。
でも釣瓶落とし良く言ったもので、出てきた時には薄暗くなっていた。
(それにしてもさっきの男性おかしかった。スキンヘッドがそんなに珍しいかったのかな?)
俺は探偵事務所のドアを開け、そっと中を覗いた時のギョッとした男性の顔を思い出していた。
(そうだった。俺だって美容室の鏡にこの頭が写った時、度肝を抜いたのだ。男性だって同じようなものか?)
俺は妙に納得した。
(それでも嬉かったな。俺を知っていてくれた。ボンドー原っぱと言う名前も言ってくれた。確かに社長の言うように解りやすくて忘れ難い名前なのだろうな)
俺はあの男性のことを良く知らない。
あの探偵もだ。
それでも木暮の弟の元警視庁の凄腕刑事って言葉に頼ったんだ。
俺の携帯に唯一残っていた、木暮の奥さんの写真が手掛かりになってくれることを祈るしかないと思って……
『この頃彼女が冷たくて……、解ってます。この名前がイヤだってこと。でもやっと得たチャンスなんです』
そう言った後でそうーっと男性を見てみた。
俺の発言を納得したような顔をしていた。
『この子の浮気現場を押さえてください』
だから俺はさっき、携帯電話の画像を見せながらやっとそう言ったのだ。
そんなことを依頼したくて探偵事務所に行った訳ではない。本当は俺を救ってほしかったんだ。
俺は慌てて、彼処に行く前に携帯の画像を確認した。
何か証拠になる物がないのかと探し回ったのだ。
でも不思議なことにマイピクチャには何も残されてはいなかった。
(嘘だろ?)
俺はもう一度其処を開けた。
カメラ、自動お預かりなど次々とアクセスする。
それでも駄目だった。
ふと、名刺と言う箇所が気になった。
其処を開けて驚いた。
木暮の奥さんのヘアーメイクアップアーチストのMAIさんの写真が収められていたからだった。
それは俺が写した記憶もない代物だったのだ。
『だからと言う訳でもないと思いますが、浮気を疑いまして……、この前も彼女につきまとう男性をストーカー呼ばわりしたって怒られたし……、ひょっとしたらその相手かも? などと勘繰りまして』
とりあえず、ストーカーと言ってみた。
そうすれば、木暮の奥さんを調べてもらえると思ったのだ。
さっき俺がこんな頭にさせられたのは、間違いなくMAIさんの実家だったのだから……
だから俺は、木暮の奥さんを恋人だと言ってしまったのだ。
名刺に入っていた写真を、マイクロSDカードにコピーしてから探偵に渡した。
その時に本当は確かめてみたんだ。其処に何かが写っていないかと……
でも駄目だった。
あの携帯は木暮のとは違って、それを変える場合はリアカバーを外さなければいけないんだ。
だから結構面倒なんだ。
携帯電話の中にそのカードが残されたままになった理由はこれだったのかも知れない。
(きっとソイツはその事実を知らないんだ)
そう思った時、その事実によって俺の頭の中に一人の女性を浮かび上がらせた。
マイピクチャに行けば全ての画像は消すことは出来る。
だけど、俺の携帯でアクセスした奴は名刺に画像があることを知らなかったんだ。
(ってなると、犯人は誰だ? 俺の頭をツルツルに剃り上げた奴は一体何処のどいつなんだ?)
もう答えは出ている。でも信じられないんだ。
俺の親友の奥さんがその人だと言う事実を。
(彼処は確かにMAIさんの実家だ……)
本当はそれだけで充分だったのだ。
俺達はバンド活動を優先していたので、共に職に溢れていた。
其処で木暮が『ヘルパーの資格を取って働こう』って提案してくれたのだ。
俺達は早速、市の施設でやっている講座を受けた。
約三ヶ月で、しかも格安でヘルパー二級の資格が俺達の手に入れることが出来たんだ。
俺達は其処で働くことになった。
病院や施設内では携帯は使えない。
電気機器に狂いが生ずる恐れがあるからだ。だからピッチを探してみたんだ。
病院内で医者や看護士達が使用しているのがそれだ。
でもすぐに使用不可になった。
携帯電話の会社がピッチのサービスを辞めてしまったからだった。
それでも俺達は其処に拘って使い続けた。
だけど最後のサービスとして、携帯電話を無料で交換してくれたのだ。
ピッチも無料だった。携帯電話も無料だった。
それは願ってもいないチャンスだった。
だから俺達は金も払わずに、最新の横モーションタイプの携帯を手に入れることが出来たのだ。
木暮はずっとそのまま使用し続けた。
でも俺は不注意で水の中に落としてしまったんだ。
その携帯には防水機能は付いていなかったんだ。
本当にしまったと思った。無料で手に入れた時に携帯保証を付けなかったから物凄い金額を払わなければいけなかったんだ。
それは貧乏ギタリストの俺にとって痛手となるほどの金額だった。
もう一度名刺に入っていた写真を確認する。
MAIさんの顔に見覚えがあったからだ。
(こんな顔、あの時以来だ……)
何気にそう思った。
それは俺が携帯電話を変えたことを木暮に伝えた時のことだ。
木暮は俺の携帯でMAIさんを撮影していたのだ。
(そうだ。あの時だ。こんなに弾けた笑顔、アイツが一緒じゃないと撮れないな。もしかしたらこれを此処に入れたのは木暮か?)
俺はそれで間違いないと思い始めていた。
(って言うことは? 俺の頭をこんなにしたのはアイツか?)
そう思った途端に震えがきた。
それはいくらアイツでも無理だった。
アイツはもうこの世に居ないのだから……
(それだったらMAIさんか? 確かに俺が良く行っていた美容院だ。間違いなく彼処だ)
俺はその時、『MAIさんのお母さんは美容院を畳んで、居抜きで彼処を売り出すそうだよ』とお袋が電話で言っていたのを思い出していた。
(ってなると、犯人は一体誰なんだ)
俺の心臓は今にも凍り付きそうになっていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
月影館の呪い
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、名門の一軒家に住み、学業成績は常にトップ。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読みふける彼の日常は、ある日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からの一通の招待状によって一変する。彩由美の親戚が管理する「月影館」で、家族にまつわる不気味な事件が起きたというのだ。
彼女の無邪気な笑顔に背中を押され、葉羽は月影館へと足を運ぶ。しかし、館に到着すると、彼を待ち受けていたのは、過去の悲劇と不気味な現象、そして不可解な暗号の数々だった。兄弟が失踪した事件、村に伝わる「月影の呪い」、さらには日記に隠された暗号が、葉羽と彩由美を恐怖の渦へと引きずり込む。
果たして、葉羽はこの謎を解き明かし、彩由美を守ることができるのか? 二人の絆と、月影館の真実が交錯する中、彼らは恐ろしい結末に直面する。
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
おさかなの髪飾り
北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明
物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる
なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか?
夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた
保険金殺人なのか? それとも怨恨か?
果たしてその真実とは……
県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる