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2章 冒険者ギルド
報告書①
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「デカい魔物は隙だらけだね~~」
ニレナが腰から下げたナイフを引き抜くと、巨大な熊型の魔物に目掛けて投擲した。
放たれたナイフは正確に灰色の毛並みを持つ大熊の目に突き刺さり、灰色熊がよろめいた。
「はい、眼を潰したよ~~止め宜しく~~」
ニレナが涼しい顔で合図を送ると、ニレナと交代するように前に飛び出した。
灰色熊は近づいてくる俺に気がつかないまま、両腕を振り回し続けている。
隙だらけの灰色熊を真紅の大鎌で一閃、切り裂くと灰色熊は一撃で倒れた。
「……ふう」
「いえ~~い。息ぴったり~~私たち、最高のパートナーだね~~」
真紅の大鎌に白帯を巻き直しているとニレナが後ろから抱き着いてきた。
「近い近い……重…くはないけど、動きにくいから」
そう言いながら背中から抱き着くニレナを引きはがすと、ニレナが頬を膨らませた。
「照れちゃって~~。あーあ、パーティを組んだ時は、あんなに情熱的に誘ってくれたのにな~~」
ニレナとパーティを組んでから三日間が経った。
その間、俺たちは毎日クエストを受け続けた。その間も、こうして俺はニレナにパーティを組んだ時のことを弄られ続けていた。
基本的にはDランクのニレナがランク相当の……まあ基本的にはDランクの依頼を受けて、Fランクの俺が同行する形だ。
俺一人ではFランクの依頼しか受けられないので、こうしてパーティを組んでくれたニレナには本当に感謝している。
「ん゛ん゛っ」
「あ~~、照れてる~~」
「いや、別に……」
顔を背けるが、ニレナがニヤニヤしながら顔を覗き込んできた。
両手を挙げて降参の意を示してニレナに別の話題を振る。
「それにしても、本当に大丈夫なのか?こうして毎日俺のランク上げに付き合って貰っている訳だけど……」
「ま、他にやることもないしね~~それに、一日も早くAランクに上がらなきゃいけないんでしょ?」
ニレナには、俺が一刻も早くAランクに上がらなくてはいけないということは伝えてある。
もちろん、フラメアの組織のことや俺が《来訪者》であることはぼかして、だが。
ニレナもかなり協力してくれて、こうしてパーティを組んでからは毎日依頼に付き合って貰っている。
「まあ。それはそうなんだけど……体力的にも大丈夫なのか?普通、冒険者って依頼をこなしたら数日は休むものなんだろ?」
「これくらいで根を上げてたらやっていけないからね~~並の冒険者とは鍛え方が違うんだよ~~」
ニレナはそう言うと、力こぶを作って見せた。
この華奢な腕のいったいどこに、あの厳つい冒険者を捻った力があるのかは分からない。
「それに、早くおねーさんともっと上のランクの依頼を受けたいからね~~」
そこまで言うと、後ろ手を組みながらニレナがにっと笑った。
「だから早く上がってきてよね、私のおねーさん」
◇◇◇
「じゃ、お疲れ~~また明日ね~~」
「ああ、また明日も頼む」
受付で灰色熊の討伐完了の報告を済ませてニレナと別れると、そのまま宿に向かうのではなく酒場に向かう。
依頼が終わった後はいつも、エリシアと酒場でその日の依頼の様子や今後の予定を話し合うことになっているのだ。
この酒場は食事処としての機能も兼ねており、酒を飲まずに食事だけ済ますこともできるので、エリシアが果実酒を飲んでいる横で俺は夕飯を済ませている。
「さて、エリシアは……あっいた。あいついつも端の席で飲んでるな……」
ちなみにニレナは依頼が終わった後は酒場にも寄らずにさっさと帰っている。案外、仕事とプライベートは分けるタイプなのかもしれない。
「……楽しそうですね~~……」
エリシアは酒場の端のテーブルでふくれ面で果実酒をすすっていた。
「楽しそうって……依頼だぞ」
俺はエリシアの対面に座ると、酒場の親父にエレド豚のステーキを注文した。
エレド豚とはユスティニアの森の郊外に出没する豚型の魔物だ。雑食性で何でも食べるため討伐依頼がよく出ていてこの街にも卸されているのだ。しかも魔物の割にその肉質は脂が乗っていて非常に美味しい。
正直、俺は【魂の収穫】をする限り、睡眠も食事も必要ではないのだが、それでもどちらも取るようにしている。
食事も睡眠も、人間としての心の健康を保つうえで大切なことだと思うからだ。
エレド豚のステーキを頬張っていると、エリシアが飲んでいる酒にぶくぶくと泡を立てながらジト目でこっちを見てきた。
「……やらんぞ」
「いらないってば……。それより貴方、一か月以内にAランクに上がらないととんでもない目に遭うこと、覚えてます~~?」
「まあ順調なんだからいいだろ……しかもほら、今日とうとうEランクに上がったわけだし」
そう言って今日Eランクに上がったばかりの冒険者カードを取り出して見せると、エリシアはますます複雑な顔をした。
「まあ、それはそうだけどさ~……」
そう言いながら、エリシアは口を尖らせて反対側の手で頬杖をついた。
どうもここ数日、エリシアが不機嫌だ。
(……まあ、どう考えてもあの件だよな~~……)
これには思い当たる節がある。
俺が魔力欠乏症にかかった日のあの夜、エリシアの忠告を破ってニレナの前で特能の能力を使ってしまった件だ。
あの時はエリシアも非常事態ということでしぶしぶ納得してくれたのだが、大鎌を使うどころか【魂の収穫】に【影槍】まで使ってしまったは流石にまずかったかもしれない。
ニレナの性格的に言いふらしたりはしないだろうけど、俺の監視役としては内心は穏やかではないだろう。
いつもならこの酒飲み女に言い返すところだが、今回ばかりは俺の方に非があるので強く言い返せずにいる。
「…………」
気まずくて黙ってステーキを口に放り込んでいると、エリシアの方から口を開いた。
「……ごめん」
「……何が?」
まさか逆にエリシアの方から謝れるとは思っていなかった。
本気で何について謝られているのか分からない。
「……アマヤが魔力欠乏症にかかったあの日、私は、全然役に立たなかった。貴方の協力者なのに……あの時だってニレナがいなかったら正直、どうなっていたことか……」
エリシアが俯きながらぽつりと呟いた。
こいつ、ここ数日やけに大人しいと思っていたら、ずっとそんなことを気にしてたのか。
こういうところだけは妙に真面目というか、なんというか。
(いや、役には立っていたんだよな……)
あの時俺が魔力欠乏症だと分かったのだってエリシアが見抜いたものだし、エリシアが必死になって俺のパーティ相手を探してくれたからニレナと組めたわけでもある。
エリシアが役に立っていなかったかというと、決してそんなことはない。
――だが……
(言いたくね~~……)
この女と協力者になってからの経験上、ここで褒めると十中八九この女は調子に乗る。
ただでさえここ数日ニレナに弄られ続けているのにこれでエリシアまで調子に乗り出すと煩くてたまったものじゃない。
「…………」
エリシアの様子を見れば、珍しくしょげている。
この様子を見るに本気で凹んでるらしい。
「……エリシアには感謝してるよ」
結局、俺は折れた。
「……ほんと?」
エリシアが顔色を窺うように上目遣いでこちらを見上げてくる。
「エリシアに庇って貰わなかったらあのままフラメアに殺されていてもおかしくなかったし、一か月でAランク冒険者になるっていう無茶ぶりも、まあ……エリシアが協力者で良かったと思う」
俺がそう言うと、エリシアがガバっと顔を上げてこちらに身を乗り出してきた。
「でしょでしょ!?ま、まあ~~そこまで言うなら?これからも協力してあげないこともないけど?」
エリシアは上機嫌に笑うと、運ばれてきた果実酒に口をつけた。
一瞬で調子に乗ったな。
はあ……まあ、いいか。あのまましょげられていてもやりづらかったし。
「そこで~~この頼れるエリシアさんが、アマヤにいいものをあげよう!」
エリシアは上機嫌なまま懐からごそごそと何を取り出すと、じゃーんと、テーブルの上に紙の束を置いた。
「……なにこれ?」
ペラペラとめくる。数十枚に渡って冒険者の情報がみっちりと書き込まれていた。
「この都市のめぼしい冒険者のリスト。例えばあの夜、アマヤに絡んできた冒険者とか、これから協力してくれるかもしれない冒険者の情報を集めてきた。……あと、これ本当は部外秘だから内緒ね」
おい、そんなもんを渡してくるな。
これフラメアにバレたら俺まで処分されないだろうな。
若干引きつつも、報告書に書き込まれている情報を見ていく。
そこには様々な冒険者がランク・所属パーティ等の冒険者に関する情報に加えて、これまでの経歴や性格まで書き込まれていた。
「これは……すごいな」
素直に感心していると、エリシアは複雑そうな顔をした。
「……まあ、元々、これが私の本来の任務だから」
……この組織、こんな諜報じみたことまでしてんのかよ。
いよいよ闇の組織だなこりゃ。今回の件にカタがついて日野と白鳥を取り返したら早いとこ逃げないと。
「この都市でやっていくのに役に立つと思うから、一度目を通しておいて」
エリシアはそのまま俺に冒険者のリストを押し付けると、ルンルンで帰って行った。
◇◇◇
夕食を食べ終わり、宿に戻る頃にはすっかり日も沈み切っていた。
窓から差し込んでくる月明りと、枕もとに置かれた蝋燭の明かりだけがこの部屋を照らす唯一の光だ。
一応、照明に当たる魔道具もあるらしいので大通りの商店で探してみたのだが、Eランクの収入ではとても買える価格じゃ無かった。
というか、照明よりも先に水をお湯に温められる魔道具の方が欲しい。
水で身体を洗うのはマジで辛い。いつまで経っても全然慣れやしない。
ベッドに腰かけながら今日はもう寝てしまおうかと思った拍子に、ふと机の上に置いていたエリシアから渡された報告書が目に入った。
「そういえば、まだちゃんと読んでなかったなこれ。……一応、読んでおくか」
寝る前にエリシアが渡して来た冒険者のリストをペラペラとめくる。
書かれているのは、冒険者の経歴やランクなどまでかなり詳細に書かれている。
「前々から思っていたけど、この組織、かなりヤバイよな……」
そもそもフラメア、エリシアとかいう化け物を抱えていて、異世界からの来訪者を集めて回っている時点でかなりヤバイ。それでいて諜報活動までやってるときた。
組織名、活動内容、一切明かさないが絶対碌でもない組織だろうな。裏で暗殺とかしていても全然不思議じゃない。
そんなことを考えながら、ひとりひとりと冒険者のリストをめくっていく。
冒険者一人当たりに記されている情報もかなり多いので、一頁読み進めるだけでもかなり時間がかかる。
最後の頁にたどり着く頃には、すっかり夜も更けてしまっていた。
「これで最後の一人か……」
蝋燭の明かりに照らしながら最後の頁をめくる。
最後の頁には、ニレナについての報告書が書いてあった。
ニレナが腰から下げたナイフを引き抜くと、巨大な熊型の魔物に目掛けて投擲した。
放たれたナイフは正確に灰色の毛並みを持つ大熊の目に突き刺さり、灰色熊がよろめいた。
「はい、眼を潰したよ~~止め宜しく~~」
ニレナが涼しい顔で合図を送ると、ニレナと交代するように前に飛び出した。
灰色熊は近づいてくる俺に気がつかないまま、両腕を振り回し続けている。
隙だらけの灰色熊を真紅の大鎌で一閃、切り裂くと灰色熊は一撃で倒れた。
「……ふう」
「いえ~~い。息ぴったり~~私たち、最高のパートナーだね~~」
真紅の大鎌に白帯を巻き直しているとニレナが後ろから抱き着いてきた。
「近い近い……重…くはないけど、動きにくいから」
そう言いながら背中から抱き着くニレナを引きはがすと、ニレナが頬を膨らませた。
「照れちゃって~~。あーあ、パーティを組んだ時は、あんなに情熱的に誘ってくれたのにな~~」
ニレナとパーティを組んでから三日間が経った。
その間、俺たちは毎日クエストを受け続けた。その間も、こうして俺はニレナにパーティを組んだ時のことを弄られ続けていた。
基本的にはDランクのニレナがランク相当の……まあ基本的にはDランクの依頼を受けて、Fランクの俺が同行する形だ。
俺一人ではFランクの依頼しか受けられないので、こうしてパーティを組んでくれたニレナには本当に感謝している。
「ん゛ん゛っ」
「あ~~、照れてる~~」
「いや、別に……」
顔を背けるが、ニレナがニヤニヤしながら顔を覗き込んできた。
両手を挙げて降参の意を示してニレナに別の話題を振る。
「それにしても、本当に大丈夫なのか?こうして毎日俺のランク上げに付き合って貰っている訳だけど……」
「ま、他にやることもないしね~~それに、一日も早くAランクに上がらなきゃいけないんでしょ?」
ニレナには、俺が一刻も早くAランクに上がらなくてはいけないということは伝えてある。
もちろん、フラメアの組織のことや俺が《来訪者》であることはぼかして、だが。
ニレナもかなり協力してくれて、こうしてパーティを組んでからは毎日依頼に付き合って貰っている。
「まあ。それはそうなんだけど……体力的にも大丈夫なのか?普通、冒険者って依頼をこなしたら数日は休むものなんだろ?」
「これくらいで根を上げてたらやっていけないからね~~並の冒険者とは鍛え方が違うんだよ~~」
ニレナはそう言うと、力こぶを作って見せた。
この華奢な腕のいったいどこに、あの厳つい冒険者を捻った力があるのかは分からない。
「それに、早くおねーさんともっと上のランクの依頼を受けたいからね~~」
そこまで言うと、後ろ手を組みながらニレナがにっと笑った。
「だから早く上がってきてよね、私のおねーさん」
◇◇◇
「じゃ、お疲れ~~また明日ね~~」
「ああ、また明日も頼む」
受付で灰色熊の討伐完了の報告を済ませてニレナと別れると、そのまま宿に向かうのではなく酒場に向かう。
依頼が終わった後はいつも、エリシアと酒場でその日の依頼の様子や今後の予定を話し合うことになっているのだ。
この酒場は食事処としての機能も兼ねており、酒を飲まずに食事だけ済ますこともできるので、エリシアが果実酒を飲んでいる横で俺は夕飯を済ませている。
「さて、エリシアは……あっいた。あいついつも端の席で飲んでるな……」
ちなみにニレナは依頼が終わった後は酒場にも寄らずにさっさと帰っている。案外、仕事とプライベートは分けるタイプなのかもしれない。
「……楽しそうですね~~……」
エリシアは酒場の端のテーブルでふくれ面で果実酒をすすっていた。
「楽しそうって……依頼だぞ」
俺はエリシアの対面に座ると、酒場の親父にエレド豚のステーキを注文した。
エレド豚とはユスティニアの森の郊外に出没する豚型の魔物だ。雑食性で何でも食べるため討伐依頼がよく出ていてこの街にも卸されているのだ。しかも魔物の割にその肉質は脂が乗っていて非常に美味しい。
正直、俺は【魂の収穫】をする限り、睡眠も食事も必要ではないのだが、それでもどちらも取るようにしている。
食事も睡眠も、人間としての心の健康を保つうえで大切なことだと思うからだ。
エレド豚のステーキを頬張っていると、エリシアが飲んでいる酒にぶくぶくと泡を立てながらジト目でこっちを見てきた。
「……やらんぞ」
「いらないってば……。それより貴方、一か月以内にAランクに上がらないととんでもない目に遭うこと、覚えてます~~?」
「まあ順調なんだからいいだろ……しかもほら、今日とうとうEランクに上がったわけだし」
そう言って今日Eランクに上がったばかりの冒険者カードを取り出して見せると、エリシアはますます複雑な顔をした。
「まあ、それはそうだけどさ~……」
そう言いながら、エリシアは口を尖らせて反対側の手で頬杖をついた。
どうもここ数日、エリシアが不機嫌だ。
(……まあ、どう考えてもあの件だよな~~……)
これには思い当たる節がある。
俺が魔力欠乏症にかかった日のあの夜、エリシアの忠告を破ってニレナの前で特能の能力を使ってしまった件だ。
あの時はエリシアも非常事態ということでしぶしぶ納得してくれたのだが、大鎌を使うどころか【魂の収穫】に【影槍】まで使ってしまったは流石にまずかったかもしれない。
ニレナの性格的に言いふらしたりはしないだろうけど、俺の監視役としては内心は穏やかではないだろう。
いつもならこの酒飲み女に言い返すところだが、今回ばかりは俺の方に非があるので強く言い返せずにいる。
「…………」
気まずくて黙ってステーキを口に放り込んでいると、エリシアの方から口を開いた。
「……ごめん」
「……何が?」
まさか逆にエリシアの方から謝れるとは思っていなかった。
本気で何について謝られているのか分からない。
「……アマヤが魔力欠乏症にかかったあの日、私は、全然役に立たなかった。貴方の協力者なのに……あの時だってニレナがいなかったら正直、どうなっていたことか……」
エリシアが俯きながらぽつりと呟いた。
こいつ、ここ数日やけに大人しいと思っていたら、ずっとそんなことを気にしてたのか。
こういうところだけは妙に真面目というか、なんというか。
(いや、役には立っていたんだよな……)
あの時俺が魔力欠乏症だと分かったのだってエリシアが見抜いたものだし、エリシアが必死になって俺のパーティ相手を探してくれたからニレナと組めたわけでもある。
エリシアが役に立っていなかったかというと、決してそんなことはない。
――だが……
(言いたくね~~……)
この女と協力者になってからの経験上、ここで褒めると十中八九この女は調子に乗る。
ただでさえここ数日ニレナに弄られ続けているのにこれでエリシアまで調子に乗り出すと煩くてたまったものじゃない。
「…………」
エリシアの様子を見れば、珍しくしょげている。
この様子を見るに本気で凹んでるらしい。
「……エリシアには感謝してるよ」
結局、俺は折れた。
「……ほんと?」
エリシアが顔色を窺うように上目遣いでこちらを見上げてくる。
「エリシアに庇って貰わなかったらあのままフラメアに殺されていてもおかしくなかったし、一か月でAランク冒険者になるっていう無茶ぶりも、まあ……エリシアが協力者で良かったと思う」
俺がそう言うと、エリシアがガバっと顔を上げてこちらに身を乗り出してきた。
「でしょでしょ!?ま、まあ~~そこまで言うなら?これからも協力してあげないこともないけど?」
エリシアは上機嫌に笑うと、運ばれてきた果実酒に口をつけた。
一瞬で調子に乗ったな。
はあ……まあ、いいか。あのまましょげられていてもやりづらかったし。
「そこで~~この頼れるエリシアさんが、アマヤにいいものをあげよう!」
エリシアは上機嫌なまま懐からごそごそと何を取り出すと、じゃーんと、テーブルの上に紙の束を置いた。
「……なにこれ?」
ペラペラとめくる。数十枚に渡って冒険者の情報がみっちりと書き込まれていた。
「この都市のめぼしい冒険者のリスト。例えばあの夜、アマヤに絡んできた冒険者とか、これから協力してくれるかもしれない冒険者の情報を集めてきた。……あと、これ本当は部外秘だから内緒ね」
おい、そんなもんを渡してくるな。
これフラメアにバレたら俺まで処分されないだろうな。
若干引きつつも、報告書に書き込まれている情報を見ていく。
そこには様々な冒険者がランク・所属パーティ等の冒険者に関する情報に加えて、これまでの経歴や性格まで書き込まれていた。
「これは……すごいな」
素直に感心していると、エリシアは複雑そうな顔をした。
「……まあ、元々、これが私の本来の任務だから」
……この組織、こんな諜報じみたことまでしてんのかよ。
いよいよ闇の組織だなこりゃ。今回の件にカタがついて日野と白鳥を取り返したら早いとこ逃げないと。
「この都市でやっていくのに役に立つと思うから、一度目を通しておいて」
エリシアはそのまま俺に冒険者のリストを押し付けると、ルンルンで帰って行った。
◇◇◇
夕食を食べ終わり、宿に戻る頃にはすっかり日も沈み切っていた。
窓から差し込んでくる月明りと、枕もとに置かれた蝋燭の明かりだけがこの部屋を照らす唯一の光だ。
一応、照明に当たる魔道具もあるらしいので大通りの商店で探してみたのだが、Eランクの収入ではとても買える価格じゃ無かった。
というか、照明よりも先に水をお湯に温められる魔道具の方が欲しい。
水で身体を洗うのはマジで辛い。いつまで経っても全然慣れやしない。
ベッドに腰かけながら今日はもう寝てしまおうかと思った拍子に、ふと机の上に置いていたエリシアから渡された報告書が目に入った。
「そういえば、まだちゃんと読んでなかったなこれ。……一応、読んでおくか」
寝る前にエリシアが渡して来た冒険者のリストをペラペラとめくる。
書かれているのは、冒険者の経歴やランクなどまでかなり詳細に書かれている。
「前々から思っていたけど、この組織、かなりヤバイよな……」
そもそもフラメア、エリシアとかいう化け物を抱えていて、異世界からの来訪者を集めて回っている時点でかなりヤバイ。それでいて諜報活動までやってるときた。
組織名、活動内容、一切明かさないが絶対碌でもない組織だろうな。裏で暗殺とかしていても全然不思議じゃない。
そんなことを考えながら、ひとりひとりと冒険者のリストをめくっていく。
冒険者一人当たりに記されている情報もかなり多いので、一頁読み進めるだけでもかなり時間がかかる。
最後の頁にたどり着く頃には、すっかり夜も更けてしまっていた。
「これで最後の一人か……」
蝋燭の明かりに照らしながら最後の頁をめくる。
最後の頁には、ニレナについての報告書が書いてあった。
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