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2章 冒険者ギルド
冒険者
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「なあ、次にBランクに上がるのが誰か、賭けてみようぜ」
「間違いなくステラかノックスだな。実績を考えればノックスだが……今はステアの方が勢いがある」
「じゃあ、お前はステラに賭けるってことでいいな?俺はノックスに賭けるぜ」
「ああ、いいぜ」
「へへ……じゃあこれで賭けが成立だな。……ところで、昨日ノックスの奴がBランクのクエストを達成したらしい。んでもって同じパーティーのガデインの奴はその依頼でBランクに上がったらしいぜ」
「おい!テメェ汚えぞ!それ黙って賭けを持ちかけやがったな!!じゃあどう考えてもノックスに決まってるじゃねえか!賭けた金返しやがれ!!」
「うるせぇ!!賭けは成立してるんだから文句言うんじゃねぇ!!ステラのが勢いがあるんだろ!?」
「テメェこの野郎――」
「……………………」
エリシアが報告を済ませて戻って来るのを待っている間することも無かったので、行き交う冒険者を眺めていたら俺の目の前でいきなり喧嘩が始まった。
なんでだよ。
(やっぱり冒険者って柄が悪いし、碌でもない職業だな……)
巻き込まれないように退散しつつ、そこら辺の壁にもたれ掛かかっていた。
テーブルに座っていないのは、一人で飲んでると思われて酔っ払った冒険者にでも声をかけられたら嫌だからだ。
"冒険者"と一言でくくっても、その格好は様々だった。
鎧を着て長剣や槍を背負っている者、ローブ姿の魔法使いっぽい格好の者、軽装で弓を背負った狩人のような格好の者……とまあ本当に千差万別だ。
そんなことを考えながら行き交う冒険者たちをぼーっと眺めていると、ふと一人の冒険者に目が留まった。
その冒険者は、他の冒険者と比べてかなり軽装……というよりほとんど防具らしい防具は付けておらず、腰にナイフを何本かとポーチをいくつか付けているだけという、かなり身軽な格好をしていた。
……というより純粋に肌の露出が多すぎる気がする。肩やお腹、太ももが丸出しの短い服に、膝上まであるブーツ。
黒い髪は後ろで束ねていて、腰には革のベルトでナイフを何本もぶら下げている。
なんというか……露出度が高すぎる。目のやり場に困るというか、見ているこっちが恥ずかしくなってくるような格好だ。
(随分薄着だな……魔物と戦うなら、せめて鎖帷子でも着ていた方がいいんじゃないか?)
そんなことを考えながらその冒険者を眺めていると、その冒険者がふとこちらを向き、バチっと一瞬、目が合った。
(やば……いくらなんでも、ジロジロ見すぎた)
慌てて視線を逸らす。が、その冒険者は迷いない足取りで一直線にこちらに歩いて来た。
内心の動揺を抑えながら、なるべく平静を装ってその冒険者をやり過ごそうとするが、その冒険者は俺の前で立ち止まった。
(あー、駄目だこれ……初日から揉め事かー……エリシアのせいだからな、これ)
俺は潔く心の中で観念すると、その冒険者の方に向き直った。
「あはっ、おねーさん、いま目が合ったよね~~?」
その冒険者は、顔をぐぐっと近づけて来てそう言った。
目鼻立ちの整った顔立ちに長い睫毛と大きな瞳が印象的だ。だが今はその目は悪戯っぽく細められていて、口元はニヤニヤと笑っている。
(ち、近い……)
思わず顔を背けるとさらに顔を近付けて来たため、仕方なく正面を向いてその冒険者に向き合った。
「その……服が気になって見てたんだ。ジロジロ見て気を悪くさせてしまったら謝るよ。ごめん。」
「服~~?この服のどこが気になるの~~?」
冒険者はそういうと、おもむろにその場でくるりと一回転した。
ヒラヒラした短いスカートがひらりと舞い、太もものかなり際どい所まで見えそうになった。
慌てて目を逸らす。
冒険者は俺の反応を見てさらに楽しそうにニヤニヤと笑っている。
(なんだこれ……)
冒険者に絡まれるのが嫌だから立ってたのに、結局絡まれてるし。
どうにも見ていた理由を話さないことを観念してもらえそうにないので、素直に話すことにした。
「俺、じゃない……私は冒険者じゃないから詳しくは分からないんだけど、君は冒険者ってやつなんだよな?その服だと肌が出ているし、魔物と戦うには危険じゃないのかなって思って……見てた」
素直にそう答えると、冒険者はきょとんとした顔になった。
そしてやがて合点がいったというようにぽんと手を打った。
「ああ、おねーさん冒険者じゃないから"防護魔法"も知らないんだ?」
「"防護魔法"?」
俺が尋ねると、冒険者は更にニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべた。
「え~~?どーしょっかな~~教えてあげよっかな~~?」
そう言って、俺の腕をつんとつついて来る。
なんだこの冒険者。他人との距離感がバグっている。
「ちょ……」
「あはっ、面白い反応。」
どうやら俺の反応を見て満足したらしい。
冒険者はにんまりと笑って話し始めた。
「まあいいや、教えてあげる。この服には防護魔法っていうのがかかっていて、魔力を放出して鎧のように身に纏うことで外部からの攻撃を防ぐことが出来るんだよ」
つまり、この服は防御力そのものじゃなくてその防護魔法がメインってことらしい。
「……ん?それなら、他の冒険者もプレートなんかつけないで、その防護魔法がかかった服を着ていればいいんじゃないか?そっちの方が軽いだろ」
「もちろん他の冒険者もみんな着ている装備には防護魔法がかかってるよ、強度の差はあるけどね。それでもプレートを付けたりや重い鎧を着るのは、やっぱり防護魔法だけじゃ心許ないからだろうね。それに防護魔法だって何度も攻撃を受けたら壊れちゃうし」
なるほど、防護魔法にも強度に限界があるってことか。
身軽さを取るか、それとも防護魔法が解けた後の安心を取るかってことかな。
言われてみればプレートや鎧を着ているのは前衛で戦ってそうなガタイのいい男ばかりで、後衛で戦ってそうな魔法使いや弓を持っている冒険者が比較的軽装なのはそういうことか。
「なるほどな。合点が言ったよ、ありがとう……えーと……」
そう言えば、まだ名前を聞いていなかった。
言葉に詰まって冒険者の顔を見ていると冒険者は首を傾げた。
「?どうしたの?」
「いや、名前を聞いていなかったと思って」
「あはっ、律儀だね~~私、ニレナって言うの」
「……ニレナは、どうして冒険者に?」
俺は冒険者にならなければフラメアに殺されるので、なるしかない。
じゃあ、他の冒険者たちは何故わざわざ危険な冒険者なんてものになったのだろうか?
特権?地位?それとも他の何かのために?
気になって尋ねてみると、ニレナは「ん~~」と間延びした声を出しながら少し考えたあと、答えを出した。
「……ま、殺しの他にできることもないからね~~」
ニレナはさらりとおっかないことを言いだした。
「へ、へえ~~…………」
引きつった顔で相槌を打つ。
何これ、冒険者ジョーク?それとも素で言ってる?
そんな俺の反応を見て、ニレナは目を細めて悪戯が成功した子供のように笑った。
「ねえねえ、おねーさんも冒険者になるの~~?」
冒険者にはなる……んだけど、これ、言ってもいいんだっけ?
「いや、それは……」
「ねえねえ~~どうなの~~?」
回答を濁しているとニレナが肘を押し付けてくる。
助けてくれ、エリシア。お前の協力者は、今にも精神が壊れかけているぞ。
「お待たせ~~。受付の子に捕まっちゃってさー。ちょっと時間かかっちゃった」
俺が新人冒険者としての洗礼を受けているうちに、エリシアが戻って来た。
若干能天気なのはこの際、まあいい。
「なんだ~~一人じゃなかったんだ~~」
ニレナが口を尖らせてつまらなさそうに言う。
「じゃ、冒険者になったら宜しくね~~」
連れが戻ってきたと分かると、ニレナは途端に興味を無くしたように手をヒラヒラと振って去って行った。
その様子を見てエリシアが首をかしげた。
「……何かあった?」
「お前がいきなり消えるから、怖い冒険者に絡まれてた」
言いながら、エリシアへ抗議の視線を向ける。
「ああ……そういうことか。ここじゃ日常茶飯事だから気にしない方がいいよ」
エリシアは平然と答えながら、ごそごそと懐を探り始めた。
この女……
「まあそれより……あった、ほらこれ」
中身のずっしりと入った巾着袋を渡してきた。
「本当は冒険者同士の報酬金の受け渡しは不正に繋がるから禁止なんだけど、貴方はまだ冒険者じゃないから」
エリシアから渡された巾着袋の中身を見れば、中に金貨や銀貨がぱんぱんに詰まっていた。
おお……金だ。
金が、金だ。
「ほら、ぼーっとしてないでついて来て。まだやることがあるんだから」
「やることって?」
俺が尋ねると、エリシアは歩きながら答えた。
「『鑑定』よ」
「間違いなくステラかノックスだな。実績を考えればノックスだが……今はステアの方が勢いがある」
「じゃあ、お前はステラに賭けるってことでいいな?俺はノックスに賭けるぜ」
「ああ、いいぜ」
「へへ……じゃあこれで賭けが成立だな。……ところで、昨日ノックスの奴がBランクのクエストを達成したらしい。んでもって同じパーティーのガデインの奴はその依頼でBランクに上がったらしいぜ」
「おい!テメェ汚えぞ!それ黙って賭けを持ちかけやがったな!!じゃあどう考えてもノックスに決まってるじゃねえか!賭けた金返しやがれ!!」
「うるせぇ!!賭けは成立してるんだから文句言うんじゃねぇ!!ステラのが勢いがあるんだろ!?」
「テメェこの野郎――」
「……………………」
エリシアが報告を済ませて戻って来るのを待っている間することも無かったので、行き交う冒険者を眺めていたら俺の目の前でいきなり喧嘩が始まった。
なんでだよ。
(やっぱり冒険者って柄が悪いし、碌でもない職業だな……)
巻き込まれないように退散しつつ、そこら辺の壁にもたれ掛かかっていた。
テーブルに座っていないのは、一人で飲んでると思われて酔っ払った冒険者にでも声をかけられたら嫌だからだ。
"冒険者"と一言でくくっても、その格好は様々だった。
鎧を着て長剣や槍を背負っている者、ローブ姿の魔法使いっぽい格好の者、軽装で弓を背負った狩人のような格好の者……とまあ本当に千差万別だ。
そんなことを考えながら行き交う冒険者たちをぼーっと眺めていると、ふと一人の冒険者に目が留まった。
その冒険者は、他の冒険者と比べてかなり軽装……というよりほとんど防具らしい防具は付けておらず、腰にナイフを何本かとポーチをいくつか付けているだけという、かなり身軽な格好をしていた。
……というより純粋に肌の露出が多すぎる気がする。肩やお腹、太ももが丸出しの短い服に、膝上まであるブーツ。
黒い髪は後ろで束ねていて、腰には革のベルトでナイフを何本もぶら下げている。
なんというか……露出度が高すぎる。目のやり場に困るというか、見ているこっちが恥ずかしくなってくるような格好だ。
(随分薄着だな……魔物と戦うなら、せめて鎖帷子でも着ていた方がいいんじゃないか?)
そんなことを考えながらその冒険者を眺めていると、その冒険者がふとこちらを向き、バチっと一瞬、目が合った。
(やば……いくらなんでも、ジロジロ見すぎた)
慌てて視線を逸らす。が、その冒険者は迷いない足取りで一直線にこちらに歩いて来た。
内心の動揺を抑えながら、なるべく平静を装ってその冒険者をやり過ごそうとするが、その冒険者は俺の前で立ち止まった。
(あー、駄目だこれ……初日から揉め事かー……エリシアのせいだからな、これ)
俺は潔く心の中で観念すると、その冒険者の方に向き直った。
「あはっ、おねーさん、いま目が合ったよね~~?」
その冒険者は、顔をぐぐっと近づけて来てそう言った。
目鼻立ちの整った顔立ちに長い睫毛と大きな瞳が印象的だ。だが今はその目は悪戯っぽく細められていて、口元はニヤニヤと笑っている。
(ち、近い……)
思わず顔を背けるとさらに顔を近付けて来たため、仕方なく正面を向いてその冒険者に向き合った。
「その……服が気になって見てたんだ。ジロジロ見て気を悪くさせてしまったら謝るよ。ごめん。」
「服~~?この服のどこが気になるの~~?」
冒険者はそういうと、おもむろにその場でくるりと一回転した。
ヒラヒラした短いスカートがひらりと舞い、太もものかなり際どい所まで見えそうになった。
慌てて目を逸らす。
冒険者は俺の反応を見てさらに楽しそうにニヤニヤと笑っている。
(なんだこれ……)
冒険者に絡まれるのが嫌だから立ってたのに、結局絡まれてるし。
どうにも見ていた理由を話さないことを観念してもらえそうにないので、素直に話すことにした。
「俺、じゃない……私は冒険者じゃないから詳しくは分からないんだけど、君は冒険者ってやつなんだよな?その服だと肌が出ているし、魔物と戦うには危険じゃないのかなって思って……見てた」
素直にそう答えると、冒険者はきょとんとした顔になった。
そしてやがて合点がいったというようにぽんと手を打った。
「ああ、おねーさん冒険者じゃないから"防護魔法"も知らないんだ?」
「"防護魔法"?」
俺が尋ねると、冒険者は更にニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべた。
「え~~?どーしょっかな~~教えてあげよっかな~~?」
そう言って、俺の腕をつんとつついて来る。
なんだこの冒険者。他人との距離感がバグっている。
「ちょ……」
「あはっ、面白い反応。」
どうやら俺の反応を見て満足したらしい。
冒険者はにんまりと笑って話し始めた。
「まあいいや、教えてあげる。この服には防護魔法っていうのがかかっていて、魔力を放出して鎧のように身に纏うことで外部からの攻撃を防ぐことが出来るんだよ」
つまり、この服は防御力そのものじゃなくてその防護魔法がメインってことらしい。
「……ん?それなら、他の冒険者もプレートなんかつけないで、その防護魔法がかかった服を着ていればいいんじゃないか?そっちの方が軽いだろ」
「もちろん他の冒険者もみんな着ている装備には防護魔法がかかってるよ、強度の差はあるけどね。それでもプレートを付けたりや重い鎧を着るのは、やっぱり防護魔法だけじゃ心許ないからだろうね。それに防護魔法だって何度も攻撃を受けたら壊れちゃうし」
なるほど、防護魔法にも強度に限界があるってことか。
身軽さを取るか、それとも防護魔法が解けた後の安心を取るかってことかな。
言われてみればプレートや鎧を着ているのは前衛で戦ってそうなガタイのいい男ばかりで、後衛で戦ってそうな魔法使いや弓を持っている冒険者が比較的軽装なのはそういうことか。
「なるほどな。合点が言ったよ、ありがとう……えーと……」
そう言えば、まだ名前を聞いていなかった。
言葉に詰まって冒険者の顔を見ていると冒険者は首を傾げた。
「?どうしたの?」
「いや、名前を聞いていなかったと思って」
「あはっ、律儀だね~~私、ニレナって言うの」
「……ニレナは、どうして冒険者に?」
俺は冒険者にならなければフラメアに殺されるので、なるしかない。
じゃあ、他の冒険者たちは何故わざわざ危険な冒険者なんてものになったのだろうか?
特権?地位?それとも他の何かのために?
気になって尋ねてみると、ニレナは「ん~~」と間延びした声を出しながら少し考えたあと、答えを出した。
「……ま、殺しの他にできることもないからね~~」
ニレナはさらりとおっかないことを言いだした。
「へ、へえ~~…………」
引きつった顔で相槌を打つ。
何これ、冒険者ジョーク?それとも素で言ってる?
そんな俺の反応を見て、ニレナは目を細めて悪戯が成功した子供のように笑った。
「ねえねえ、おねーさんも冒険者になるの~~?」
冒険者にはなる……んだけど、これ、言ってもいいんだっけ?
「いや、それは……」
「ねえねえ~~どうなの~~?」
回答を濁しているとニレナが肘を押し付けてくる。
助けてくれ、エリシア。お前の協力者は、今にも精神が壊れかけているぞ。
「お待たせ~~。受付の子に捕まっちゃってさー。ちょっと時間かかっちゃった」
俺が新人冒険者としての洗礼を受けているうちに、エリシアが戻って来た。
若干能天気なのはこの際、まあいい。
「なんだ~~一人じゃなかったんだ~~」
ニレナが口を尖らせてつまらなさそうに言う。
「じゃ、冒険者になったら宜しくね~~」
連れが戻ってきたと分かると、ニレナは途端に興味を無くしたように手をヒラヒラと振って去って行った。
その様子を見てエリシアが首をかしげた。
「……何かあった?」
「お前がいきなり消えるから、怖い冒険者に絡まれてた」
言いながら、エリシアへ抗議の視線を向ける。
「ああ……そういうことか。ここじゃ日常茶飯事だから気にしない方がいいよ」
エリシアは平然と答えながら、ごそごそと懐を探り始めた。
この女……
「まあそれより……あった、ほらこれ」
中身のずっしりと入った巾着袋を渡してきた。
「本当は冒険者同士の報酬金の受け渡しは不正に繋がるから禁止なんだけど、貴方はまだ冒険者じゃないから」
エリシアから渡された巾着袋の中身を見れば、中に金貨や銀貨がぱんぱんに詰まっていた。
おお……金だ。
金が、金だ。
「ほら、ぼーっとしてないでついて来て。まだやることがあるんだから」
「やることって?」
俺が尋ねると、エリシアは歩きながら答えた。
「『鑑定』よ」
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