いともたやすく人が死ぬ異世界に転移させられて

kusunoki

文字の大きさ
上 下
1 / 34
1章 ユスティニアの森

理不尽な日常の中で

しおりを挟む
 "人生とは不幸の連続で、待ち受けているのは理不尽に次ぐ理不尽だけだ"
 と、いうのが今まで生きてきた中で出した結論だ。

 両親は昼間から酒を飲んで信号の色すら見分けのつかなくなったトラックに撥ねられて二人とも死んだ。
 親戚にはたらい回しにされて両親が遺してくれた遺産を毟り取られたあと捨てられた。

 挙げ句に、高校では――

「おい、死神・・が来たぞ!」

 ――”死神”なんて呼ばれ蔑まれている始末だ。


 教室のドアを開けるなり、今日も朝からそんな声が教室に響き渡る。
 廊下まで聞こえていた笑い声は一瞬で消え去り、代わりにひそひそと小声で話す声が聞こえてくる。

「おい、死神が来たぞ……」

「あいつも懲りねえよな。学校なんかさっさと辞めちまえばいいのに」

「あーあ。私、朝から気分悪くなってきちゃった」

 一斉に向けられる冷ややかな視線と陰口を無視して、今日も自分の席へ向かう。
 今さら気にすることもないが、さすがに毎日ともなると鬱陶しいものがある。

「……………………」

 しかし、自分の席に向かって歩いていた足は席に着くよりも手前で止まった。
 最前列の窓際から二番目、俺の机の上には――――

 や、、そしてが捨てられていた。

「何アレ、超ウケるんですけど」

「こんだけゴミが積んであるからゴミ箱かと思ったわ。雨夜さー、それ捨てといてくんね?」

 周りを見ればクラスメイト達がこっちを見てクスクスと笑っている。
 つまりはそういうことだ。

(下らねえ……)

 何も言わずそれらを一つにまとめると、そのままゴミ箱へと放り込んだ。
 その様子を見て、後ろからクスクスと笑っている声が一層大きくなった。

「おいおい、酷いことするなあ。、ゴミはゴミ箱に捨てないと」

 ようやく席に座ることが出来たと思えば、そんな言葉を吐きながら金髪の男子生徒が爽やかな笑顔を浮かべて近づいてきた。

 "一ヶ瀬"――表向きはハーフという整ったルックスに、学年でも最上位の成績で生徒会長まで勤めているクラスの人気者。
 しかし、その本性は極めて傲慢かつ陰湿で、自分は手を汚すことなく誰かを虐めさせてはその様をあざけ笑っているような男だ。

「……………………」

 白々しく話しかけてきた一ヶ瀬を無視すると、ピクッと一ヶ瀬の顔が引きつった。
 しかし一ヶ瀬が口を開くよりも先に、その隣にいた女子が喚き出した。

「おい!一ヶ瀬がせっかくお前みたいなゴミに話しかけてやってんだから何か反応しろよ!そういうところがキモいんだよ!!」

 そう吐き捨てながら生ゴミや虫ケラを見るかのような目で見下すのは"宮下"という女子だ。
 読者モデルをしていて校内にファンクラブがあるほどの人気ぶりで、クラスの男子達は彼女に気に入られたくて仕方がない。

「うむ。そもそも、このような扱いを受けるのは自分にも問題があるとは思わないのか?周囲に馴染めないのも自身の人格に問題があるからに違いない!」

 身長が 190cm 近い、いかにも堅物な男子が頷く。
 この大男は"門木"という男子で、高校二年生にして空手の全国大会で入賞するほどのスポーツエリートだ。

「まあまあ、彼も気が立っているんだろう。無視くらい、許してやろうじゃないか」

 そう言うと一ヵ瀬は見下すような視線を向けてきながらも騒ぐ宮下と門木の二人を宥めた。
 どういう風の吹き回しかと思っていると、一ヶ瀬が「あ、そうそう」と言いながら振り返った。



 一ヶ瀬はそう言って、紙パックに入った飲みかけのジュースを俺の頭の上で逆さにひっくり返してこぼした。

「ヤッバ~~~~!」
「フン、良い様だ」

 ずぶ濡れになった俺を見て宮下がケラケラと笑って、門木は鼻で笑った。
 他のクラスの生徒達もこの光景を見て笑い始めた。

「……………………」

 いつからか、何か起こる度に瞬間的に心を閉ざす術が身に付いた。
 どんなに辛い物事でも心を殺して静かに耐えていればいつかは過ぎ去っていく。

 正面から反抗したところで、疲れるだけだ。

「……チッ」

 俺が何の反応も示さないのを見ると、一ヶ瀬がつまらなさそうに舌打ちをした。

(……ホームルームが始まる前に机を拭いて、髪も水道で洗って流さないとな。制服は替えを持ってきてないから、今日はこのまま過ごすしかないか……)

 飲みかけのジュースが髪を伝って、机の上に小さな水溜まりを作っているのを眺めながら、そんなことを考えていた。

 別にこんなことは今に始まったことじゃない。
 だから俺はまだ、大丈夫だ。まだ耐えられる。

 大丈夫。大丈夫……

「…………くそ」

 心のうちに抑えきれなかった感情が、気がつかない間にぽつりと口から漏れ出していた。

 その時、教壇の方から涼しげな声が響いてきた。


「排斥に迫害、吊るし上げ……どこの世界でも、いつだって人間のやることは変わらないものね」

 突然聞こえてきたその声に、教室の中が一瞬で静まり返った。

「なんだ……?」

 何が起こったのかと顔を上げれば、クラス中の全員が同じ方を向いて固まっていた。
 クラス中の視線の集まる先、教壇の上、そこにはが退屈そうに足を組みながら、俺たちのことを見下ろしていた。

「おい、誰だよあの女……」

「ねえ……警察とか呼んだ方がいいんじゃない……?」

 教室に突然現れた謎の女にクラス中はざわめき立った。
 当の銀髪の女はというと、俺達の視線など少しも興味もないといったふうにその長い髪を弄っている。

 胸元の開いた黒いドレスの上に灰色のローブという、とても現代に似つかわしくはないその女の恰好は、まるで絵本やおとぎ話の世界の中からそのまま飛び出してきたような印象さえ受けた。

「……おい、どこから入った?いつからそこにいた?そもそも学校の関係者か?」

 水を差された苛立ちからか、一ヶ瀬が語気を荒くして女に詰め寄った。
 しかし銀髪の女は、詰め寄る一ヶ瀬のことを意にも返さずに一言だけ、

「【沈黙サイレンス】」

「おい!!聞いているのか!返答によってはただでは――――~~~~!!」

 、直前までまくし立てていた一ヶ瀬から、まるで声が奪われたように何も聞こえて来なくなった。
 一ヶ瀬は怒り狂った表情で喋っているが、口を上下させるのみでその音が発せられることは無かった。

「いいから黙って聞いていなさい、。私は……そうね、"時空の魔女ロザリア"とでも名乗りましょう」

 そう言って"ロザリア"と名乗った女がクラス中を一瞥すると、今度はロザリアを除くクラス中の全員が一ヶ瀬と同じように喋ることも、動くこともできなくなった。

 ロザリアは謎の力によって無理矢理黙らされた俺達を見て満足そうな表情を浮かべると、そのまま信じられないようなことを口走った。

「あなた達には"異世界"に行って貰うわ」

 …………は?――――――――

 俺はロザリアの突拍子もない言葉に、俺は一瞬自分の耳を疑った。
 ?本気で言っているのか?

 クラス中を見渡せば、クラスメイト達もだいだい俺と同じような感想のようだった。誰も彼もぽかんと口を開けて唖然としている。

 しかし、そんな俺たちのことなど欠片もおかまいなしに、ロザリアは淡々と、そして一方的に話を続けた。

「それでこのまま送ってもすぐ死ぬだろうから、私の力を少し分けてあげる。【特能ギフト】は一人一つだけ。何の【特能ギフト】を手に入れるかは神サマにでも祈って頂戴」

「向こうに行ったら好きにするといい。向こうの世界で力をつけ、私の元まで辿りつけた者は元の世界に戻してあげる」

「以上。どうせ・・・何割かは・・・・直ぐに死ぬ・・・・・のに長々と説明しても無駄だしね」

 そう言ってロザリアが話を打ち切ると、いつの間にか教室の天井と地面には"魔法陣"のような幾何学的な模様が浮かび上がっていた。

「おい、今の話って本当のことなのか!?」

「異世界とかって言ってたぞ!!」

「ねえ!これ何かの撮影だよね!?絶対そうだよ!!」

 いつの間にか俺たちの拘束を解いたのか、静まり返っていた教室は一転してパニックに陥った。
 ロザリアはそんな俺たちのことなどまるで興味がないかのように一つあくびをすると、

「それじゃ、死なないように頑張ってね」

 そう言って「パチン」と指を鳴らした。

 すると天井に描かれた魔法陣の先から徐々に巨大な物体がゆっくりとその姿を現した。

「は…………!?」

 魔法陣の先から出てきたそれ・・を見て、思わず声が出た。

 何の偶然か、それとも単なる遊び心か、魔法陣の先からゆっくりと出てきたのは


「……ああ、クソッ。なんでよりによってトラックなんだよ……」

 目の前で起こった信じられない現実から逃避するように意味の無い思考を巡らせるが、その間にもトラックは魔法陣からゆっくりとその巨体を顕にしようとしている。

 トラックが落下して意識を失う寸前、最後に覚えていたのはこっちを見て嘲笑っている魔女の顔だった。

「それではまた会いましょう。人類の皆様方」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...