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雨と泥水2

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 期末テストも終わり、生徒達は眩しい夏の訪れが待ちきれず心踊らせている。

 高校受験を前にそんな夏に浮かれる余裕など三年生にはないのだが、甘い初夏の香りが彼らの胸を高まらせる。
 受験生の夏を制するものは、と周りに囃し立てられ、テスト期間中は
 受験以外の話題はいっさいなかったものの、いざ夏休みを前にすると皆、開放的になってしまう。

 そんな季節のある昼休み、周囲の喧騒から離れるように高瀬優璃は一人、保健室のドアを開けた。うるさい教室から逃れる為だ。
 優璃は昨日の全校朝礼で学力最優秀賞の賞状を授与されたばかりだった。
 そんな彼の優秀さにつけこんで、勉強を教えて欲しいだのと言ってくる女子も多い。
 しかし優璃の性格からしてそんな同級生を思いやり、時間を割いて勉強を教えてやるという発想は一切なかった。
 優等生を装って優璃に近づいてくる女子達の下心が手に取るように分かり、嫌悪感すら覚える。

 優璃は保健室に入っても、入り口から誰かに呼び止められるんじゃないかと落ち着かず、奥の目隠しカーテンの方へ目をやった。カーテンの奥はベッドがあるのだが、使用には保健師の許可が必要となる。
 しかし優璃は躊躇なくベッドに向かった。どうせ見つかっても大目に見てくれるのは目に見えている。

 優璃は一度周囲を見渡しカーテンを引いた。そして目の前のベッドの膨らみに気づきハッとする。
 室内のあまりの静けさに、この部屋の自分以外の使用者は居ないものと思い込んでいたからだ。
 しかもよく見ると、そこで寝ているのは同じクラスの見覚えのある顔だった。

 (……牧野?)

 テスト期間中は教室の席は出席番号順に並ばされる。クラスの最後尾に近い隅の方の席でこじんまりと座っている牧野亮の姿を思い出す。その牧野が目の前で熟睡していた。


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