君と空の下

花森 雲空

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引っ越した先の隣人

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引っ越しをするまで、ビジネスホテルに一ヶ月泊まった。

なんとかライブ配信もこなし、夕方はいつもの駅前の噴水で千冬と落ち合い、仕事をこなした。

今日、やっと荷物を新居に持ち出せることができ、2LDKの部屋に引っ越すことになり、やっと預けていたルームからの家具も持ち運ぶことができた。

菓子折りを買い、夕方に引っ越しが終わったため、隣人に菓子折りを持っていくことにした。

(ピンポーン)

「はいはい!どちらさまですか?」





思わず息を飲んでしまった私。

千冬とは違う柔らかなオーラに思わず見とれてしまったのだ。

「すみません!隣に引っ越しました、草野瑞樹といいます。つまらないものですが、よろしくお願いします」

フワッとした髪に優しい笑顔で、菓子折りをうけとってくれた。

「はじめまして!真鍋蒼空(まなべそら)と言います。もしかして、ユーチューバーSOAさんじゃあ?」

私はドキッとした。そう、私SOAという名前で配信をしている。

「やっぱりSOAさんなんだ!僕、SOAさんのこと大好きで!あっ!ファンで。よかったら中にどうぞ!」

手を引かれ、中に入ると植物と沢山の本棚が並んでいた。

「かけていてください!紅茶いれますから」

インクの匂い、原稿用紙、書きやすそうな万年筆に、片付いた部屋。

明らかに、物書きで独り身だということがわかった。

「頂き物ですが、どうぞ!SOAさん!」

ハッと仕事モードに入っていた自分に気づき、いただきますと紅茶に手を伸ばした。

すると、蒼空は分厚い原稿用紙を私に渡した。

「これでも小説家の端くれで。書き終えたとこなんですよ!SOAさん、パラパラっと見てくれませんか?」

江波秋介!?(えなみしゅうすけ)

ミステリー作家で有名な人が蒼空なの!?

私と変わらない年齢に見えるのに、50代くらいの人かと思っていた。

気づいたら、食い入る様に読んでいた様で、蒼空の腹の虫の音が鳴るまで気づかなかった。

「あっ、すみません。長居して。今作もとても素敵でした!私も江波さんのファンなんです。よろしかったら、どこか食べに行きませんか?先生の好きな場所に」

口が上手いこと動くもんだ、私。

「先生だなんて!蒼空でいいよ、瑞樹」

ふとした瞬間だった。

紅茶の味のする蒼空の舌が口に入ると、真夏の風が原稿用紙を飛ばした。

「あの!私は彼氏がいて!」

蒼空は彼氏がいるのはわかっていると薬指をわざと撫でた。

携帯からタクシーを呼び、私を見つめた。

「20歳くらいかな?僕は25歳。焼き肉食べれる?」

それは、大人の関係をもとうという無言の圧力だった。




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