14 / 36
体育祭
しおりを挟む
カツン、というチョークが黒板を叩く音が賑やかな声にかき消されていく。
そっとチョークを置くと、休み時間のごとく賑やかな教室で声を張った。
「はい、という事で来月ある体育祭の種目決めしていきます。みんな希望決めたか?」
その声にわっと生徒の声が大きくなる。
部活のメンツで相談し合う子、遠くの席の友人と相談しようと声を張り上げる子、どうにか楽な競技を選びたいと思案する文化部の子。そんな騒々しい学生達を見ながら俺はチョークの粉で汚れた手を掃う。
学生生活の大イベントの1つといってもいい体育祭。
ここ金華高校ではちょっと珍しいが梅雨が明けた7月に開催される。
春はまだクラス全体が馴染んでないしレクレーション等の他行事もある。かといって二学期は文化祭もあるし、2年は修学旅行と行事が目白押しの為だ。
今日はその体育祭の種目決めをする日。
ホームルームの時間に決めると事前通達してあったのでもうすでに生徒達はワイワイその話に夢中だ。わかる、体育祭の種目は大事だよな。得意な奴はより目立てる競技にと集中するし、運動があまり……という人間は玉入れとか棒引きとか、そういう団体競技に集まりがちになる。
(俺もそうだったしなぁ……)
体育苦手勢のこの時間の必死さはかなりよく分かるので、頭を抱え悩んでいる生徒に心の中で「頑張れ」と応援しておいた。
「……三戸先生何してるんですか?」
「ん?生徒にエール送ってた」
「いやそれは本番に取っておいてくださいよ」
「俺はいつかなる時も生徒を応援してるんだ」
「へーそうなんですねー」
「おい、あからさまに面倒そうな返事やめろ」
「っははははは!」
軽く肩を小突くとふはっと息を漏らしたように津木先生が破顔する。
「津木先生って体育得意だった勢?」
「普通ですかね。けど部活の顧問の指示でリレーは強制参加でした」
「えっ、何部だったん?」
「陸上です。短距離」
「えええぇ~津木せんせ陸上部だったんですかぁ!?」
不意に前列に居た生徒が割って入ってくる。
驚いたその声は中々響いたようで近くの生徒達もなんだなんだと会話に混ざってきた。
「津木せんせー短距離してたんだってさ」
「うっそマジ?えー運動出来るんだかっこい~!」
「すげー。えっ、速いの?」
「いやいや……学生の時だしそんな速いわけじゃないから」
「いや運動部に所属している時点でもう運動神経は確約されたようなもんだろ」
「あんたは何を言ってるんですか」
「あははは!ミトセン運動苦手だもんね~」
「ね、学年レクのドッチボール酷かったもんね」
「あれは忘れろ」
「いやあれは酷かったですよ」
途端に弾ける笑い声。
呆れたような津木先生のツッコミも相まってさらに激しくなる。
……確かに学年レクの時のドッチボールは散々だった。生徒達にせがまれて津木と別々のチームに参戦してみたはいいもののそれはもう惨敗で。というより一応先輩で上司にあんなガチであてにくるやつあるか。憧れの先生なんだろ。
速攻外野に回された俺が執拗にボールで狙う間、顔をくしゃくしゃにして少年のように駆けまわる津木の姿はそれは楽しそうで生徒も大盛り上がりだった。思えばあの頃から俺はこいつの事を目で追うようになってたような気がする。
(……我ながら甘酸っぱい恋だなぁ~)
遠足で一緒に遊んだ時の事を思い出して……なんて小学生か。
ちらりと隣を見ると津木が運動部の生徒達に囲まれていた。特に陸上部の生徒は津木に興味津々の様子であれこれと専門的な質問をしては盛り上がっている。雑談に付き合うその姿はもう立派に先生していて、思わずふ、と目を細めた。
「……さてと。そろそろ相談は終了するか。それじゃあ各自希望する種目の所に名前書いていけ~」
ぱんっと手を鳴らし注目を集め声をかけると、生徒達は我先にと黒板の前に集まり始める。その様子を黒板の横に避けつつ眺めていると、そろそろと近寄ってきた津木先生が「あの」と呼びかけた。
「この“金華名物 混合リレー”って何ですか?」
「あー。それは簡単に言えば部活動リレーだな。学校全体で部活動別にチーム分けしてするうちの花形競技だよ」
「なるほど。だから今日の種目決めから外れてるんですね」
「そゆこと。各部で決めるからクラスは関係ないしな」
「あの、ならなんで名称は部活動リレーじゃなくて混合なんです?」
「……あー、それはな」
説明しようと口を開いたその時だった。黒板の前に居た生徒が「せんせー書き終わったよ」と声をかけてくる。いつの間にか全員書き終わっていたらしくほとんどの生徒が席に戻って雑談に花を咲かせていた。
「おー。よっし、ならこっから調整していくか。津木先生後半半分の調整お願いできますか?」
「あ、はい」
「よーしなら呼ばれた種目の希望者は俺か津木先生の所に集まれー」
その後も誰がどの種目に出るのか、移動するのはどこにするかでひと悶着あり、結局混合リレーについての説明はできないままだった。
そっとチョークを置くと、休み時間のごとく賑やかな教室で声を張った。
「はい、という事で来月ある体育祭の種目決めしていきます。みんな希望決めたか?」
その声にわっと生徒の声が大きくなる。
部活のメンツで相談し合う子、遠くの席の友人と相談しようと声を張り上げる子、どうにか楽な競技を選びたいと思案する文化部の子。そんな騒々しい学生達を見ながら俺はチョークの粉で汚れた手を掃う。
学生生活の大イベントの1つといってもいい体育祭。
ここ金華高校ではちょっと珍しいが梅雨が明けた7月に開催される。
春はまだクラス全体が馴染んでないしレクレーション等の他行事もある。かといって二学期は文化祭もあるし、2年は修学旅行と行事が目白押しの為だ。
今日はその体育祭の種目決めをする日。
ホームルームの時間に決めると事前通達してあったのでもうすでに生徒達はワイワイその話に夢中だ。わかる、体育祭の種目は大事だよな。得意な奴はより目立てる競技にと集中するし、運動があまり……という人間は玉入れとか棒引きとか、そういう団体競技に集まりがちになる。
(俺もそうだったしなぁ……)
体育苦手勢のこの時間の必死さはかなりよく分かるので、頭を抱え悩んでいる生徒に心の中で「頑張れ」と応援しておいた。
「……三戸先生何してるんですか?」
「ん?生徒にエール送ってた」
「いやそれは本番に取っておいてくださいよ」
「俺はいつかなる時も生徒を応援してるんだ」
「へーそうなんですねー」
「おい、あからさまに面倒そうな返事やめろ」
「っははははは!」
軽く肩を小突くとふはっと息を漏らしたように津木先生が破顔する。
「津木先生って体育得意だった勢?」
「普通ですかね。けど部活の顧問の指示でリレーは強制参加でした」
「えっ、何部だったん?」
「陸上です。短距離」
「えええぇ~津木せんせ陸上部だったんですかぁ!?」
不意に前列に居た生徒が割って入ってくる。
驚いたその声は中々響いたようで近くの生徒達もなんだなんだと会話に混ざってきた。
「津木せんせー短距離してたんだってさ」
「うっそマジ?えー運動出来るんだかっこい~!」
「すげー。えっ、速いの?」
「いやいや……学生の時だしそんな速いわけじゃないから」
「いや運動部に所属している時点でもう運動神経は確約されたようなもんだろ」
「あんたは何を言ってるんですか」
「あははは!ミトセン運動苦手だもんね~」
「ね、学年レクのドッチボール酷かったもんね」
「あれは忘れろ」
「いやあれは酷かったですよ」
途端に弾ける笑い声。
呆れたような津木先生のツッコミも相まってさらに激しくなる。
……確かに学年レクの時のドッチボールは散々だった。生徒達にせがまれて津木と別々のチームに参戦してみたはいいもののそれはもう惨敗で。というより一応先輩で上司にあんなガチであてにくるやつあるか。憧れの先生なんだろ。
速攻外野に回された俺が執拗にボールで狙う間、顔をくしゃくしゃにして少年のように駆けまわる津木の姿はそれは楽しそうで生徒も大盛り上がりだった。思えばあの頃から俺はこいつの事を目で追うようになってたような気がする。
(……我ながら甘酸っぱい恋だなぁ~)
遠足で一緒に遊んだ時の事を思い出して……なんて小学生か。
ちらりと隣を見ると津木が運動部の生徒達に囲まれていた。特に陸上部の生徒は津木に興味津々の様子であれこれと専門的な質問をしては盛り上がっている。雑談に付き合うその姿はもう立派に先生していて、思わずふ、と目を細めた。
「……さてと。そろそろ相談は終了するか。それじゃあ各自希望する種目の所に名前書いていけ~」
ぱんっと手を鳴らし注目を集め声をかけると、生徒達は我先にと黒板の前に集まり始める。その様子を黒板の横に避けつつ眺めていると、そろそろと近寄ってきた津木先生が「あの」と呼びかけた。
「この“金華名物 混合リレー”って何ですか?」
「あー。それは簡単に言えば部活動リレーだな。学校全体で部活動別にチーム分けしてするうちの花形競技だよ」
「なるほど。だから今日の種目決めから外れてるんですね」
「そゆこと。各部で決めるからクラスは関係ないしな」
「あの、ならなんで名称は部活動リレーじゃなくて混合なんです?」
「……あー、それはな」
説明しようと口を開いたその時だった。黒板の前に居た生徒が「せんせー書き終わったよ」と声をかけてくる。いつの間にか全員書き終わっていたらしくほとんどの生徒が席に戻って雑談に花を咲かせていた。
「おー。よっし、ならこっから調整していくか。津木先生後半半分の調整お願いできますか?」
「あ、はい」
「よーしなら呼ばれた種目の希望者は俺か津木先生の所に集まれー」
その後も誰がどの種目に出るのか、移動するのはどこにするかでひと悶着あり、結局混合リレーについての説明はできないままだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる