3 / 40
やりすぎファーマーは街に向かう
しおりを挟む
「主様、ずーっと走ってるけど大丈夫?」
「大丈夫だ」
「あっ……そう。ちょっと休憩したりとか……」
「俺を心配してくれるのはありがたいが、昼過ぎに渡す約束なんだ。もうすぐ着くから安心してくれ」
「そう…………」
朝からぶっ通しで五時間以上走ってるんですけど……肩に乗るうちのお尻が痛い。
でも、乗ってないと追いつけないし……つらい。
「そういえば主様って<テレポート>使えたよね?」
こくりと頷いた主様が、足を止めることなく、木々を縫うように飛び跳ねている。木漏れ日がすごい勢いで入れ替わっていく。
たぶん精霊が空を飛ぶより早い。
一直線に走っていないはずなのに異常なスピードが出ている。しかも少しも方向に迷わない。
……本当に人間なんだろうか。
「悪いな。使えるようになってから一度も街に行ったことがないんだ」
「そうだっけ?」
<テレポート>は一度行った場所へ転移する魔法だ。距離に応じてマナを大量に消費するけど、移動には最適だ。
主様は本当にすごい。
魔法使いでも何でもないのに、この転移魔法を難なく使いこなせるようになってしまったのだ。
しかも、「なんとなく」で使えるようになった天才。本人は無自覚で興味もないみたいなんだけど。
ちなみに使いたくなった理由を聞いてみると「湧水汲みにかかる時間が、畑仕事の時間を少なくするから」だって……主様、山を越えて水汲みに行くからねー。水妖精に頼り切るのは良くないとか言って。
最初は、木から木へどんなダッシュが早いか研究して、その後、幹を蹴って飛ぶように移動する手法を何度もやっていたら転移するようになった……らしい。
むちゃくちゃすぎ。
ちなみに、「畑仕事の合間に何度か練習した」とか言ってたけど、絶対に同じ練習ではできません。
この人、無理とかしんどいって感じる基準が高すぎるんだよね。
「もし、シロトキンさんに次も出荷してほしいと言われたら、<テレポート>で時間短縮をしたいが……この距離だ……俺のマナが足りるか心配だな」
その割に時々心配性。
でも、それも大丈夫。
主様のマナって底が見えないもん。精霊って人間のマナの最大量が分かるんだけど、この人のは全然分からないし。
目を細めて横顔からじっくりマナを読み取っても……まったくダメ。
「おっ、ようやく見えたか。予定よりは一時間も早く着いたな。今日は運がいい」
「運じゃないと思うけど……」
まーた足の筋力上がったのかな。
<テレポート>を覚えてから一か月くらいだから、この一月の間におかしい成長したんだろうなぁ。
そう言えば、魔王城の周辺の大木運んでログハウス新しくしたっけ。うちが試しに斧で切りつけたら、かすり傷一つつかない木だったなぁ……
「そこの崖を飛び降りれば街の裏に出られる。間に合って良かった」
主様が腰に手を当てて、安堵のため息を吐きながら街を見下ろしている。
が――場所が問題だ。
街は背中に崖を背負って、三方が平面だ。どう見ても今立っている位置は、訪問用の場所じゃない。まして門も無い。命がけで街を攻めるつもりならまだしも、野菜の出荷に来た人は断じてここは通らない。
そもそも街に入るのに飛び降りるのがおかしい。どんな地獄よ。
「主様……あの……あっち側から回ったら楽に……」
「さあ、ここまで来たら先に昼飯にしよう。フラムはトマトでいいか? かなり大きいから半分だけにするか?」
「ううん! ぜーんぶたべるぅ!」
「そうか。では一番でかいこいつをやろう」
主様の手がアイテムボックスに突っ込まれ、巨大なトマトが姿を現した。
「わーいっ! ありがと、主様!」
「大げさだな。まだまだ未完成のトマトなのに」
「そんなことないよ! 最高のお昼ご飯だよ!」
うん。
こんなにおいしいトマトが貰えるなら、崖から飛び降りるのも些細な問題だよね!
仕方ない仕方ない。
まずはお昼ご飯だね!
「大丈夫だ」
「あっ……そう。ちょっと休憩したりとか……」
「俺を心配してくれるのはありがたいが、昼過ぎに渡す約束なんだ。もうすぐ着くから安心してくれ」
「そう…………」
朝からぶっ通しで五時間以上走ってるんですけど……肩に乗るうちのお尻が痛い。
でも、乗ってないと追いつけないし……つらい。
「そういえば主様って<テレポート>使えたよね?」
こくりと頷いた主様が、足を止めることなく、木々を縫うように飛び跳ねている。木漏れ日がすごい勢いで入れ替わっていく。
たぶん精霊が空を飛ぶより早い。
一直線に走っていないはずなのに異常なスピードが出ている。しかも少しも方向に迷わない。
……本当に人間なんだろうか。
「悪いな。使えるようになってから一度も街に行ったことがないんだ」
「そうだっけ?」
<テレポート>は一度行った場所へ転移する魔法だ。距離に応じてマナを大量に消費するけど、移動には最適だ。
主様は本当にすごい。
魔法使いでも何でもないのに、この転移魔法を難なく使いこなせるようになってしまったのだ。
しかも、「なんとなく」で使えるようになった天才。本人は無自覚で興味もないみたいなんだけど。
ちなみに使いたくなった理由を聞いてみると「湧水汲みにかかる時間が、畑仕事の時間を少なくするから」だって……主様、山を越えて水汲みに行くからねー。水妖精に頼り切るのは良くないとか言って。
最初は、木から木へどんなダッシュが早いか研究して、その後、幹を蹴って飛ぶように移動する手法を何度もやっていたら転移するようになった……らしい。
むちゃくちゃすぎ。
ちなみに、「畑仕事の合間に何度か練習した」とか言ってたけど、絶対に同じ練習ではできません。
この人、無理とかしんどいって感じる基準が高すぎるんだよね。
「もし、シロトキンさんに次も出荷してほしいと言われたら、<テレポート>で時間短縮をしたいが……この距離だ……俺のマナが足りるか心配だな」
その割に時々心配性。
でも、それも大丈夫。
主様のマナって底が見えないもん。精霊って人間のマナの最大量が分かるんだけど、この人のは全然分からないし。
目を細めて横顔からじっくりマナを読み取っても……まったくダメ。
「おっ、ようやく見えたか。予定よりは一時間も早く着いたな。今日は運がいい」
「運じゃないと思うけど……」
まーた足の筋力上がったのかな。
<テレポート>を覚えてから一か月くらいだから、この一月の間におかしい成長したんだろうなぁ。
そう言えば、魔王城の周辺の大木運んでログハウス新しくしたっけ。うちが試しに斧で切りつけたら、かすり傷一つつかない木だったなぁ……
「そこの崖を飛び降りれば街の裏に出られる。間に合って良かった」
主様が腰に手を当てて、安堵のため息を吐きながら街を見下ろしている。
が――場所が問題だ。
街は背中に崖を背負って、三方が平面だ。どう見ても今立っている位置は、訪問用の場所じゃない。まして門も無い。命がけで街を攻めるつもりならまだしも、野菜の出荷に来た人は断じてここは通らない。
そもそも街に入るのに飛び降りるのがおかしい。どんな地獄よ。
「主様……あの……あっち側から回ったら楽に……」
「さあ、ここまで来たら先に昼飯にしよう。フラムはトマトでいいか? かなり大きいから半分だけにするか?」
「ううん! ぜーんぶたべるぅ!」
「そうか。では一番でかいこいつをやろう」
主様の手がアイテムボックスに突っ込まれ、巨大なトマトが姿を現した。
「わーいっ! ありがと、主様!」
「大げさだな。まだまだ未完成のトマトなのに」
「そんなことないよ! 最高のお昼ご飯だよ!」
うん。
こんなにおいしいトマトが貰えるなら、崖から飛び降りるのも些細な問題だよね!
仕方ない仕方ない。
まずはお昼ご飯だね!
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~
うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」
冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。
あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。
見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。
雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、
「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」
と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。
一方で、女騎士も似たようなもんだ。
「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」
こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!
使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。
もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。
ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~
好きな言葉はタナボタ
ファンタジー
早良尻(さわらじり)エリカは23才の女子大生。 人嫌いが原因で自殺した彼女は、神様に人嫌いを咎(とが)められ異世界に飛ばされてしまう。「お前を誰にも気づかれない存在に生まれ変わらせてやろう。 人恋しいという気持ちが生まれるまで人の世で孤独を味わい続けるがいい」 ところがエリカは孤独が大好物だった。 誰にも認識されない存在となった彼女は、神様の思惑に反して悠々自適の生活を送ることに。
ギフトで復讐![完結]
れぷ
ファンタジー
皇帝陛下の末子として産まれたリリー、しかしこの世はステータス至上主義だった為、最弱ステータスのリリーは母(元メイド)と共に王都を追い出された。母の実家の男爵家でも追い返された母はリリーと共に隣国へ逃げ延び冒険者ギルドの受付嬢として就職、隣国の民は皆優しく親切で母とリリーは安心して暮らしていた。しかし前世の記憶持ちで有るリリーは母と自分捨てた皇帝と帝国を恨んでいて「いつか復讐してやるんだからね!」と心に誓うのであった。
そんなリリーの復讐は【ギフト】の力で、思いの外早く叶いそうですよ。
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
絶対無敵のアホウ
昆布海胆
ファンタジー
最強にして無敵の『アホウ』と呼ばれる一つのスキルがある。
これはそのアホウを使える男の物語…
超不定期更新の物語です。
作者が過労で現実逃避したら更新します(笑)
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる