1 / 40
やりすぎファーマーはやりすぎる
しおりを挟む
はじめまして。火妖精のフラムです。
肩乗りサイズで背中に小さな羽が生えているのがチャームポイント。少し釣り目気味なのはコンプレックス。
わけあって、うちはアンディ様というちょっと変わった主人と山間の畑を耕して生活中。
ここも静かな場所だったけど……最近はひっきりなしに変な客が来る。
それも変わった人たちばっかり。
今も目の前にすごくかわいそうな集団がいる。
盛り上がった筋肉をこれでもかと見せつけるミノタウロスの皆さんだ。使い込まれた斧と古い盾。何人も手にかけてきた証拠に、武器には血糊がこびりついてる。
恐ろしい魔王がいなくなったから、次は自分こそがーって人達みたい。
こんなへんぴな山の中までほんとお疲れ様。
「……つまり、俺の大事な畑を荒らすということか?」
畑の持ち主の主様が視線を向けた。
茶色い短髪によく日焼けした肌。農作業中だったので頭には黄色の麦わら帽子。手は土まみれ。
年齢は不明だけど見た目はすごく若い。
濃い茶色の瞳には呆れた色がありありと浮かんでいる。
「ばかかお前、荒らすのは後だ! まずはため込んでる肉と金を出しな。探すのも面倒だしな」
「さっすが、次期魔王の呼び声高いザラン様! 見事な作戦!」
「こいつに案内させて食い物と金を手に入れたあと、目の前で畑を踏みにじるんですね! 最高に鬼畜っす!」
「そうだろそうだろ! ふはははは! こんな雑魚はワンパンで殺せる。山奥に隠れ潜んでいたのがついてなかったな。俺の領土にする前に存分になぶってやるぞ。あっははは!」
いつものことだけど、雑魚認定。ついでに畑荒らし宣言。
今回も犠牲者が出ちゃいそうだなぁ。
こういうやつらって毎回同じパターンなんだよね。
「お前たち……肉と金にしか興味が無いのか? 野菜は? 作っている野菜には少しばかり自信があるんだが……どうだ?」
「ああん? 野菜なんてクソだ。芋虫が食う食べ物だろうが。……まだ状況が分かってないらしいな。俺達を目の前にして……って、何をやってる?」
次期魔王を自称する一番体の大きなミノタウロスが訝しげに目を細めた。
その先では、主様が空間に空いた黒い穴に手を突っ込んでいる。
「食べてくれれば歩み寄れるかと期待したが無理そうだな。お前たちのような食わず嫌いは元々嫌いなんだ。畑まで荒らされるとなると黙っておれん。仕方ない。気は進まんが対処しよう」
「……ばかかこいつ、何をしてんのかと思えば今頃武器を準備してやがるのか……いいぜ。精いっぱい抵抗してみせな」
主様……まーたアレか。
武器なんて持ってないから仕方ないけど。
って、今日は一段と固そうで……えっ? もう投げるの!? 名乗ったりしないの?
「どんな武器かと思えば……そんなものを投げっ――ぐぼぉぉぉぉっぉっ!!!!!」
「えぇっ、ザラン様っ!?」
「ただの投石ですよね!? 俺の腹筋はシックスパック、が口癖のザラン様がただの人間の投石でっ!?」
おぉ、見事な一撃がボディに。
やっちゃったよ。
軽く振りかぶって投げただけなんだけど、あれがおかしいくらいに強烈なの。
だって……魔王だって……おっと、これは秘密だった。危ない危ない。うっかり人前で口を開けば、うちも主様にやられてしまうかも。
「てめぇ……何を投げやがった!」
主様は虫を見る目で二個目を手にしている。冷たい表情だ。
そしてあっさりと告げた。
「見てのとおり、カブだ」
「カブぅぅぅっ!?」
驚愕に目を見開くミノタウロスの付き添い二人が、自分の主と主様をすごい勢いで交互に見つめる。
その速度、過去最速。
なかなか首の筋肉は鍛えてるみたい。
最高硬度のカブには耐えられなかったみたいだけど。
後ろの取り巻きはやばさを感じて逃げていったのに、両隣のミノタウロスはまだ残っている。
「……ザラン様……し、死んでる。シックスパックがへこんでる……」
「嘘だ……絶対に嘘だ! 魔法だろ! そうだろ!?」
ざーんねん。
うちが代わりに答えてあげよう。
それはほんとにカブなの。
ちょーっとばかり……いや、異常なくらい固いカブなの。
畑を荒らしにくる魔物の歯を逆にダメにしてやろうって改良した、やりすぎカブ。
結局うちのメンバーも誰も食べられなくなったという、悲しい子。主様のアイテムボックスに何個入ってるんだろ?
「ぶごぉぉっ!」「ぐばぁぁっっ」
もう投げちゃったよ。
せめて予告してあげたら、あの二人は帰ったと思うんだけどなぁ。
「……良かった。今回も畑荒らしを撃退できた。野菜たちを守り切ることができたか……ふぅ」
主様が一仕事終えたとばかりに、額に浮いた汗をぬぐった。
でも絶対にその汗はあいつらのせいじゃなくて気候のせいだ。だって、三回投げただけじゃん。
転がってるカブには傷ひとつないし。
腕力もおかしすぎ。
これで戦闘経験が無いって言うんだから……なんだっけ、えーっと、斧とクワとハンマーと運搬とかで鍛えたとかなんとか。
ないよねー。
一応、魔王を名乗るくらいだからきっとこの人達も強かっただろうに。気の毒。
今度から野菜の味を覚えてからにしてね。
そしたら主様も大歓迎だよ!
「フラム……お前も野菜たちを心配してくれていたのか? いい笑顔だな」
「も、もちろん。妖精の下っ端の私には野菜たちの救いを求める声が聞こえたように感じて心配で……」
「なんと!? そんな声が聞こえるのかっ!? 今度俺にやり方を伝授してくれ!」
あっ、なんか踏んじゃった。
余計なひと言言っちゃったじゃん……ひぃぃぃっっっ!
またこの人やりすぎるって!
肩乗りサイズで背中に小さな羽が生えているのがチャームポイント。少し釣り目気味なのはコンプレックス。
わけあって、うちはアンディ様というちょっと変わった主人と山間の畑を耕して生活中。
ここも静かな場所だったけど……最近はひっきりなしに変な客が来る。
それも変わった人たちばっかり。
今も目の前にすごくかわいそうな集団がいる。
盛り上がった筋肉をこれでもかと見せつけるミノタウロスの皆さんだ。使い込まれた斧と古い盾。何人も手にかけてきた証拠に、武器には血糊がこびりついてる。
恐ろしい魔王がいなくなったから、次は自分こそがーって人達みたい。
こんなへんぴな山の中までほんとお疲れ様。
「……つまり、俺の大事な畑を荒らすということか?」
畑の持ち主の主様が視線を向けた。
茶色い短髪によく日焼けした肌。農作業中だったので頭には黄色の麦わら帽子。手は土まみれ。
年齢は不明だけど見た目はすごく若い。
濃い茶色の瞳には呆れた色がありありと浮かんでいる。
「ばかかお前、荒らすのは後だ! まずはため込んでる肉と金を出しな。探すのも面倒だしな」
「さっすが、次期魔王の呼び声高いザラン様! 見事な作戦!」
「こいつに案内させて食い物と金を手に入れたあと、目の前で畑を踏みにじるんですね! 最高に鬼畜っす!」
「そうだろそうだろ! ふはははは! こんな雑魚はワンパンで殺せる。山奥に隠れ潜んでいたのがついてなかったな。俺の領土にする前に存分になぶってやるぞ。あっははは!」
いつものことだけど、雑魚認定。ついでに畑荒らし宣言。
今回も犠牲者が出ちゃいそうだなぁ。
こういうやつらって毎回同じパターンなんだよね。
「お前たち……肉と金にしか興味が無いのか? 野菜は? 作っている野菜には少しばかり自信があるんだが……どうだ?」
「ああん? 野菜なんてクソだ。芋虫が食う食べ物だろうが。……まだ状況が分かってないらしいな。俺達を目の前にして……って、何をやってる?」
次期魔王を自称する一番体の大きなミノタウロスが訝しげに目を細めた。
その先では、主様が空間に空いた黒い穴に手を突っ込んでいる。
「食べてくれれば歩み寄れるかと期待したが無理そうだな。お前たちのような食わず嫌いは元々嫌いなんだ。畑まで荒らされるとなると黙っておれん。仕方ない。気は進まんが対処しよう」
「……ばかかこいつ、何をしてんのかと思えば今頃武器を準備してやがるのか……いいぜ。精いっぱい抵抗してみせな」
主様……まーたアレか。
武器なんて持ってないから仕方ないけど。
って、今日は一段と固そうで……えっ? もう投げるの!? 名乗ったりしないの?
「どんな武器かと思えば……そんなものを投げっ――ぐぼぉぉぉぉっぉっ!!!!!」
「えぇっ、ザラン様っ!?」
「ただの投石ですよね!? 俺の腹筋はシックスパック、が口癖のザラン様がただの人間の投石でっ!?」
おぉ、見事な一撃がボディに。
やっちゃったよ。
軽く振りかぶって投げただけなんだけど、あれがおかしいくらいに強烈なの。
だって……魔王だって……おっと、これは秘密だった。危ない危ない。うっかり人前で口を開けば、うちも主様にやられてしまうかも。
「てめぇ……何を投げやがった!」
主様は虫を見る目で二個目を手にしている。冷たい表情だ。
そしてあっさりと告げた。
「見てのとおり、カブだ」
「カブぅぅぅっ!?」
驚愕に目を見開くミノタウロスの付き添い二人が、自分の主と主様をすごい勢いで交互に見つめる。
その速度、過去最速。
なかなか首の筋肉は鍛えてるみたい。
最高硬度のカブには耐えられなかったみたいだけど。
後ろの取り巻きはやばさを感じて逃げていったのに、両隣のミノタウロスはまだ残っている。
「……ザラン様……し、死んでる。シックスパックがへこんでる……」
「嘘だ……絶対に嘘だ! 魔法だろ! そうだろ!?」
ざーんねん。
うちが代わりに答えてあげよう。
それはほんとにカブなの。
ちょーっとばかり……いや、異常なくらい固いカブなの。
畑を荒らしにくる魔物の歯を逆にダメにしてやろうって改良した、やりすぎカブ。
結局うちのメンバーも誰も食べられなくなったという、悲しい子。主様のアイテムボックスに何個入ってるんだろ?
「ぶごぉぉっ!」「ぐばぁぁっっ」
もう投げちゃったよ。
せめて予告してあげたら、あの二人は帰ったと思うんだけどなぁ。
「……良かった。今回も畑荒らしを撃退できた。野菜たちを守り切ることができたか……ふぅ」
主様が一仕事終えたとばかりに、額に浮いた汗をぬぐった。
でも絶対にその汗はあいつらのせいじゃなくて気候のせいだ。だって、三回投げただけじゃん。
転がってるカブには傷ひとつないし。
腕力もおかしすぎ。
これで戦闘経験が無いって言うんだから……なんだっけ、えーっと、斧とクワとハンマーと運搬とかで鍛えたとかなんとか。
ないよねー。
一応、魔王を名乗るくらいだからきっとこの人達も強かっただろうに。気の毒。
今度から野菜の味を覚えてからにしてね。
そしたら主様も大歓迎だよ!
「フラム……お前も野菜たちを心配してくれていたのか? いい笑顔だな」
「も、もちろん。妖精の下っ端の私には野菜たちの救いを求める声が聞こえたように感じて心配で……」
「なんと!? そんな声が聞こえるのかっ!? 今度俺にやり方を伝授してくれ!」
あっ、なんか踏んじゃった。
余計なひと言言っちゃったじゃん……ひぃぃぃっっっ!
またこの人やりすぎるって!
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~
うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」
冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。
あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。
見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。
雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、
「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」
と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。
一方で、女騎士も似たようなもんだ。
「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」
こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!
使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。
もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。
ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~
好きな言葉はタナボタ
ファンタジー
早良尻(さわらじり)エリカは23才の女子大生。 人嫌いが原因で自殺した彼女は、神様に人嫌いを咎(とが)められ異世界に飛ばされてしまう。「お前を誰にも気づかれない存在に生まれ変わらせてやろう。 人恋しいという気持ちが生まれるまで人の世で孤独を味わい続けるがいい」 ところがエリカは孤独が大好物だった。 誰にも認識されない存在となった彼女は、神様の思惑に反して悠々自適の生活を送ることに。
ギフトで復讐![完結]
れぷ
ファンタジー
皇帝陛下の末子として産まれたリリー、しかしこの世はステータス至上主義だった為、最弱ステータスのリリーは母(元メイド)と共に王都を追い出された。母の実家の男爵家でも追い返された母はリリーと共に隣国へ逃げ延び冒険者ギルドの受付嬢として就職、隣国の民は皆優しく親切で母とリリーは安心して暮らしていた。しかし前世の記憶持ちで有るリリーは母と自分捨てた皇帝と帝国を恨んでいて「いつか復讐してやるんだからね!」と心に誓うのであった。
そんなリリーの復讐は【ギフト】の力で、思いの外早く叶いそうですよ。
絶対無敵のアホウ
昆布海胆
ファンタジー
最強にして無敵の『アホウ』と呼ばれる一つのスキルがある。
これはそのアホウを使える男の物語…
超不定期更新の物語です。
作者が過労で現実逃避したら更新します(笑)
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。
今年で33歳の社畜でございます
俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました
しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう
汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。
すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。
そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる