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004人狼娘が仲間になりたそうな顔をしている?

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ギルドに戻るとナユラさんが薬草の束を受け取ってくれた。
 彼女は目をまん丸にした愛嬌のある表情で眺めている。
 最初の出会いのショックは忘れてくれたようだ。

「短時間ですごいです! 一人でこんなに採るなんて。コツがあるんですか?」
「なんとなくわかったので」
「私もある程度見分けがつきますけど、一日かけてもこの半分も採れません。今度、コツを教えてくれませんか?」
「おーい、ナユラ、お前小遣い稼ぎしようと思ってるだろ? ギルマスに言いつけるぞ」

 イノシシを換金し終えたガダンさんが戻ってきた。

「……」

 目を泳がせるナユラさんの態度が図星だと教えてくれる。
 ギルド嬢の小遣い稼ぎはダメなんだろうか。

「ナギさん、この三つの束はどういう分け方ですか? 量がバラバラですけど、理由があるんですか?」

 真顔で話を変えることにしたらしい。
 隣でガダンさんが眉を上げているが、何も言わないので、質問に答えることにした。

「それもなんとなく、品質が違うような気がして」
「へぇー、私にはわかりませんけど」

 ナユラさんは何度か眺めつつ、「専門の人に見てもらいます」と言って後ろに駆けていった。
 何か違いが出たらありがたいな。
 色で薬草の品質がわかるなら、わかりやすくて助かる。

「ナギ、お前、この世界初めてなんだろ?」

 ガダンさんが唐突にそんな話を振ってきた。

「まあ……そうですね。気づいたら小さな部屋で手を縛られていて、そのあと偉い人の前に連れて行かれて、最後は外に追い出されました。才能なかったみたいで」
「あいつらは戦えない人間に用事はないからな。だが、何も知らない場所に来たわりに落ち着いてるな。普通は途方に暮れるぞ」

 それは俺も思っていた。
 危機感というのか、実感というのか、何かが乏しい感覚がずっと続いている。
 普通なら海パンで歩く前に服を探したはずだ。
 でも、悪いことじゃないと思う。
 右も左もわからない世界では、まず冷静さが必要だ。
 次に生活力とお金。

「俺も一つ聞きたいんですけど、どうして初対面の俺を助けてくれたんですか?」
「それはもう少し経ったら話してやる」

 ガダンさんが優しげに笑う。
 温かみのある声に嫌な感じはない。何より、この人のオーラはずっと深い青だ。
 と、目の前で革袋がすっと持ち上げられた。

「ところで臨時収入が入った」
「さっきのモンスターのやつですか?」
「そうだ。出会えた祝いだ。一杯やろうぜ。ナユラも呼んでやってもいい」
「いや、別にナユラさんはどっちでもいいです……」
「……で、どうだ?」
「ごちそうになります」頭を下げた。
「よし、そうこなくっちゃ。夜の鐘がなったらアンダン亭に集合だ。場所はそこら辺にいるやつに適当に聞け。目立つ店だ。誰でも知ってる」
「了解です」
「夜まで時間がある。ナユラのことはずっと待ってなくていい。専門家に聞くと時間がかかるだろう……ナギは街でも見てくるか?」
「いえ、森に行ってきます」

 俺の言葉にガダンさんが驚いた顔をする。

「森に? また薬草か?」
「はい。もっと採れそうなので」
「それはそうだが……夜に近づくほど、強いモンスターが出るぞ。俺も少し用事があるし」
「一人で行ってきます。モンスターが出たら逃げるんで」 

 ガダンさんが呆気にとられている。
 無茶だろうか? 逃げるだけなら、やれそうな気がするけど。

「つってもなぁ……一日目のやつを一人は……ちょっと待ってろ。誰か連れてきてやる」

 そう言ったガダンさんを止める間もない。
 ギルド内を歩き、ざっと周囲を見回し、さらに外に出て戻ってきた。

 誰かの手を引いている。
 肩までの銀髪を揺らす女性だ。
 三角の耳が頭に付いている。獣人だろうか? 町で見た獣人のような尾がないけど。
 切れ長の瞳はきつそうな印象を与えるものの、青色の瞳がとても綺麗だ。

「半狼のアルメリーだ。こいつを護衛につける。腕はいい。少しめんどくさいが」
「……初めまして」

 可愛らしいが、不機嫌そうな声がぽそりと聞こえた。
 めんどくさい――という不穏なワードは俺もアルメリーさんもスルー決定だ。

「どうも、ナギです」

 一応頭を下げたものの、アルメリーさんの表情は冷たい。
 値踏みするような無遠慮な視線が全身に刺さった。

「薬草採りなんて地味なのは、やっぱり嫌」

 透き通った声と同時に、パシン、と良い音が鳴った。 
 ガダンさんに頭を叩かれたらしい。痛かったのか少し涙目になっている。

「アルメリー、お前、仲間は一人くらい見つかったのか?」
「ま、まだよ。でも、アルメリーはすごいなぁって一緒に冒険に行った人たちから何回も褒められたわ。明日には仲間になってくれって声がかかるはずよ」
「ほぉ……それと同じ話はだいぶ前にも聞いたが、もう春の月が終わるぞ。俺はてっきりギルドの外の酒樽の上が本拠地かと思っていた」

 ガダンさんが低い声で言いながら片目を眇めた。
 アルメリーさんが、がたっと一歩後ずさる。

「あ、あれは……」
「ギルドに入りづらいから、あんな場所にいるんだろ。どこかのパーティが通る度に、仲間にしてほしそうな目を向けていると噂だぞ」
「な、な、なにそれ!? 誰がそんな噂を!」

 まったく同感だ。
 何だその可哀想なスライムみたいな人は。
 積み重なった酒樽の上で足をぶらぶらしている子どものような姿が簡単に想像できてしまった。
 そして、そんな俺はきつい視線が向けられていることに気づいて、さっと目をそらした。
 目を合わせると仲間入り確定だ。
 いや、待てよ。今、そういう話の流れだからいいのか。

「アルメリー、手伝ってやれ。お前なら近くの森で負けることもないだろ」
「……し、仕方ないわね。ガダンの頼みだから、超強い私が手伝ってあげるわ」
「ありがとうございます。助かります」

 ぺこりと頭を下げた。
 顔を上げるとアルメリーさんが狐につままれたような顔をしていた。
 まあ、めんどくさい人でも護衛をしてもらえるなら、ありがたい限りだ。
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