転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと

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037 急転直下

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 バルコニーから屋敷の屋根に飛び移ったアルミラとロアは惨状に言葉を失っていた。
 人間を一回り以上大きくした禿頭の化け物が建物の中から住民を引きずり出して殺していくのだ。足を掴んで叩きつけたり、上から殴りつけたりと様々だが、膂力が凄まじいのかろくな抵抗はできていない。また足も非常に早く、逃げることもできない。
 騎士団の鎧を身に着けた兵士たちが町中に徐々に出てきているが、遅れを取っているのか統率が取れていない。

「ロア……あれってあんたが倒した化け物ってやつ?」
「……たぶんそうだ」
「英霊を使った化け物ってこと?」

 アルミラの顔が憤怒に染まっていく。目の良いアルミラにはロア以上に英霊が体内で苦しむ様子が視えるのだ。大人の英霊もそうだが、小さな子供の英霊もいる。
 英霊とは死んだ人間の魂そのものであり、強さは関係ない。
 ただ、理論上は莫大な仙気の塊なので肉体を持てばそれだけで兵士になる。そういう考え方で作られた化け物だろう。

「誰がこんな酷いものを産み出したの……」

 アルミラが呪詛を吐き出すように言うと、ロアが賛同しつつも「今は先に」と姉を促した。

「分かってる――」

 アルミラは手の中で一塊の土くれを作り出した。それは形を変えながら徐々に大きく膨らんでいく。

「《不壊弾》」

 塊から次々と土の塊が飛び出した。それは嘘のように空中で軌道を変えながら、アルミラが視えている範囲に轟音とともに着弾していく。
 彼女の目は『狩人ビンシェード』の力の影響を受けて、現実でも非常に視野が広い。夜目も利くため、狙いを外すことはない。

 だが――
「こいつら、硬いうえに数が多い」

 質量のある土を魔法で硬質化しぶつける魔法は普通の兵士なら即死だが、化け物は吹っ飛んだだけですぐに起き上がってくる。

「魔法の効きが悪いってのは本当みたいね」

 アルミラはぎりっと歯を食いしばる。これ以上の魔法を撃つことはできるが、質量を増やすと近くの住民まで巻き添えにしてしまう恐れがある。

「姉さん、俺も行く。あいつら相手だと兵士には厳しい」
「ごめんねロア、巻き込んじゃって。あんたも気をつけなさい。乱戦だし、わからないことばかりなんだから」
「姉さん……」
「どうして化け物が家の中から住民を引っ張り出すのかも意味不明。殺すなら中で殺せばいいのに」
「……気をつけるよ」

 ロアはとんっと身軽に路地裏に飛び降りた。そして常人とは思えないほどの速度で駆けていく。
 アルミラはそんな背中を頼もしそうに見つめながら、上空まで広く伸びた結界を睨む。

「英霊を使った化け物、住民を閉じ込める結界、建物は邪魔……女、子供も全員ターゲット……まさか……これって……」

 アルミラは喉が凍りついたように言葉が出なかった。

 ◆

 少し時を遡った地下室で――
 
 灰色の髪を束ねたアラギは、「じゃあ、始めて」と料理のコースでも指示するように気楽な様子で命令を下した。

「承知」

 奇怪な紋様の仮面を付けた大柄のジャクラーがのしのしと外に出ていく。
 教会の鐘が鳴ればすぐにすべてが始まる。街全体が結界に覆われ、住民はいくら逃げ惑おうと外には出られない。
 簡易結界。騎士団長クラスなら壊せるだろうが、城にも山程のソルジャーが向かう予定だ。彼らはまず王族の守りを固めるために外には出てこないだろう。
 その間に住民を皆殺しにし仕事を遂行したうえで、街に散らばらせたナイト級を集めて城に突撃する。

「手駒使い切っちゃったし、がんばってほしいものだね」


 ◆

 一方、アルミラの屋敷で匿われていたユーリアはベッドに腰掛けた状態で、どうしようかと悩んでいた。
 アルミラには屋敷で待機するよう言われている。地下室の準備ができたら、すぐにメイドが呼びに来る予定だ。

(でも、これじゃダメ。私だって戦えるんだから)

 ユーリアには強い英霊――炎のミーガンが憑いている。ガネッサ騎士団の団員で、ロアがユーリアの命を救うときに付け替えたと聞いている。

(この力は倫也お兄ちゃんがくれたもの。だったら、お兄ちゃんが困ってるときに私が動かなくてどうするの。強いお兄ちゃんの隣に立つために今動かないとダメ!)

 ユーリアは決心して立ち上がった。
 外では悲鳴とともに轟音が鳴り止まない。怖いという気持ちはあるが、それを必死に押し殺し窓を開けて飛び降りた。地響きのような振動に身がすくみそうになったが、ロアの顔を思い浮かべてから走り出す。
 目の前に早速化け物が現れた。薄紫色の肌を持つ、人間を一回り大きくしたような敵だ。第二王女やユウを助けた時に戦った敵と同じ。

(それなら――)

 ユーリアは片手から炎を噴き出した。襲いかかる豪炎はみるみるうちに化け物を包み込む。化け物が苦しそうに炎の中で呻き、たたらを踏んで膝から崩れ落ちた。

(よし、次――)

 自分でも力になれるとわかった。ロアはここに来るまでに何度も人の為に戦ってきた。その真似事でいい。命を助けてくれた礼を、兄と知らない人に少しずつ返していく為に、新たに得ることができた炎で戦う。

(私、がんばるから。見ててお兄ちゃん。……だから、次に会ったら、私の名前を呼んで)

 ユーリアはただそれだけを強く願いながら多くの住民を助けた。
 唖然と見送る小さな子供や親子に軽く微笑んでから、次々と敵を屠る小さな少女の姿は人々に力を与えた。背後から聞こえる歓声をさらに炎に乗せて、ユーリアは力を振るった。
 そして――出会った。

「その年齢で、なかなかの力だ」

 十体ほどの化け物囲まれた仮面をつけた大柄の男だった。他の化け物とは違い、上等そうなコートを身に纏っている。ダミ声は骨を震わせるように硬質な響きを伴っていた。
 異質な空気に、ユーリアは足を止めた。
 すると男が仮面の奥でふっと微笑んだ気配がした。

「いい死霊を持っていそうだな」
「……?」

 ユーリアが首を傾げた瞬間だった。目の前から男の姿が消えていた。同時に、腹部に強い衝撃。さらに首の後ろに重い何かがぶつかった。
 ユーリアはそれが何なのかまったくわからなかった。

「まだまだだな」

 男はユーリアを担ぎ上げ、「お前たちは続けろ」と周囲の化け物に告げるとさっと姿を消した。
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