転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと

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035 似た者同士

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「うわぁっ!! お風呂ひろぉぉぉい!!」

 裸になったユーリアは我を忘れて風呂場に駆け込んだ。この世界に来てからタオルで拭うことしかしたことがない彼女にとって、風呂場は憧れの場所の一つだ。
 しかも前の世界の風呂場より遥かに広い。もうもうと広がる湯気と足で踏みしめる不思議な色合いの石の感触が温かくてとても心地よい。
 中央には乳白色の湯を張った浴槽があり、両サイドには並々と新たな湯を出す吐水口がある。

「アルミラさんちのお風呂、すごい! すごい!」
「そうでしょ? うちの自慢なんだから」

 タオルを体に巻いたアルミラがあとから入ってきて胸を張る。出世してから家にはとことんお金をかけた。墓守時代の古びた小屋が彼女は大嫌いだったのだ。
 だからロアが真の墓守となったときに嬉々として山を降りた。見張り小屋があることも知っていたので、もちろんそこだけ隠れて抜けたが、アルミラはバカ正直に正面から通るやつはいないと思っている。

「先に体洗ってからよ。だいぶ汚れてるんじゃない? ロア、ちゃんとお風呂入れてくれた?」
「あっ……なかなかお風呂とかには……」
「そうでしょ? 気が利かなくてごめんね。うちの弟、そういうところ全然ダメだから。ほらこっち来て」

 アルミラに呼ばれてユーリアがとてとてと戻ってきた。そして、彼女を風呂椅子に座らせてアルミラが豪快に頭から湯をかける。その後、香りの良い石鹸を泡立て、髪から順に丁寧に洗っていく。

(アルミラさん、ほんと優しいな……お兄ちゃんとは全然違うタイプでおもしろいし)

 ユーリアは身を任せつつ、心がじんわり温まるのを感じる。少し強引なところはあるが、アルミラがユーリアのことを大事に想ってくれていることをひしひしと感じる。
 もちろんロアと一緒にいられて幸せだが、例の件から少し壁を感じてもやもやもしていたのだ。それがアルミラのおかげで氷解していくような気分だ。

「ほら、これでいいわ。綺麗になったし湯に浸かろ」

 あっという間に洗われたユーリアは手を引かれて湯船に連れていかれる。
 ゆらゆら揺れる湯面には綺麗になった少女の肢体が映っている。
 恐る恐る足を湯につけると、熱くもなく温くもない絶妙な湯加減だった。どうしてこんな温度を維持できるのか不思議で仕方ない。たぶん魔道具をふんだんに使っているのだろうが、周囲を見回してもまったく見当たらない。

「どうしたの?」

 先に浸かったアルミラが湯の中で首を傾げている。慌ててユーリアもあとに続く。

「あったかぁい」
「そうでしょ? 私もこれが無いと一日終わったって気がしなくて。はぁぁ……生き返るわー」

 アルミラは本当に魂でも抜けていきそうに口を開けて表情をふにゃりと変えた。どこか年寄りめいた美人の画が面白くて、ユーリアは思わず微笑んだ。

「……緊張ほぐれた?」

 アルミラは絶妙なタイミングで問いかける。
 ユーリアは素直に首肯した。

「ごめんね、ほんと」
「何が……?」
「うちの不出来な弟が迷惑かけてるみたいで」

 ユーリアは慌てて首を左右に振った。

「そんな……全然。お兄ちゃんはいつも優しいし」
「でも細かいところ気が利かないし、ユーリアみたいに、ぐいぐい迫ると逃げるタイプでしょ」
「あははは……」

 アルミラのあまりに的確な指摘に、ユーリアとしては苦笑いするしかない。

「もし良かったら……どうしてロアのことお兄ちゃんって呼んでるのか聞いてもいい?」
「あ……はい……」

 ユーリアはぽつりぽつりと話し始めた。
 魔族の霊が憑いていると医者と名乗る男に言われ、家族に怖がられてずっと監禁されていたこと。さっさと死ぬことだけが期待されて、餓死寸前で早々に埋葬されかけたところをロアに救われたこと。
 けれど、前世の記憶については伏せるしかない。本当は施設で兄妹同然に育った兄の倫也に重ねているのが理由だが、お兄ちゃんという存在に小さい頃から憧れていたと誤魔化した。

(お兄ちゃんは、転生者で間違いない……)

 未だにはっきり覚えている。ロアと初めて会ったとき、ユーリアは朦朧としながら日本語を話したのだ。目の前に兄がいると思って。それを聞いたロアの顔は完全に強張っていたが、なぜか伝わったことを直感した。
 さらに、目覚めた時には「おはよう」と日本語を発していた。

(お兄ちゃんは《日本語》を使えるもん……でも……倫也お兄ちゃんかどうかはわからない)

 ユーリアはロアが転生者だと確信したときから、ずっと悩んだ。
 表向きはお兄ちゃんと呼んで変わらず振る舞っていたが、どうすればロアを倫也だと知ることができるのか、何か手段はないか模索し続けた。

 早いのは本人に訊ねることだが、もし倫也でなかった場合が怖くて踏みきれない。
 だから遠回しにスパゲティの話題を振ったのだ。せめてもう少し倫也である可能性があれば――と期待して。
 けれど、ロアは初めて聞いたような態度だった。これには膨らんだ期待が一気に萎んでいった。もし倫也で無いのなら、『お兄ちゃん』という意味が、まったく変わってくる。
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