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034 姉は偉大なり
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「で、では……アルミラ様、私はこれで……」
「うん、ありがとねアーシャ。用事ができたらベルで呼ぶから」
アルミラの硬い笑みに見送られたアーシャは「本当に大丈夫だろうか」と心配そうに部屋を出ていった。
そして食事を挟んで向かい合った二人は静かな室内で視線をぶつけた。
「久しぶり、姉さん。まさか有名な魔法使いになってるとは思わなかった」
「ロア……あんた、墓守の仕事どうしたのよ」
「ギャランたちにはちゃんと説明してきた」
「どうして出てきたのって訊いてるの」
「俺もよくわからなくて」
「はあ?」
アルミラが首を傾げた。わざわざ姉に会いにきたというのに、その理由がわからないと言われれば疑問も湧く。
ロアは少し言い淀むように口を開いた。
「今から話すことは嘘じゃないんだ――」
ロアは8歳の頃に見た夢に等しい話をした。もちろん記憶の転生やユーリアの話は伏せている。単に謎の大樹に「14歳になったら姉に会いに行け」と言われたことだけだ。
それを神妙な顔で訊いていたアルミラは、話が終わると「私も」とぽつりと言った。
「いつだったかな。真の墓守が産まれたから、お前は自由にしていいって突然言われた。散々墓守だって言ってたのに、用無しみたいに。でも私はそれで良かったんだけどね。墓守って地味だし」
「……姉さんが」
「墓守を導く大樹って言うのがあるらしいよ。母さんも若い頃に似たような経験があるって言ってた」
「そうなんだ……」
アルミラは両目をじわりと銀色に変える。墓守の一族が持つ力の一つだ。
ロアは目を凝らすだけでも使えるが、アルミラはそうではない。
「もしかしたらだけど……ロアがここに来るように言われた理由はわかる気がする」
「どういうこと?」
「あんた……まだ完全に墓守の力使いこなせてないみたいだから。自分の危険さにもまったく気づいてない。ねぇロア、私の守護者は視える?」
ロアが不思議そうに眉を寄せた。
アルミラはいたずらっぽく笑い、自分の背後を指し示す。もちろん常人では何も視えないのだが――
「もちろん。狩人ビンシェードだろ」
ロアはわずかに視線をずらしながら淀みなく答えた。
アルミラの背後には濃い緑色のローブに身を包む長身で片目の男が立っている。鋭い眼光は鷹のように鋭いが、ロアと視線が合うと優しく微笑んだ。
「姉さんが連れていったガネッサ騎士団の一人だ。さすが目覚めてるね」
「正解――まあ、私はこいつとしか打ち解けられなかったってだけなんだけど」
アルミラは微苦笑を漏らしつつ、ロアの背後を指差した。
「じゃあ、あんたの背後には何が視える?」
「……俺の? 俺には何も憑いてない。知ってるだろ?」
「それは昔の話。もう一度じっくり今の自分を意識してみて」
首を傾げるロアをアルミラは黙って見つめた。今この場でやれという強い意思を感じる。
(姉さんは『目』が良かった……今の俺に何か憑いてるのか?)
ロアは目を凝らすことに集中する。物理的に背後を見るのではない。意識を内側に集中させるのだ。全身の仙気を高めてもまだ視えない。
チラリと視線を上げるとアルミラは黙っている。ロアはさらに集中力を深めて、仙気を高めていく。
そして――視えた。本当に色の薄い、透過した物体。
ロアはがばっと顔を上げた。
「ようやく視えたみたいね」
アルミラは世話がやけるとばかりに肩をすくめた。
「どうして俺にこれが……」
「意識し始めるとすぐはっきり視えるようになるらしいわ……でも、それを使うにはもう一つ知らないといけないことがある。ちょっと待ってなさい」
アルミラは徐ろに立ち上がり部屋を出ていく。そのまま数分待つと、彼女は古びた手帳のようなものを手にして戻ってきた。革の表紙がボロボロの薄い手帳だ。
アルミラはそれを差し出した。
「これは?」
ロアはぱらぱらとページを捲りながら視線を素早く走らせる。古い字体で書かれたそれには様々な人物があとから付け足してきたような跡がある。
「見ての通り、うちで代々引き継がれてきた墓守の技術が書かれた書物。お母さんから引き継いだけど、どうせあんたに渡そうと思ってたやつ。……ロア、《絶対命令》は使えるでしょ?」
「……使ったことはないけど」
「それでいいと思う。私は落ちこぼれだから使えないけど、英霊の意思を捻じ曲げるような術はもし使えても使わないと思う。で、その次のページがあんたが知らないであろうこと」
「……これは、確かに知らない」
ロアは目を見張った。ギャランから一度も訊いたことがない技術だ。
「最後のページの話は十分に墓守として成長した者だけが使えるそうよ。良かったね……あんたはもう一人前ってこと。同時に――超危険人物ってこと。国に所属する私としては今すぐ上に報告して始末したい、ほどね。それでなくともせめて幽閉すべき人間よ」
「姉さん……」
アルミラは厳しい視線を向けてロアを睨む。
だが、すぐにふっと力を抜いて目尻を下げた。
「ってことだから、ちゃんと自覚持って気をつけなさい。……第二王女を助けたらしいけど、ギャランに鍛えられたあんたはもう普通の人間の枠に収まってないから。仙気術が使えるだけでも、頭三つ分くらい騎士より抜けるし」
「……そんなに?」
ロアの訝しげな顔を見て、アルミラが大仰にため息をついた。
「私みたいな落ちこぼれでも五色の魔法使いとか呼ばれてすごいすごいって言われるのよ。こっちの世界に出てきて騎士団入隊試験がいかにぬるかったか」
「姉さんは別に落ちこぼれなんかじゃ――」
「ああ、もうそういうのいいから、話聞きなさい」
アルミラはそう言って片手を持ち上げると、指の先で五色を表す魔法を同時に行使する。
「表向きはこのたくさんの指輪を使いこなせるから五色の魔法使いって言ってるけど、墓守の一族にとっては指輪なんてなくても属性変化は起こせちゃう。でも、魔法しか使えない人間にとっては相性のいい指輪一つ使うのも難しいの」
「そう……なんだ」
「知らなかったでしょ? あんたの顔見てたらわかる。きっと――俺の力なんてガネッサ騎士団の連中に比べたら大したことない――なんて思ってるんでしょ?」
ロアが瞳を大きく開くと、アルミラは「やっぱそうなんだ」と肩を落とした。
「そんなあんたのことだから、出会った人たちに《墓守のロアです》とか殊勝にバラしてきたと思うけど、知る人は墓守って聞いただけで警戒する。いい? いい加減に自覚しなさい。あんたはもう人の領域を超えてるの。というか連中の鍛錬が数百年前の時代から変わってなくて今の世界では異常なの。墓守がほいほい人里に出てこない理由がわかった?」
「う、うん……」
アルミラは言い聞かせるように言うと、ふぅっと短く息を吐いた。さらにジト目を向けて、
「会うまで名乗らなかったのは、私に拒否されるって思ったからでしょ?」
「う……だって、姉さんはずっとあの山で暮らせって俺に言ってたから……会わずに追い返されるかなって」
「もう……最初からあんただってわかってたら、もう少し国での立ち回りをうまくしたのに……ほんと……姫様にも騎士団にも完全にバレちゃってるからなぁ。まあ今さらごまかせないし仕方ないか。私の弟ってはっきり言った方が問題は減るかも。それに色々言ったけどね――」
アルミラは腰に手を当ててニコリと微笑んだ。
「久しぶりに弟の顔が見れて、お姉ちゃんはちょっと嬉しいぞ。……もう何年? 大きくなるのが早くてびっくりした。あっさり身長抜かれてるし……まあ、相変わらず何に悩んでいるのかわかんない辛気臭い顔は変わってないけど」
「……姉さん」
ロアが苦笑を漏らしたのを確認し、アルミラはくるりと踵を返し扉に向かう。
ロアが慌ててその小さな背中に声をかける。
「姉さん、どこに?」
「妹ちゃんを呼びにいくの。事情はよく知らないけど、あの子、妹にしたんでしょ。それに彼女、炎のミーガンが憑いてた。あんたが禁忌を破ってまで付け替えたってことじゃん」
「それは……」
「そうまでして助けたかったってことでしょ。あんたの妹なら、私の妹も同然。少しお姉ちゃんの凄さってやつを見せてあげないと」
アルミラはにやりと笑う。
「お姉ちゃんが、あんたと同じ根暗な人間だと思われたくないし。誤解も解きたいし」
「俺が根暗って……姉さん、それはひどい」
「だって、あんたって墓守の鍛錬してるときから、ずぅーっと暗いじゃん。もっと昔は何も考えず走り回ってたけど、いつからか一人で何かに悩んじゃってさ」
ロアの言葉など歯牙にもかけず、アルミラは手を打ち鳴らしてメイドを呼ぶと、ユーリアをこの部屋に呼び戻した。
可愛らしいドレスに身を包んだユーリアは、気後れするようにちょこんと両足を揃え、おずおずと頭を下げた。
「ゆ、ユーリアです……よろしくお願い、します」
「初めまして。私はロアの姉のアルミラ、よろしくね」
「……よろしくお願い……します」
「ああもう、固くなっちゃって可愛い。なに、ロアのどこが好きなの? 顔?」
「え、えぇ? す、好きとかじゃ……ない……ですけど……お兄ちゃんは……お兄ちゃんで……前に助けてもらって……」
「え? そうなの? そっか、まあ、こんな暗いやつ、ピンチで助けてもらうくらいしないと好きになることないよね」
「……あっ、そ、そうは言ってない……です」
「うんうん、私に気を遣わなくていいからね。言いたいことははっきり言っちゃって。ロアをお兄ちゃんって言うなら、私はお姉ちゃんだから。いいよね?」
アルミラの勢いは凄まじかった。ロアと話していたときとはまったく違うテンポで有無を言わせずユーリアを会話に組み込んでいく。
最初は緊張気味だったユーリアも、アルミラの巧みな会話に徐々に乗せられていく。
そして、そこに甘い物を出して一気に心を掴み、ドレスがとても似合っていると褒め称えるうちに、すぐに打ち解けてしまった。
その間、ロアは一言も話していないのに――だ。彼は姉の手練手管に取り込まれるユーリアを眺めることしかできなかった。
食事会は一気に賑やかになり、アルミラの侍女アーシャまで混ぜて和気あいあいと話が弾んだ。
最後にはアルミラはユーリアと一緒にお風呂に入る約束まで取り付けてしまったのだ。
「うん、ありがとねアーシャ。用事ができたらベルで呼ぶから」
アルミラの硬い笑みに見送られたアーシャは「本当に大丈夫だろうか」と心配そうに部屋を出ていった。
そして食事を挟んで向かい合った二人は静かな室内で視線をぶつけた。
「久しぶり、姉さん。まさか有名な魔法使いになってるとは思わなかった」
「ロア……あんた、墓守の仕事どうしたのよ」
「ギャランたちにはちゃんと説明してきた」
「どうして出てきたのって訊いてるの」
「俺もよくわからなくて」
「はあ?」
アルミラが首を傾げた。わざわざ姉に会いにきたというのに、その理由がわからないと言われれば疑問も湧く。
ロアは少し言い淀むように口を開いた。
「今から話すことは嘘じゃないんだ――」
ロアは8歳の頃に見た夢に等しい話をした。もちろん記憶の転生やユーリアの話は伏せている。単に謎の大樹に「14歳になったら姉に会いに行け」と言われたことだけだ。
それを神妙な顔で訊いていたアルミラは、話が終わると「私も」とぽつりと言った。
「いつだったかな。真の墓守が産まれたから、お前は自由にしていいって突然言われた。散々墓守だって言ってたのに、用無しみたいに。でも私はそれで良かったんだけどね。墓守って地味だし」
「……姉さんが」
「墓守を導く大樹って言うのがあるらしいよ。母さんも若い頃に似たような経験があるって言ってた」
「そうなんだ……」
アルミラは両目をじわりと銀色に変える。墓守の一族が持つ力の一つだ。
ロアは目を凝らすだけでも使えるが、アルミラはそうではない。
「もしかしたらだけど……ロアがここに来るように言われた理由はわかる気がする」
「どういうこと?」
「あんた……まだ完全に墓守の力使いこなせてないみたいだから。自分の危険さにもまったく気づいてない。ねぇロア、私の守護者は視える?」
ロアが不思議そうに眉を寄せた。
アルミラはいたずらっぽく笑い、自分の背後を指し示す。もちろん常人では何も視えないのだが――
「もちろん。狩人ビンシェードだろ」
ロアはわずかに視線をずらしながら淀みなく答えた。
アルミラの背後には濃い緑色のローブに身を包む長身で片目の男が立っている。鋭い眼光は鷹のように鋭いが、ロアと視線が合うと優しく微笑んだ。
「姉さんが連れていったガネッサ騎士団の一人だ。さすが目覚めてるね」
「正解――まあ、私はこいつとしか打ち解けられなかったってだけなんだけど」
アルミラは微苦笑を漏らしつつ、ロアの背後を指差した。
「じゃあ、あんたの背後には何が視える?」
「……俺の? 俺には何も憑いてない。知ってるだろ?」
「それは昔の話。もう一度じっくり今の自分を意識してみて」
首を傾げるロアをアルミラは黙って見つめた。今この場でやれという強い意思を感じる。
(姉さんは『目』が良かった……今の俺に何か憑いてるのか?)
ロアは目を凝らすことに集中する。物理的に背後を見るのではない。意識を内側に集中させるのだ。全身の仙気を高めてもまだ視えない。
チラリと視線を上げるとアルミラは黙っている。ロアはさらに集中力を深めて、仙気を高めていく。
そして――視えた。本当に色の薄い、透過した物体。
ロアはがばっと顔を上げた。
「ようやく視えたみたいね」
アルミラは世話がやけるとばかりに肩をすくめた。
「どうして俺にこれが……」
「意識し始めるとすぐはっきり視えるようになるらしいわ……でも、それを使うにはもう一つ知らないといけないことがある。ちょっと待ってなさい」
アルミラは徐ろに立ち上がり部屋を出ていく。そのまま数分待つと、彼女は古びた手帳のようなものを手にして戻ってきた。革の表紙がボロボロの薄い手帳だ。
アルミラはそれを差し出した。
「これは?」
ロアはぱらぱらとページを捲りながら視線を素早く走らせる。古い字体で書かれたそれには様々な人物があとから付け足してきたような跡がある。
「見ての通り、うちで代々引き継がれてきた墓守の技術が書かれた書物。お母さんから引き継いだけど、どうせあんたに渡そうと思ってたやつ。……ロア、《絶対命令》は使えるでしょ?」
「……使ったことはないけど」
「それでいいと思う。私は落ちこぼれだから使えないけど、英霊の意思を捻じ曲げるような術はもし使えても使わないと思う。で、その次のページがあんたが知らないであろうこと」
「……これは、確かに知らない」
ロアは目を見張った。ギャランから一度も訊いたことがない技術だ。
「最後のページの話は十分に墓守として成長した者だけが使えるそうよ。良かったね……あんたはもう一人前ってこと。同時に――超危険人物ってこと。国に所属する私としては今すぐ上に報告して始末したい、ほどね。それでなくともせめて幽閉すべき人間よ」
「姉さん……」
アルミラは厳しい視線を向けてロアを睨む。
だが、すぐにふっと力を抜いて目尻を下げた。
「ってことだから、ちゃんと自覚持って気をつけなさい。……第二王女を助けたらしいけど、ギャランに鍛えられたあんたはもう普通の人間の枠に収まってないから。仙気術が使えるだけでも、頭三つ分くらい騎士より抜けるし」
「……そんなに?」
ロアの訝しげな顔を見て、アルミラが大仰にため息をついた。
「私みたいな落ちこぼれでも五色の魔法使いとか呼ばれてすごいすごいって言われるのよ。こっちの世界に出てきて騎士団入隊試験がいかにぬるかったか」
「姉さんは別に落ちこぼれなんかじゃ――」
「ああ、もうそういうのいいから、話聞きなさい」
アルミラはそう言って片手を持ち上げると、指の先で五色を表す魔法を同時に行使する。
「表向きはこのたくさんの指輪を使いこなせるから五色の魔法使いって言ってるけど、墓守の一族にとっては指輪なんてなくても属性変化は起こせちゃう。でも、魔法しか使えない人間にとっては相性のいい指輪一つ使うのも難しいの」
「そう……なんだ」
「知らなかったでしょ? あんたの顔見てたらわかる。きっと――俺の力なんてガネッサ騎士団の連中に比べたら大したことない――なんて思ってるんでしょ?」
ロアが瞳を大きく開くと、アルミラは「やっぱそうなんだ」と肩を落とした。
「そんなあんたのことだから、出会った人たちに《墓守のロアです》とか殊勝にバラしてきたと思うけど、知る人は墓守って聞いただけで警戒する。いい? いい加減に自覚しなさい。あんたはもう人の領域を超えてるの。というか連中の鍛錬が数百年前の時代から変わってなくて今の世界では異常なの。墓守がほいほい人里に出てこない理由がわかった?」
「う、うん……」
アルミラは言い聞かせるように言うと、ふぅっと短く息を吐いた。さらにジト目を向けて、
「会うまで名乗らなかったのは、私に拒否されるって思ったからでしょ?」
「う……だって、姉さんはずっとあの山で暮らせって俺に言ってたから……会わずに追い返されるかなって」
「もう……最初からあんただってわかってたら、もう少し国での立ち回りをうまくしたのに……ほんと……姫様にも騎士団にも完全にバレちゃってるからなぁ。まあ今さらごまかせないし仕方ないか。私の弟ってはっきり言った方が問題は減るかも。それに色々言ったけどね――」
アルミラは腰に手を当ててニコリと微笑んだ。
「久しぶりに弟の顔が見れて、お姉ちゃんはちょっと嬉しいぞ。……もう何年? 大きくなるのが早くてびっくりした。あっさり身長抜かれてるし……まあ、相変わらず何に悩んでいるのかわかんない辛気臭い顔は変わってないけど」
「……姉さん」
ロアが苦笑を漏らしたのを確認し、アルミラはくるりと踵を返し扉に向かう。
ロアが慌ててその小さな背中に声をかける。
「姉さん、どこに?」
「妹ちゃんを呼びにいくの。事情はよく知らないけど、あの子、妹にしたんでしょ。それに彼女、炎のミーガンが憑いてた。あんたが禁忌を破ってまで付け替えたってことじゃん」
「それは……」
「そうまでして助けたかったってことでしょ。あんたの妹なら、私の妹も同然。少しお姉ちゃんの凄さってやつを見せてあげないと」
アルミラはにやりと笑う。
「お姉ちゃんが、あんたと同じ根暗な人間だと思われたくないし。誤解も解きたいし」
「俺が根暗って……姉さん、それはひどい」
「だって、あんたって墓守の鍛錬してるときから、ずぅーっと暗いじゃん。もっと昔は何も考えず走り回ってたけど、いつからか一人で何かに悩んじゃってさ」
ロアの言葉など歯牙にもかけず、アルミラは手を打ち鳴らしてメイドを呼ぶと、ユーリアをこの部屋に呼び戻した。
可愛らしいドレスに身を包んだユーリアは、気後れするようにちょこんと両足を揃え、おずおずと頭を下げた。
「ゆ、ユーリアです……よろしくお願い、します」
「初めまして。私はロアの姉のアルミラ、よろしくね」
「……よろしくお願い……します」
「ああもう、固くなっちゃって可愛い。なに、ロアのどこが好きなの? 顔?」
「え、えぇ? す、好きとかじゃ……ない……ですけど……お兄ちゃんは……お兄ちゃんで……前に助けてもらって……」
「え? そうなの? そっか、まあ、こんな暗いやつ、ピンチで助けてもらうくらいしないと好きになることないよね」
「……あっ、そ、そうは言ってない……です」
「うんうん、私に気を遣わなくていいからね。言いたいことははっきり言っちゃって。ロアをお兄ちゃんって言うなら、私はお姉ちゃんだから。いいよね?」
アルミラの勢いは凄まじかった。ロアと話していたときとはまったく違うテンポで有無を言わせずユーリアを会話に組み込んでいく。
最初は緊張気味だったユーリアも、アルミラの巧みな会話に徐々に乗せられていく。
そして、そこに甘い物を出して一気に心を掴み、ドレスがとても似合っていると褒め称えるうちに、すぐに打ち解けてしまった。
その間、ロアは一言も話していないのに――だ。彼は姉の手練手管に取り込まれるユーリアを眺めることしかできなかった。
食事会は一気に賑やかになり、アルミラの侍女アーシャまで混ぜて和気あいあいと話が弾んだ。
最後にはアルミラはユーリアと一緒にお風呂に入る約束まで取り付けてしまったのだ。
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