転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと

文字の大きさ
上 下
28 / 43

028 悼む時間

しおりを挟む
 墓は木を切り出し、十字の形に組み合わせて木の洞の中に作られた。
 化け物にやられた遺体はどれもひどい状態で、丁寧に埋めている時間も無いので身につけていた遺品を二種類集めた。
 一つはこの簡易の墓に。もう一つは遺族に渡すのだ。
 ロアは墓の前で十字を切り、言葉を発することなく祈りを捧げた。残りの者たちも瞑想し、死者を想って祈りを捧げる。
 クラティアはロアの敬虔な信者のような背中に心を打たれていた。

(この方は……墓守とおっしゃっていたけれど、どんなことをなさっているのでしょう)

 内心で興味を膨らませつつ、立ち上がったロアの行く先を目で追う。
 そしてしゃがみこんだ場所は、さっきまで戦った化け物が倒れ伏したところだ。
 これには瞠目した。クラティアやアドルにとっても、ロアにとっても敵だった者たちだ。
 そんな気持ちが誰の瞳にも宿っていたのだろう。
 ロアは正面から視線を受け止めつつ言った。

「敵、味方関係なく『死を悼む』のが墓守です」

 達観し、落ち着き払った声だった。若すぎるほどの少年だというのに、内部には揺るがない信念を感じる。
 クラティアはこれまでの自分と比べて、ロアに憧れに近い感情を抱いた。

(ロア様は戦いも精神もお強い……私とは比べ物にならない)

 ロアはその後も葬った化け物に祈りを捧げていった。

「じゃあ、森から出るか」

 すべてを終えたのち、アドルの言葉に全員が頷いた。
 まだ化け物がいるのではないかとピリピリしているが、ロアが一緒なのでクラティアとしては少し安心している。もちろんアドルやユウに申し訳ないので言葉にはしないが。

「おっ、ラッキー。馬車が生きてるな!」
「これを生きてるとは言わないような……」

 アドルの喜びの声にユウが呆れ声で返す。
 馬に引かれている箱の天井から中間がひしゃげており、器のように変わってしまっている。天井もないので何の防御力も期待できない。

「バカ、動くだけで儲けものだろうが。姫様もいるんだぞ」
「それはそうですが……姫様の威厳に……」
「私は構いませんよ」

 クラティアは心配するユウにとびっきりの笑顔を向けた。
 そして自嘲気味に、

「王家一、威厳の無い姫ですから」
「姫様ぁ……それは言っちゃダメです」
「アドルとユウしか聞いてないし、大丈夫よ」
「一応、ロア様とユーリア様もおられるので」
「あっ……」

 慌てて首を回したクラティアに、ロアが小さくかぶりを振った。

「私は何も聞こえませんでした」
「私もお兄ちゃんと同じ」
「すげー、できた兄妹だな」

 早速御者となったアドルが、大きな声で笑った。
 ユウが「気を遣わせて申し訳ありません」とロアとユーリアに謝罪し、

「では、どうぞお乗りください」

 と半壊した馬車の席にクラティアを案内してから、ロアとユーリアにも乗席を促した。
 これに驚いたのはロアだ。なぜなら彼はこれで別れるつもりだったからだ。

「あの、私達はここで」

 ロアは丁重に断った。
 しかし、それに強く反応した者が、一、二、三――全員が眉を寄せて、

「それはいけません! 命の恩人を蔑ろになどできません!」
「そうですわ! まだ御礼もできておりませんのに」
「そうだぜ。ロア殿とユーリア殿は、主とうちの部下を救ってくれた。借りは返すのが俺のルールだ」

 三者三様だが、その意見は見事に一致していた。
 ロアは若干たじろぎながら、なおも遠慮した。

「しかし……お聞きした限りではクラティア様は姫とのこと……姫様と言えば――」
「ここに姫などおりませんわ」
「そうです。従者がたった二人なのですよ。あり得ません」
「その内の一人は左手も満足に動かないポンコツだしな」

 どうやら反論は許さないようだった。
 なんとなく普段の関係性が垣間見えて、ロアは思わずくすりと笑みを零した。
 今まで分厚い壁を作ってきた少年の少し打ち解けた雰囲気を感じた三名は、密かに胸を撫で下ろす。
 できればこの少年をクラティアの側に置けないかと画策しているアドルは特にほっとした顔だ。

(あれだけの腕だ。武芸師範、騎士候補、クラティア姫専属騎士……ロア殿くらいとなると身分関係なく何でもありだな)

 大人の企みで悪い笑みを浮かべたアドルは、タイミングを見計らってロアとユーリアに乗席を促した。

「ってことだから、気楽に乗ってくれ。それともどこか目的地が別にあるのか?」
「いえ、私達はドラスト王国を目指しています」
「おっ、それは都合が……いや、行き先が一緒なら遠慮することはないな」

 ロアはその物言いに微苦笑を浮かべながらユーリアの手を引いた。
 乗ることを決めたのだ。

「では、申し訳ないですがご一緒させていただきます」
「申し訳なくありませんわ」
「そうです。それと……ロア様とユーリア様には何か御礼をしたいのですが、クラティア様からも……よろしいですか?」
「もちろんですわ! 私が用意できるものでしたら、何なりとおっしゃってください」

 二人の女性から謎の熱い視線を注がれながら、ロアは居心地悪そうに視線を下げた。

「そういう物は特には……ただ、人を捜しているだけですので」
「……捜し人ですか?」
「差し支えなければ教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

 クラティアが興味深そうに身を乗り出した。個人的関心が透けてみえている。

「アルミラという人物を探しています」
「……アルミラ?」

 クラティアとユウは二人で目を丸くした。

「アルミラって……あの?」
「ロア様、お知り合いなのですか?」
「え? まさかご存知なのですか?」

 ロアが驚きつつ訊ね返した。と、全員がはっと頭を上げた。ドラスト王国方面から、地鳴りのような音が近づいてくるからだ。
 土煙と共に街道を凄まじい速度で近づいてくる集団がある。

「あれは……グランドリア様の!」

 黄色い軍団旗を掲げた銀の鎧の集団だ。
 それは、遅ればせながらの援軍だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

処理中です...