転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと

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019 手伝うよ

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 様々なことにショックを受けたエイミーはその夜、なかなか寝付けなかった。
 それでも次の日はきっちりやってくる。朝は鍛錬の時間だ。
 身についた習慣でいつもの時刻に目覚めると、むくりと上半身を起こした。

「おに……ちゃん……やっぱりそうだった……」

 隣から寝言が聞こえてくすりと笑みを零した。
 昨晩は結局ユーリアと一緒に寝たのだ。
 すやすやと寝息を立てる少女は、とても幸せそうな表情でもにゃもにゃと口元を動かしている。きっとロアの夢でも見ているのだろう。

(私も……ロアみたいなお兄ちゃん欲しかったな……)

 ふとそんなことを思うと、胸がぽかぽかと温かくなる。
 顔を洗い着替えを済ませたエイミーはリビングに出た。母のカヤコがちょうどスープの味見をしていた。美味しそうな香りが漂っていて、珍しく豪勢な感じに見える。きっとロアとユーリアの為でもあるのだろう。

「おはよう、エイミー」
「おはよ。じゃあ、鍛錬行ってくるから」

 いつも通りの挨拶といつも通りの返事をこなし、上着を羽織って扉を押した。
 と――

「あっ、ロアくんが先に滝に行ってると思うから、鍛錬終わったら一緒に戻ってきてね」
「……え? ロアが?」
「朝は鍛錬の時間なんですって。私より早く起きてたみたい。ほんとに真面目な子よね」
「そうなんだ……じゃあ、行ってくるから」
「行ってらっしゃい」

 母に見送られたエイミーは自然体でそっと扉を閉めた。
 そして――昨日の夜より速いのではと思えるほどに息を切らせて森の中を駆けた。

 ロアはカヤコが言ったとおり滝にいた。滝と向かい合いエイミーの方に背中を向けた光景が、何か不思議だな、と思った。
 その原因はすぐにわかった。ロアは浅い水に足を取られていないのだ。彼は水面に足の裏をつけてじっと立って目を閉じていた。

(水の上を歩けるの?)

 また常識を超えた魔法だ。ロアの底知れぬ謎の力に、エイミーは内心でドキドキしながら近づいた。
 とっくに気づいていたのだろう。ロアがくるりと振り向いた。

「おはよう、エイミー」
「お、おはよ」

 思わず緊張して声がどもって小さくなった。それを取り戻す為に慌てて言葉を繋いだ。

「ロアって朝早いんだね」
「静かで気持ちいいからね。鍛錬にはもってこいの時間だし」
「鍛錬って……」

 それだけ強くてまだ鍛錬とは――エイミーは驚きを通り越して面白くなった。
 それが顔に出ていたのだろう。ロアが軽く首を傾げた。
 エイミーがかぶりを振る。

「何でもないよ。で、ロアは何の鍛錬してたの?」
「『気』の効率的な捉え方……かな」
「なにそれ?」
「長時間戦うための訓練の一つだ」
「長時間?」

 エイミーは不思議そうに眉を寄せた。彼女には無い視点だ。魔法を打ち合って勝つか負けるかの世界で長時間戦うことがあるのだろうか。

「ところでエイミー、俺からも一つ質問があるんだけど」
「ん? なに?」
「魔法学校に通いたいと思うかい?」
「魔法学校?」

 思わず首を傾げたが、その単語を知らないわけではない。魔法学校は父がエイミーを入学させたいと願っていた場所だ。魔法の適性を伸ばし、魔法使いとして大成させるための養成機関。
 貴族も平民も亜人も区別なく競争させるというシンプルな考え方が気に入っていた。
 ただ、ハグダは入学前にこれは完成させたいと滝の鍛錬を指示したのだ。
 そして途中で父が亡くなり、宙ぶらりんのまま結論が出ていない。

(ロアに魔法学校のこと話したかな? お母さんかな?)

 少々疑問は湧いたが、別に隠すことでもないかと切り替える。

「入りたいとは思うけど、今は無理。滝の水をクリアできてないから。それができたらってお父さんに言われてたし」
「そっか。じゃあ……クリアしちゃおうか」
「……え? そんな急に……できないけど」
「できるさ。もう少しのところまでは来てるから」

 ロアはそう言って自信ありげに頷いた。
 そしてエイミーは不思議に思いつつも毎日の鍛錬を開始した。
 両手に魔力を集中し、指向性の水の塊を作って滝にぶつける。

(やっぱり、まだダメか……)

 昨夜のロアとユーリアの二人を見て、もしかしたら自分もできるかもと期待していた。
 でも、結果はいつも通りだ。夢のような力も、驚くような成長もない。
 そう簡単に伸びることはないとわかっているものの、ロアの前で何度も失敗するのは精神的に辛い。

「やっぱりきついなぁ」

 何度目かの失敗の後、エイミーは大きな独り言とともにごまかすように天を仰いだ。
 何度やっても成功のイメージが掴めない。限界まで両手に魔力を集中させても、水の塊はそれ以上大きくならないのだ。むしろ繰り返せば繰り返すほど精度が落ちて魔力操作が雑になるという負のスパイラルに陥ってしまっている。

「少しだけ手伝うよ」
「え?」

 ロアが真剣な表情で近づいてきた。
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