転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと

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017 エイミーは見ていた

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 それはちょうどエイミーがユーリアの話に耳を傾けていたときだ。
 全身をざわつかせるような魔力の波を感じた。

(これは、あの時の……お父さんの時と同じ?)

 エイミーがはっと顔をあげると、正面でユーリアも難しい表情をしている。

(ユーリアも気づいた? 偶然じゃない?)

 二人は何を言うこともなく互いに頷きあうと、エイミーが母に声をかけた。

「お母さん、ちょっと滝に行ってくる!」
「え? 今から? さっきも行ったじゃない……」
「だってロアの帰りが遅いからユーリアが心配してて」

 カヤコはそれを聞いて目でユーリアに訊ねた。もちろんユーリアはすぐに頷いたので、カヤコとしては止めることはできない。

「本当に気をつけてね」
「わかってる。ユーリアはちゃんと守るから」

 それだけ告げると、二人は競うように小屋を飛び出した。
 走り出して最初に驚いたのは、本気になったユーリアの速度だ。
 魔力の扱いに長けたエイミーが全力で駆けているというのに、同年代の少女は軽々とそれに着いてくる。
 だが、エイミーの驚きには気づかず、ユーリアは視線を森のずっと奥に固定しながら、

「さっきの、何の気配だろ?」
「たぶん、お父さんが戦った魔獣だ」
「魔獣?」
「前に滝で襲われたときのやつと同じ感じだもん。胸が気持ち悪くなるような嫌な感じ」

 エイミーは気持ちを切り替えて、その気配の位置を確認する。

(間違いない……やっぱり滝だ。でも……じゃあ、お父さんは魔獣を倒せてなかったの? それに、近くの大きな気配は……まさか……)

 二人は黙り込んだまま、子どもとは思えないほど俊敏に森の木々をかわして走り続けた。
 全力で走ればそれほどの距離でもない。
 そして、視界が開けた位置でエイミーは急停止した。滝の奥にかつて見た魔獣と同じ形の生き物の尾が見えたからだ。

(こ、こいつ……やっぱり……)

 エイミーは見た瞬間に確信した。同じなのだ。濃密な魔力の波動が周囲の生き物を威嚇するように放たれていて、足が震える。
 背筋が恐怖でぞくぞく震え、喉がからからに干上がっていく感覚。

「お兄ちゃん!」
「待って、ユーリア!」

 森から飛び出そうとしたユーリアの腰に慌てて抱きついて静止する。
 気持ちは痛いほどわかるが、軽々に飛び出すわけにはいかない。襲われているのは確かにロアだ。艶のある黒い髪はとても珍しく見間違えるはずがない。

 でも、目の前の魔獣相手ではエイミーとユーリアが協力しても倒せるとは思えない。
 それに感じたのだ――ロアが素早く二人を見て、目で制したのを。

「でも、お兄ちゃんが!?」
「よく見て! ロアは一撃も受けてない!」

 その言葉にユーリアが目を見開いた。
 もちろん、そう言ったエイミーも信じられない思いだった。
 前に襲われたときは、父の防御魔法が軽々と破られ、すぐに苦手な迫撃戦になだれ込んだ。不利と判断した父はそのまま森の中に魔獣を誘い込み魔法で倒した――と思っている。

 でも、ロアの戦い方は違う。

 わざと魔獣を誘うような位置に立ち、大ぶりの一撃を今か今かと待っているのだ。
 そこに狙った攻撃が来たのだろう、ロアが腰から片刃の剣を抜いた。
 普通より短いものだが、確かに魔獣のうごきを受け止め、さらに片足を軽々と傷つけている。

(ほとんど魔力を使ってないのに……すごい)

 まるで遊んでいるように力の無い動きで魔獣を圧倒するロアが信じられない。
 魔獣の方が遥かに大きく濃い魔力を放っているというのに、凪のような魔力を纏うロアが完全に上回っている。

(あっ、あの魔獣……四つ目だ。お父さんのとは別のやつ?)

 エイミーが幾分ほっとした時――

「お兄ちゃん、がんばれ!」

 ユーリアも力の違いにすぐに気づいたのだろう。ロアを応援するように小さく拳を握りしめた。横顔がこの状況に場違いなほど可愛らしい。
 そうこうしているうちに、ロアが上空に跳ね上げられた。落ちるだけで死んでしまうような高さの暴力。
 不気味に口端を曲げた魔獣は、追跡するつもりなのか後ろ脚に力を込め、バネのように飛び上がった。

 だが――
 その後、まさに理解できないことが起きた。
 ロアは少しも臆することなく、あろうことか空中で滑るように移動し、飛び込んでくる魔獣の攻撃をかわすと、短めの剣を腰に構え、瞬時にまばゆい光の軌跡を描いたのだ。

 瞬きすら許さないほんのわずかの間だった。
 魔獣が小さく見えるほどの大量の魔力が流れたような気がした。もしかしたらエイミーの気の所為だったかもしれない。

 けれど、その結果――魔獣は塵となった。
 星空の下で、見惚れるような銀色の輝きが瞬いていた。
 ロアが空中で体勢を整えながら着地した。
 エイミーとユーリアは同時に駆け出していた。

「ロアっ!」

 彼はすべて気づいていたように、微笑みを浮かべていた。
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