転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと

文字の大きさ
上 下
13 / 43

013 鍛錬の理由

しおりを挟む
 楽しい食事が終わって1時間ほど経過しただろうか。
 一通り片付けが終わったころを見計らったように、エイミーが立ち上がった。
 さっと上着を羽織り「お母さん、私、行ってくるから」とカヤコの返事を待たずに小屋の外に出かけてしまう。
 とっくに日が暮れて夜だというのにカヤコが心配した素振りは見えない。

「あの、エイミーは外に出て大丈夫なのですか? 夜ですけど……」

 心配したロアは扉の外に視線を向けた。

「ええ……あの子はああ見えて私なんかよりずっと強いから。二人で旅をできるのもあの子のおかげなのよ」

 カヤコは洗い終えた皿を拭きつつ、寂しそうに笑った。そして、ロアの隣で驚いているユーリアにも優しい瞳を向けて口を開いた。

「失礼かもしれないけれど、お二人のご両親は?」
「俺はほとんど親の記憶がありません。ユーリアは――」
「私も捨て子だから」

 ロアの言葉を引き継ぐようにユーリアが言った。もう親の思い出は無いものとしていくつもりらしい。もちろんロアはそれを尊重する。

「あら、二人はじゃあ……兄妹ってわけじゃないのね?」
「血は繋がっていません。でも、本当の妹のように思っています」

 はっきり口にしたロアの横顔を、ユーリアは申し訳無さそうに、でもとても幸せそうに見つめた。

「私も……お兄ちゃんと一緒。お兄ちゃんはほんとのお兄ちゃんみたいに思ってる」
「……そう。何だか羨ましい」
「羨ましい?」
「エイミーには兄弟がいないから。あなたたちみたいな兄妹がいたら、もう少し子供らしかったのかなって思うときがあるわ。あの子は、夫が亡くなってからずっと訓練ばかりだから」

 カヤコは昔を思い出すように視線を虚空に投げた。

「エイミーはね……夫の強い力を受け継いでいるの」
「お父様の?」
「若い頃、夫は国の魔法隊に所属していたんだけど怪我を負って引退せざるを得なくなってね。優秀だって言われてたから最初はすごく沈んでいたんだけど、エイミーが産まれてから人が変わったように喜んでね」

 やるせなさそうにため息を吐いたカヤコが「でも」と続けた。

「この子には俺と同じ才能がある――って信じてね……毎日エイミーにべったり張り付いて戦い方ばかり教えたの」
「そんなことが……」
「この小屋の近くに小さな滝があるの。夫はいつもエイミーをそこに連れていって訓練をしていたわ。俺と同じことができたらお前は一人前だって認めてやる、って何度も繰り返してね。エイミーはその約束を果たそうとがんばってる」
「……でも、お父上は亡くなったのでは?」
「だから終わりがないの。魔法隊に入れる夫と同じことを、いくら才能があっても10歳の娘ができるなんて思えない……でも、そもそも力のない私には止められない」

 カヤコは細くため息を吐いて、切り替えたように表情を緩めた。

「ごめんなさい。変な話をしちゃって。不思議と夫が死んだ時のことを思い出しちゃって。おばさんの愚痴だと思って聞き流してちょうだい」
「そんな……あっ、そうだ! 良かったら、俺も訓練の様子を見に行ってもいいですか?」
「え?」

 カヤコがきょとんと首を傾げた。しかし、すぐに嬉しそうに頷いた。

「是非、お願いしたいわ。あの子にはロアくんやユーリアちゃんみたいに歳の近い友達がいないから」
「ありがとうございます」
「でも……いいの? 近いとは言っても夜は危険よ」
「ご安心を。俺たちも少しは戦えますので」

 ロアはにこりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...