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006 旅立ちの日
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旅立ちの日がやってきた。
温かい日差しが挿し込む墓園には、ガネッサ騎士団の面々が何人も見送りにきていた。
ロアの隣に立つユーリアは初めて会うメンバーに少々驚いている。
「ほんとに忘れ物はない? ユーリアも衣装可愛いわ。ロアの迷惑にならないようにしなさい」
「うん!」
機嫌よく返事したユーリアに微笑んだニーアは、打って変わって心配そうにロアの革袋を開けて中身をチェックする。
「本当に大丈夫? 予備のナイフは必要よ。料理にも薪作りにも使えるわ。それに遭難したときの干し肉と、甘味の干し果物は時に命に直結するわ――」
「あのな、ニーア。お前はこいつらの母親か。仙気術使いが空腹でどうにかなるわけないだろ。そこら中に食べ物があるんだし」
顔を引き攣らせたギャランがニーアの首根っこを引っ張って立たせ、さっさと革袋をロアに放り投げる。
「行ってこい、ロア」
「ありがとうギャラン。ニーアも……みんなも元気で」
ロアが軽く手を振って、ユーリアの手を引いた。その背中はいつの間にか大きく成長している。まるで兄妹のような二人を見送りながら、ニーアが涙腺を緩ませる。
「ほんとに大きくなったわ……」
「そうだな。俺も墓守の一族って以上には見てなかった。だが、あの日から急に言葉遣いが丁寧になって、まるで別人になった」
視線の先で、二人が墓園のエリア外に出たようだ。ミストン山も雪解けを終えているとはいえ、ここよりは遥かに寒い。
ユーリアが慌てた様子でロアの腕に自分の体を引っ付けている。
「ロアに伝えなくて良かったの?」
「俺らが伝えてどうする。そのうち気づく。墓守って職の恐ろしさもな」
「そうね……」
「だいたい、あれくらいで取り乱すニーアがおかしいんだ。ロアは最高の墓守だぜ。――俺たち丸ごと背負えるだけの器がある。すぐ会えるだろ」
「そうね……」
「まあでも成長のためにも旅ってのは必要だ。俺たちは俺たちの仕事をしよう」
ギャランはそう告げると、くるりと振り返った。
そこにいるのはガネッサ騎士団――
すべての栄光を欲しいままにした最強の集団であり、一日にしてすべてを失った裏切りの汚名を背負った面々だ。
「野郎ども、まずは……小屋の立て直しだ!」
「「「「「おぉぉっっ!!!」」」」
数多くの野太い声が『永遠に続く春の墓地』に響き渡った。
◆
急な斜面には低草が顔を出し、赤や黄色の小さな花が芽吹いている。
それを楽しそうに眺めるユーリアはうきうきした様子でロアに訊ねる。
「お兄ちゃん、これからどこ行くの?」
「まずは姉さんを探すつもりなんだ」
「お兄ちゃんのお姉さん?」
「そうだよ。もうどれくらいかな? 僕より8歳上の姉でね。今はどこにいるのかも知らないし、何をしているのかも知らない。でもその前に――ユーリアの村に行く」
「え?」
その言葉はユーリアの表情を凍りつかせた。楽しい時間が夢であったかのように悲愴な顔で懇願するように言う。
「お兄ちゃん……私、お兄ちゃんと一緒にいたい」
「ユーリアのご両親はちゃんといる。一度、話を訊きたい」
「で、でも!」
「わかってる。でも、勘違いってこともあるだろ? 今のユーリアには大きな力があるし、魔族の霊はもう憑いていない。ミーガンが守ってくれてるからね」
「……うん」
ユーリアが悲しげに目を伏せた。ロアが言っていることは正論だ。
(でも、ぜったい嫌……私はお兄ちゃんと一緒がいい)
ユーリアの脳裏につらい記憶が蘇る――
温かい日差しが挿し込む墓園には、ガネッサ騎士団の面々が何人も見送りにきていた。
ロアの隣に立つユーリアは初めて会うメンバーに少々驚いている。
「ほんとに忘れ物はない? ユーリアも衣装可愛いわ。ロアの迷惑にならないようにしなさい」
「うん!」
機嫌よく返事したユーリアに微笑んだニーアは、打って変わって心配そうにロアの革袋を開けて中身をチェックする。
「本当に大丈夫? 予備のナイフは必要よ。料理にも薪作りにも使えるわ。それに遭難したときの干し肉と、甘味の干し果物は時に命に直結するわ――」
「あのな、ニーア。お前はこいつらの母親か。仙気術使いが空腹でどうにかなるわけないだろ。そこら中に食べ物があるんだし」
顔を引き攣らせたギャランがニーアの首根っこを引っ張って立たせ、さっさと革袋をロアに放り投げる。
「行ってこい、ロア」
「ありがとうギャラン。ニーアも……みんなも元気で」
ロアが軽く手を振って、ユーリアの手を引いた。その背中はいつの間にか大きく成長している。まるで兄妹のような二人を見送りながら、ニーアが涙腺を緩ませる。
「ほんとに大きくなったわ……」
「そうだな。俺も墓守の一族って以上には見てなかった。だが、あの日から急に言葉遣いが丁寧になって、まるで別人になった」
視線の先で、二人が墓園のエリア外に出たようだ。ミストン山も雪解けを終えているとはいえ、ここよりは遥かに寒い。
ユーリアが慌てた様子でロアの腕に自分の体を引っ付けている。
「ロアに伝えなくて良かったの?」
「俺らが伝えてどうする。そのうち気づく。墓守って職の恐ろしさもな」
「そうね……」
「だいたい、あれくらいで取り乱すニーアがおかしいんだ。ロアは最高の墓守だぜ。――俺たち丸ごと背負えるだけの器がある。すぐ会えるだろ」
「そうね……」
「まあでも成長のためにも旅ってのは必要だ。俺たちは俺たちの仕事をしよう」
ギャランはそう告げると、くるりと振り返った。
そこにいるのはガネッサ騎士団――
すべての栄光を欲しいままにした最強の集団であり、一日にしてすべてを失った裏切りの汚名を背負った面々だ。
「野郎ども、まずは……小屋の立て直しだ!」
「「「「「おぉぉっっ!!!」」」」
数多くの野太い声が『永遠に続く春の墓地』に響き渡った。
◆
急な斜面には低草が顔を出し、赤や黄色の小さな花が芽吹いている。
それを楽しそうに眺めるユーリアはうきうきした様子でロアに訊ねる。
「お兄ちゃん、これからどこ行くの?」
「まずは姉さんを探すつもりなんだ」
「お兄ちゃんのお姉さん?」
「そうだよ。もうどれくらいかな? 僕より8歳上の姉でね。今はどこにいるのかも知らないし、何をしているのかも知らない。でもその前に――ユーリアの村に行く」
「え?」
その言葉はユーリアの表情を凍りつかせた。楽しい時間が夢であったかのように悲愴な顔で懇願するように言う。
「お兄ちゃん……私、お兄ちゃんと一緒にいたい」
「ユーリアのご両親はちゃんといる。一度、話を訊きたい」
「で、でも!」
「わかってる。でも、勘違いってこともあるだろ? 今のユーリアには大きな力があるし、魔族の霊はもう憑いていない。ミーガンが守ってくれてるからね」
「……うん」
ユーリアが悲しげに目を伏せた。ロアが言っていることは正論だ。
(でも、ぜったい嫌……私はお兄ちゃんと一緒がいい)
ユーリアの脳裏につらい記憶が蘇る――
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