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004 少女を助けたい
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ロアは体を硬直させた。自分しか知らない――同じ世界から来た者しか扱えない言語だ。共用語とはまったく違う。
衝撃が脳を揺さぶり言葉が出なかった。
少女は目もよく見えていないはずだ。ロアの顔どころか焦点もあっていない。折れそうなほど細い手がぶるぶる震えてわずかに持ち上がった。
その手を掬いあげるように、ロアがぐっと握る。同時に、彼の体から銀色の光が吹き出した。
そして、何かを決心したかのように厳かに告げた。
「付け替えるよ」
「……ロア」
「お前……そこまで……」
ニーアとギャランが言葉を失った。だが、ロアはもう一度、自分に言い聞かせるように言った。
「この子の……守護者を付け替える」
「……ほんとにするの? 今まで一度だって……」
「ロア、それは墓守の禁忌だぜ」
「わかってる」
ロアが立ち上がった。その瞳に迷いは無かった。
「でも、母さんも姉さんも出ていった。今の『墓園』の管理者は――俺だ」
「はあ……たまに頑固なところは変わらないな」
ギャランが呆れたようにがりがりと頭をかいた。ニーアがその様子を横目で眺めつつ、真剣な表情でロアを見つめる。
「そうは言っても……誰にするの?」
「できれば仙気量が多い人がいい」
「ロアの《絶対命令》は拒否できないけれど、いいの? あなたが今まで培ってきた信頼は地に落ちるかもしれないわ」
「そうだぜ。そこまでして、この場で救うべき人間か?」
ギャランが険しい顔でロアを睨む。厳しい視線だが、それは墓守としてのロアを心配してのことだ。もちろんロアもわかっている。
彼はふっと表情を緩め――
「心配してくれてありがとう。でも、ここでこの子を助けないと、俺はあとで必ず後悔すると思うんだ。けど、二人の心配もわかる――だから、挙手制にしたい」
「は?」
「きょ、挙手……?」
啞然とするニーアの隣で、ギャランが力を抜いたように苦笑した。
「ロア……いると思うか? そんな奇特なやつが。見知らぬ人間の為に消えていいってやつが」
「いなかったら次の手を使う。だから、全員に一度話をしたい」
「あのな……本気なのはわかるが……だいたいそんな時間無いだろ。お嬢ちゃんは長くないぞ。――いいぜ、俺が話してやる」
「ギャラン、本気なの!?」
「うちの墓守はマジだ。目を見ろ。わかるだろ」
ギャランはニーアに肩をすくめてみせてから、すぐに背中を向けた。
しかし、それでもニーアは不安そうに訊ねる。
「理由は? どんな理由で――消えてほしいって伝えるの?」
「ニーア、消えてほしいじゃないだろ。ロアが助けたい人間がいると正直に話すだけだ。ロアもそれでいいんだろ?」
「もちろん。好きなように悪者にしてくれていい」
「ってことだ。安心しろニーア。こいつは歴代最高の墓守だ。一人くらいいるだろうさ。だからロア……それまでお嬢ちゃんの命を繋ぐのはお前の仕事だぞ」
「了解。絶対に繋いでみせる」
衝撃が脳を揺さぶり言葉が出なかった。
少女は目もよく見えていないはずだ。ロアの顔どころか焦点もあっていない。折れそうなほど細い手がぶるぶる震えてわずかに持ち上がった。
その手を掬いあげるように、ロアがぐっと握る。同時に、彼の体から銀色の光が吹き出した。
そして、何かを決心したかのように厳かに告げた。
「付け替えるよ」
「……ロア」
「お前……そこまで……」
ニーアとギャランが言葉を失った。だが、ロアはもう一度、自分に言い聞かせるように言った。
「この子の……守護者を付け替える」
「……ほんとにするの? 今まで一度だって……」
「ロア、それは墓守の禁忌だぜ」
「わかってる」
ロアが立ち上がった。その瞳に迷いは無かった。
「でも、母さんも姉さんも出ていった。今の『墓園』の管理者は――俺だ」
「はあ……たまに頑固なところは変わらないな」
ギャランが呆れたようにがりがりと頭をかいた。ニーアがその様子を横目で眺めつつ、真剣な表情でロアを見つめる。
「そうは言っても……誰にするの?」
「できれば仙気量が多い人がいい」
「ロアの《絶対命令》は拒否できないけれど、いいの? あなたが今まで培ってきた信頼は地に落ちるかもしれないわ」
「そうだぜ。そこまでして、この場で救うべき人間か?」
ギャランが険しい顔でロアを睨む。厳しい視線だが、それは墓守としてのロアを心配してのことだ。もちろんロアもわかっている。
彼はふっと表情を緩め――
「心配してくれてありがとう。でも、ここでこの子を助けないと、俺はあとで必ず後悔すると思うんだ。けど、二人の心配もわかる――だから、挙手制にしたい」
「は?」
「きょ、挙手……?」
啞然とするニーアの隣で、ギャランが力を抜いたように苦笑した。
「ロア……いると思うか? そんな奇特なやつが。見知らぬ人間の為に消えていいってやつが」
「いなかったら次の手を使う。だから、全員に一度話をしたい」
「あのな……本気なのはわかるが……だいたいそんな時間無いだろ。お嬢ちゃんは長くないぞ。――いいぜ、俺が話してやる」
「ギャラン、本気なの!?」
「うちの墓守はマジだ。目を見ろ。わかるだろ」
ギャランはニーアに肩をすくめてみせてから、すぐに背中を向けた。
しかし、それでもニーアは不安そうに訊ねる。
「理由は? どんな理由で――消えてほしいって伝えるの?」
「ニーア、消えてほしいじゃないだろ。ロアが助けたい人間がいると正直に話すだけだ。ロアもそれでいいんだろ?」
「もちろん。好きなように悪者にしてくれていい」
「ってことだ。安心しろニーア。こいつは歴代最高の墓守だ。一人くらいいるだろうさ。だからロア……それまでお嬢ちゃんの命を繋ぐのはお前の仕事だぞ」
「了解。絶対に繋いでみせる」
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