ペンギン・イン・ザ・ライブラリー

深田くれと

文字の大きさ
上 下
6 / 31

史上最年少を目指しているんだ

しおりを挟む
「新しい片づけ場所に運んでるんだよ。ユイの住んでる世界で、本の分類が少し変わったんだ」
「分類?」
「うん。分類っていうのは……そうだなあ、ユイが本を探すときはどうやって探す?」

 ペン太がやさしい声で言った。
 ユイは本屋でどう探しているだろうかと考える。
 あまり気にしたことはない。児童書や雑誌といったコーナーに向かうだけだ。
 ペン太が、ユイが考えたことを先読みしたように言う。

「たくさん本があるってことはね、片づけるためのルールがあるんだ。歴史の本をスポーツの本と同じ場所に置いちゃうと、あとで探す人が困るだろ? 歴史の本が読みたいのに、適当に片づけると、端から全部調べないといけなくなる」

 ユイがうなずいた。

「だから、歴史は歴史コーナーに、スポーツはスポーツコーナーに置くって図書界は決めているんだよ。でもね――」

 ペン太が、手に持っていた本を元の場所に片づける。

「片づけるルールだってずっと同じじゃない」
「どうして?」
「昔は、コンピュータを研究するような本は多くなかった。難しい言葉だと、情報科学っていうんだけど、そういう種類の本は最近になって増えてきたから、昔のルールのままだと片づける場所がそもそもないんだよ」

 ペン太は片手を持ちあげて、チョウが抜いた本のすきまを指した。

「ユイの世界のルールはどんどん細かくなっていくから、さっき持っていかれた本も、きっと片づける場所が変わったんだと思う」
「チョウが片づけのルールを知ってるってこと?」

 ペン太が「正解」とうなずいた。

「色紙チョウは、ユイの世界の片づけのルールに影響されて、新しく決まった片づけ場所に運んでくれるんだ」
「でも、それだとペン太もわからなくなるんじゃない?」

 ユイの質問に、ペン太はうれしそうに両手をばたつかせた。
 まるで、よく聞いてくれたといわんばかりに見えた。

「だから、図書ペンギン司書が必要なんだよ! ぼくらは、本の中身をだいたい覚えてる。まったく違う場所に片づけられることはないから、色紙チョウがどこに持っていったって、図書界のエリアと本の中身を知るぼくらは、探したい本を追いかけることができるんだ」

 ペン太は目をつむり、白い胸を自慢げにそり返らせた。
 どうだ! と言いたいのがよく分かった。
 ユイはあまりにかわいらしいペンギンの仕草に、隠れてくすりと笑みをこぼした。
 お調子もので、自慢したい気持ちがひしひしと伝わってくる。
 でも、すごい。
 ユイの知らない本のことを山ほど勉強したんだろう。何冊の本を読めば、ユイは図書ペンギンに近づけるだろう。
 こんなに本にあふれている世界で、読みたい本を探せるのだ。
 図書館のような検索機能もない世界で、図書ペンギン司書たちは本の内容から、だいたいの場所を見つけられるのだ。
 それは誰にもまねできないことだ。
 小さなペンギンの頭の中には、きっとユイの知らないたくさんの知識がつまっているにちがいない。
 ユイは感心しつつ、目の前で胸をはり続けているペン太をながめた。

「どうした? 図書ペンギンのすごさにおどろいているのかい?」

 少しえらそうな口調で、ペン太が片目を細くあけてにらんだ。
 いらだっているようにも見えるけど、たぶんそわそわしている。
 その証拠に、片足の先がぺたぺたと上がったり下がったりと落ち着かない。
 難しい話をしていたときは、こんな動きはなかった。

「ほら、なんとか言ったらどうだ?」

 ユイの言葉をずっと待ちながら、ペン太は不安がっている。
 見習いの自分のせいで図書ペンギン司書を甘く見られてはいけない――そんなことを考えているのだろう。
 何度も「すごいだろ?」と言ってた理由がわかった気がした。
 ユイはにっこりと笑った。

「すごい」
「そうだろ!」

 ペン太の表情がぱっと明るくなった。
 両足をそろえて、ぴょんぴょんと二度とんだあと、平たい手をばたばたと何度も羽ばたかせた。もしかすると飛べるのでは、と思うほどに。
 ふと気づけば、ラシンバンがペン太の頭上をぐるぐる回っている。

「やっぱりわかるやつには、図書ペンギンのすごさがわかるんだよな」

 ペン太はうれしそうに言った。
 照れ隠しなのか、くるりと背を向けて、

「そうなんだよ。図書界を見ればわかるんだよ。ユイも図書ペンギン司書になれる素質があるかもな」
 と言うペン太の背中はぴんとのびていた。

「ペン太」
「ん?」
「早く司書になれるといいね」

 ユイは笑顔でそう言った。
 ペン太がほとんどない肩をすくめて「クァァ」と高らかに笑った。

「ぼくは至上最年少での図書ペンギン司書合格を目指してるんだ。ユイに心配されなくても、すぐに合格して見習いとはお別れだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

バロン

Ham
児童書・童話
広大な平野が続き 川と川に挟まれる 農村地帯の小さな町。 そこに暮らす 聴力にハンデのある ひとりの少年と 地域猫と呼ばれる 一匹の猫との出会いと 日々の物語。

はんぶんこ天使

いずみ
児童書・童話
少し内気でドジなところのある小学五年生の美優は、不思議な事件をきっかけに同級生の萌が天使だということを知ってしまう。でも彼女は、美優が想像していた天使とはちょっと違って・・・ 萌の仕事を手伝ううちに、いつの間にか美優にも人の持つ心の闇が見えるようになってしまった。さて美優は、大事な友達の闇を消すことができるのか? ※児童文学になります。小学校高学年から中学生向け。もちろん、過去にその年代だったあなたもOK!・・・えっと、低学年は・・・?

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

Sadness of the attendant

砂詠 飛来
児童書・童話
王子がまだ生熟れであるように、姫もまだまだ小娘でありました。 醜いカエルの姿に変えられてしまった王子を嘆く従者ハインリヒ。彼の強い憎しみの先に居たのは、王子を救ってくれた姫だった。

処理中です...