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史上最年少を目指しているんだ
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「新しい片づけ場所に運んでるんだよ。ユイの住んでる世界で、本の分類が少し変わったんだ」
「分類?」
「うん。分類っていうのは……そうだなあ、ユイが本を探すときはどうやって探す?」
ペン太がやさしい声で言った。
ユイは本屋でどう探しているだろうかと考える。
あまり気にしたことはない。児童書や雑誌といったコーナーに向かうだけだ。
ペン太が、ユイが考えたことを先読みしたように言う。
「たくさん本があるってことはね、片づけるためのルールがあるんだ。歴史の本をスポーツの本と同じ場所に置いちゃうと、あとで探す人が困るだろ? 歴史の本が読みたいのに、適当に片づけると、端から全部調べないといけなくなる」
ユイがうなずいた。
「だから、歴史は歴史コーナーに、スポーツはスポーツコーナーに置くって図書界は決めているんだよ。でもね――」
ペン太が、手に持っていた本を元の場所に片づける。
「片づけるルールだってずっと同じじゃない」
「どうして?」
「昔は、コンピュータを研究するような本は多くなかった。難しい言葉だと、情報科学っていうんだけど、そういう種類の本は最近になって増えてきたから、昔のルールのままだと片づける場所がそもそもないんだよ」
ペン太は片手を持ちあげて、チョウが抜いた本のすきまを指した。
「ユイの世界のルールはどんどん細かくなっていくから、さっき持っていかれた本も、きっと片づける場所が変わったんだと思う」
「チョウが片づけのルールを知ってるってこと?」
ペン太が「正解」とうなずいた。
「色紙チョウは、ユイの世界の片づけのルールに影響されて、新しく決まった片づけ場所に運んでくれるんだ」
「でも、それだとペン太もわからなくなるんじゃない?」
ユイの質問に、ペン太はうれしそうに両手をばたつかせた。
まるで、よく聞いてくれたといわんばかりに見えた。
「だから、図書ペンギン司書が必要なんだよ! ぼくらは、本の中身をだいたい覚えてる。まったく違う場所に片づけられることはないから、色紙チョウがどこに持っていったって、図書界のエリアと本の中身を知るぼくらは、探したい本を追いかけることができるんだ」
ペン太は目をつむり、白い胸を自慢げにそり返らせた。
どうだ! と言いたいのがよく分かった。
ユイはあまりにかわいらしいペンギンの仕草に、隠れてくすりと笑みをこぼした。
お調子もので、自慢したい気持ちがひしひしと伝わってくる。
でも、すごい。
ユイの知らない本のことを山ほど勉強したんだろう。何冊の本を読めば、ユイは図書ペンギンに近づけるだろう。
こんなに本にあふれている世界で、読みたい本を探せるのだ。
図書館のような検索機能もない世界で、図書ペンギン司書たちは本の内容から、だいたいの場所を見つけられるのだ。
それは誰にもまねできないことだ。
小さなペンギンの頭の中には、きっとユイの知らないたくさんの知識がつまっているにちがいない。
ユイは感心しつつ、目の前で胸をはり続けているペン太をながめた。
「どうした? 図書ペンギンのすごさにおどろいているのかい?」
少しえらそうな口調で、ペン太が片目を細くあけてにらんだ。
いらだっているようにも見えるけど、たぶんそわそわしている。
その証拠に、片足の先がぺたぺたと上がったり下がったりと落ち着かない。
難しい話をしていたときは、こんな動きはなかった。
「ほら、なんとか言ったらどうだ?」
ユイの言葉をずっと待ちながら、ペン太は不安がっている。
見習いの自分のせいで図書ペンギン司書を甘く見られてはいけない――そんなことを考えているのだろう。
何度も「すごいだろ?」と言ってた理由がわかった気がした。
ユイはにっこりと笑った。
「すごい」
「そうだろ!」
ペン太の表情がぱっと明るくなった。
両足をそろえて、ぴょんぴょんと二度とんだあと、平たい手をばたばたと何度も羽ばたかせた。もしかすると飛べるのでは、と思うほどに。
ふと気づけば、ラシンバンがペン太の頭上をぐるぐる回っている。
「やっぱりわかるやつには、図書ペンギンのすごさがわかるんだよな」
ペン太はうれしそうに言った。
照れ隠しなのか、くるりと背を向けて、
「そうなんだよ。図書界を見ればわかるんだよ。ユイも図書ペンギン司書になれる素質があるかもな」
と言うペン太の背中はぴんとのびていた。
「ペン太」
「ん?」
「早く司書になれるといいね」
ユイは笑顔でそう言った。
ペン太がほとんどない肩をすくめて「クァァ」と高らかに笑った。
「ぼくは至上最年少での図書ペンギン司書合格を目指してるんだ。ユイに心配されなくても、すぐに合格して見習いとはお別れだ」
「分類?」
「うん。分類っていうのは……そうだなあ、ユイが本を探すときはどうやって探す?」
ペン太がやさしい声で言った。
ユイは本屋でどう探しているだろうかと考える。
あまり気にしたことはない。児童書や雑誌といったコーナーに向かうだけだ。
ペン太が、ユイが考えたことを先読みしたように言う。
「たくさん本があるってことはね、片づけるためのルールがあるんだ。歴史の本をスポーツの本と同じ場所に置いちゃうと、あとで探す人が困るだろ? 歴史の本が読みたいのに、適当に片づけると、端から全部調べないといけなくなる」
ユイがうなずいた。
「だから、歴史は歴史コーナーに、スポーツはスポーツコーナーに置くって図書界は決めているんだよ。でもね――」
ペン太が、手に持っていた本を元の場所に片づける。
「片づけるルールだってずっと同じじゃない」
「どうして?」
「昔は、コンピュータを研究するような本は多くなかった。難しい言葉だと、情報科学っていうんだけど、そういう種類の本は最近になって増えてきたから、昔のルールのままだと片づける場所がそもそもないんだよ」
ペン太は片手を持ちあげて、チョウが抜いた本のすきまを指した。
「ユイの世界のルールはどんどん細かくなっていくから、さっき持っていかれた本も、きっと片づける場所が変わったんだと思う」
「チョウが片づけのルールを知ってるってこと?」
ペン太が「正解」とうなずいた。
「色紙チョウは、ユイの世界の片づけのルールに影響されて、新しく決まった片づけ場所に運んでくれるんだ」
「でも、それだとペン太もわからなくなるんじゃない?」
ユイの質問に、ペン太はうれしそうに両手をばたつかせた。
まるで、よく聞いてくれたといわんばかりに見えた。
「だから、図書ペンギン司書が必要なんだよ! ぼくらは、本の中身をだいたい覚えてる。まったく違う場所に片づけられることはないから、色紙チョウがどこに持っていったって、図書界のエリアと本の中身を知るぼくらは、探したい本を追いかけることができるんだ」
ペン太は目をつむり、白い胸を自慢げにそり返らせた。
どうだ! と言いたいのがよく分かった。
ユイはあまりにかわいらしいペンギンの仕草に、隠れてくすりと笑みをこぼした。
お調子もので、自慢したい気持ちがひしひしと伝わってくる。
でも、すごい。
ユイの知らない本のことを山ほど勉強したんだろう。何冊の本を読めば、ユイは図書ペンギンに近づけるだろう。
こんなに本にあふれている世界で、読みたい本を探せるのだ。
図書館のような検索機能もない世界で、図書ペンギン司書たちは本の内容から、だいたいの場所を見つけられるのだ。
それは誰にもまねできないことだ。
小さなペンギンの頭の中には、きっとユイの知らないたくさんの知識がつまっているにちがいない。
ユイは感心しつつ、目の前で胸をはり続けているペン太をながめた。
「どうした? 図書ペンギンのすごさにおどろいているのかい?」
少しえらそうな口調で、ペン太が片目を細くあけてにらんだ。
いらだっているようにも見えるけど、たぶんそわそわしている。
その証拠に、片足の先がぺたぺたと上がったり下がったりと落ち着かない。
難しい話をしていたときは、こんな動きはなかった。
「ほら、なんとか言ったらどうだ?」
ユイの言葉をずっと待ちながら、ペン太は不安がっている。
見習いの自分のせいで図書ペンギン司書を甘く見られてはいけない――そんなことを考えているのだろう。
何度も「すごいだろ?」と言ってた理由がわかった気がした。
ユイはにっこりと笑った。
「すごい」
「そうだろ!」
ペン太の表情がぱっと明るくなった。
両足をそろえて、ぴょんぴょんと二度とんだあと、平たい手をばたばたと何度も羽ばたかせた。もしかすると飛べるのでは、と思うほどに。
ふと気づけば、ラシンバンがペン太の頭上をぐるぐる回っている。
「やっぱりわかるやつには、図書ペンギンのすごさがわかるんだよな」
ペン太はうれしそうに言った。
照れ隠しなのか、くるりと背を向けて、
「そうなんだよ。図書界を見ればわかるんだよ。ユイも図書ペンギン司書になれる素質があるかもな」
と言うペン太の背中はぴんとのびていた。
「ペン太」
「ん?」
「早く司書になれるといいね」
ユイは笑顔でそう言った。
ペン太がほとんどない肩をすくめて「クァァ」と高らかに笑った。
「ぼくは至上最年少での図書ペンギン司書合格を目指してるんだ。ユイに心配されなくても、すぐに合格して見習いとはお別れだ」
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