320 / 363
第五章 ウォード覚醒編
第62話 聖女の秘術
しおりを挟む
小さなラミュルが俺に話しかける。
「私がお兄ちゃんを救ってみせるよ」
「自分のことだから判る……、助かる状況じゃないよ。救える人達にその力を使うんだ」
ラミュルの治癒の力は無限に使える訳ではない、絶望的な俺に治癒を施せば、本来なら助かるはずの命を救えなくなってしまう。だから、他の人達を救うように伝えた。俺の言葉を聞いたラミュルは、悲しそうな表情をしながら俺の元へ歩み寄って、俺の体に手を回して抱き起こした。その姿は幼い頃の姿から現在のものになっていた。
「お兄ちゃんは、2度も街を救った英雄なんだよ。誰よりも優先的に治癒を受けるべきだと私は思うの」
「ありがたいけど、この状態では助かるとは思えない……、救える者を優先するべきだ」
俺は治癒を始めようとするラミュルに、先程と同じことを伝えるが、首を横に振ってから俺の顔に両手を添える。
「私ね、聖女の力を得たけど聖女にはならなかったの。お兄ちゃんが守った街を私が守ろうと思ったから」
「それなら、僕を治癒せずに他の人を」
俺がもう1度同じ言葉を口にしようとすると、首を横に振ってから否定した。
「この街の領主や名士達に住民の殆どは、私の力で救う対象にならないわ。今の私は領主邸で軟禁されていて、本来するべきことができないの。それにアナの愛する人は絶対に守りたい」
「身内贔屓だね」
「きっと、お兄ちゃんはこの世界に必要な人なんだと思う。良いことも悪いことも、この世界の命運の為に作用するのが〚幸運〛なのかもね。だから、この【聖女の秘術】を使うね」
「秘術って!?」
ラミュルが聖女の秘術を使うと言ったので、何をするのかを聞こうとすると、口を閉ざされた。それは指ではなく口で、突然の口づけに驚いていると、体中の痛みが和らいでくるのが判った。
やがて、失ったはずの右腕の感覚があることに気づいたので、潰れた右眼に意識を集中する。
(見える。なんて治癒力なんだ)
ラミュルの使った聖女の秘術は、欠損した部位まで回復させる凄い力だった。これ程の力を行使すれば、ラミュルに何らかの影響があるはずだと思ってしまう。
そして、目の前のラミュルの姿が変わっていることに驚愕した。俺は慌てて口を離そうとするがラミュルは抵抗して離さない。
このまま続けるのは危険だと思い、ラミュルの頭に手を当てて強引に離す。
「この秘術は生命力の譲渡による治癒だね?」
「うん、正解。私の生命力を結晶化させた聖命丸で、アナがお兄ちゃんに飲ませた時に、生命力の譲渡が可能になったの」
「そんなことをしたらラミュルは……」
「後悔はないの。スタンピードを止めてくれて、ありがとう……」
ラミュルの言葉が終わると、俺の意識は遠のいていった。
「私がお兄ちゃんを救ってみせるよ」
「自分のことだから判る……、助かる状況じゃないよ。救える人達にその力を使うんだ」
ラミュルの治癒の力は無限に使える訳ではない、絶望的な俺に治癒を施せば、本来なら助かるはずの命を救えなくなってしまう。だから、他の人達を救うように伝えた。俺の言葉を聞いたラミュルは、悲しそうな表情をしながら俺の元へ歩み寄って、俺の体に手を回して抱き起こした。その姿は幼い頃の姿から現在のものになっていた。
「お兄ちゃんは、2度も街を救った英雄なんだよ。誰よりも優先的に治癒を受けるべきだと私は思うの」
「ありがたいけど、この状態では助かるとは思えない……、救える者を優先するべきだ」
俺は治癒を始めようとするラミュルに、先程と同じことを伝えるが、首を横に振ってから俺の顔に両手を添える。
「私ね、聖女の力を得たけど聖女にはならなかったの。お兄ちゃんが守った街を私が守ろうと思ったから」
「それなら、僕を治癒せずに他の人を」
俺がもう1度同じ言葉を口にしようとすると、首を横に振ってから否定した。
「この街の領主や名士達に住民の殆どは、私の力で救う対象にならないわ。今の私は領主邸で軟禁されていて、本来するべきことができないの。それにアナの愛する人は絶対に守りたい」
「身内贔屓だね」
「きっと、お兄ちゃんはこの世界に必要な人なんだと思う。良いことも悪いことも、この世界の命運の為に作用するのが〚幸運〛なのかもね。だから、この【聖女の秘術】を使うね」
「秘術って!?」
ラミュルが聖女の秘術を使うと言ったので、何をするのかを聞こうとすると、口を閉ざされた。それは指ではなく口で、突然の口づけに驚いていると、体中の痛みが和らいでくるのが判った。
やがて、失ったはずの右腕の感覚があることに気づいたので、潰れた右眼に意識を集中する。
(見える。なんて治癒力なんだ)
ラミュルの使った聖女の秘術は、欠損した部位まで回復させる凄い力だった。これ程の力を行使すれば、ラミュルに何らかの影響があるはずだと思ってしまう。
そして、目の前のラミュルの姿が変わっていることに驚愕した。俺は慌てて口を離そうとするがラミュルは抵抗して離さない。
このまま続けるのは危険だと思い、ラミュルの頭に手を当てて強引に離す。
「この秘術は生命力の譲渡による治癒だね?」
「うん、正解。私の生命力を結晶化させた聖命丸で、アナがお兄ちゃんに飲ませた時に、生命力の譲渡が可能になったの」
「そんなことをしたらラミュルは……」
「後悔はないの。スタンピードを止めてくれて、ありがとう……」
ラミュルの言葉が終わると、俺の意識は遠のいていった。
21
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる