上 下
194 / 356
第四章 帰郷編

第10話 知らんぷり

しおりを挟む
 メルローズの父コスター男爵の口から、パミュル.レーカーの名が出たのだった……

「君はパミュル、パミュル.レーカーなのか?」
「確かに私の名前はパミュルと申しますが、男爵様が言われたパミュル.レーカーとは別人です」

 コスター男爵に声をかけられたパミュルは、顔色一つ変えずに答えた。

「そうか、そうだな。私の知ってるパミュルは既に亡くなっていた……他人の空似だね。いきなり話しかけて済まなかった」
「いいえ、お気になさらず」

 凄い演技力だ。俺ならウォード.レーカーとかいきなり言われたら『ギクッ』として、あんなに冷静に対応できなかったと思った。

「もぅ、パパ!私の話を聞いてないの?」

 メルローズは口を尖らせながら男爵に文句を言うと、突然我に返って必死に娘に謝る。

(この人は本当に親バカだ……)

「メル、ちゃんと聞いてたよ!ガレリアへの護衛の件だね。でも、君はメルを守り抜けるのか?」

 これは『無理』と答えれば護衛を受けずに済むと思った。ただ、ここで断るとメルローズはガレリアへ向かう事ができず、ガレリア学園に入学できなくなると思った。貴族子女にとって学園入学と卒業は、今後の人生を左右するはずなので、それはあまりにも可哀想過ぎるよね。なので俺は嘘をつかずに返事をする。

「やれるとは言いきれません。どんなに簡単と思われる依頼でも、失敗する可能性があるのです」
「君は決して嘘をつかない真っ直ぐな男なんだね。フォードのような真っ直ぐな目だね。今日は本当に懐かしい気持ちにさせてくれる日だよ。どうかメルの護衛を受けてくれないだろうか?」
「僕達で良ければ喜んでお受け致します」

 その後は、担当者にコスター男爵からの指名依頼を作成してもらい、メルローズをガレリア学園まで護衛する事となった。

「ウォード君、これが我が家の地図だ。明後日の朝に来て欲しい」
「判りました。では、これで失礼します」

 俺は男爵とメルローズに挨拶して帰ろうとすると、メルローズに声をかけられる。

「ウォード様、ガレリア学園までの護衛よろしくお願いしますね」

 眩しほどの笑顔ですり寄ってくると、パミュルが咄嗟に間に入って、それに負けない笑顔で返事をした。

「お任せください。私達4人が必ずガレリア学園までお届けします」
「そ、そう、よろしく頼むわね」

 2人の笑顔がぶつかって、『バチバチ』なるのではないかと思えた……

(これは護衛の時に衝突は避けられないかな?)

 部屋へ戻ると、パミュルにコスター男爵の事を知ってるのか聞いた。

「フォスターの親友だったのよ。結婚式の時に色々とサプライズをしてくれたのよ」
「よく表情に出さずに対応できたね?」
「ふふっ、女はね、あの程度の嘘なら簡単につけるわよ」
「そ、そうなんだね。ハリエットもそうなの?」
「私は無理かなぁ~」
「ふふっ、女としての経験値の差よ」

 女って怖いと思った瞬間だった……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...