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第2部 同棲編

143 結納

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12月の最初の週に美月と心の親と兄弟が集まり結納が行われた。

結納といっても、もう形だけのものである。
ホテルで会食して指輪を御披露目する程度のもので顔合わせの要素がほぼしめている。

それでも顔合わせではなく結納にこだわるのは心の気持ちだった。

今まで大事に育ててくれた美月の両親への気持ちを表したかったのだ。

「お父さん、なんかこのホテルすごく敷居が高いね。」
と父親に話をしている美月の兄の隆志。

「だよなあ。俺もそう思ってた。」と隼人。

「やっぱり藤田グループの跡取り息子って本当の話だったんですね。」と兄のお嫁さんの春菜。

生まれて2ヶ月の赤ちゃんと一緒にきてくれた。

フ、ェーン

「あら隆秋も緊張してるみたい。」と由美が初孫を抱っこしながら言う。

「かわいいな。隆志も美月もこんな感じだったよな。」と初孫にメロメロの隼人が目を細める。

「ほんと、赤ちゃんの時間ってあっという間にすぎちゃうから大切にしなきゃね」と由美も可愛くて仕方のない様子だ。

当の本人はホテルの一室で着付けをしてもらっていた。

「あ、心さんがいるな。」

ホテルの奥から心が後ろに両親と恵と高瀬を連れてやってきた。

ロビーの前でどこに行こうかと思っていた隼人たちは心を見つけてほっとする。

「隼人さん。今日はありがとうございます。」

「あ、いや、なかなか縁のない場所だから緊張するな。」と隼人。

「いつも通りでお願いします。」と心が笑って言う。

「うん。」

「あ、隼人さんうちの両親です。母親はカフェで会いましたっけ?」

「ああ。お母さんとは。どうも。はじめまして。星原です。」

「こんにちは。はじめまして。藤田です。」

父がお互いに挨拶をしている。

母親や姉や兄たちもお互いに挨拶をしていた。

「えーと、立ち話もなんですし、部屋へ行きましょうか。」

心が案内した。


結納が行われるのはホテルでも一番格式の高い日本料理のお店だった。

日本庭園が見物の落ち着いた場所だ。


「どうぞ。」案内されるのは広い畳の和室。20畳ほどあるのか。

「こちらへ」と仲居さんがそれぞれの座る位置を教えてくれて、落ち着いた頃、カコーンとししおどしの音が響き渡る。

静寂な中に響き渡る音、みんなの気持ちも緊張に達した。

そのとき、美月が仲居さんに連れられやってきた。
ワンピースを着ようと思っていたけれど、やっぱり結納だから着物を着ようかなと美月が言うのでその通りにした。準備に二時間前にやってきただけのことはある。京都で見た舞妓姿も良かったが、この着物姿もとても可愛く目に写った。


「まあ!」

「かわいい!」

両家の母親が喜んで褒め称える。

「あはは。ありがとうございます。」

美月の振り袖は、成人式のときに着た赤い着物だった。

いつもは一つに結んでいるが今日は髪もセットしてもらったのでうなじが見えて心も見とれてしまう。

心は美月の手をひいて両家の真ん中の下座にたった。


「今日は私と美月の結納にお越しいただきありがとうございます。若輩者の二人ですので今後ともご指導よろしくお願いします。」

そう言い心が頭をさげた。

美月もあわててペコリと頭を下げた。

「もちろんだとも。」と岳。

「ああ。いつまでも見守らせてくれ。」と隼人。

「ええ。」

「そうですよ。」

皆が口々におめでとうと言う。

「一応これ指輪です。」

と二人で手を見せる。

美月の指には心が贈ったハリー・ウィントンの婚約指輪と渋谷でおそろいで買ったペアリングが光る。

気に入って買った指輪だったので、結婚指輪はこのペアリングでいいんじゃないかと言ったのは美月だった。

みんなが拍手する。

照れくさそうに心と美月が立つ姿に誰もが喜んだ。それぞれの胸にそれぞれの思いが去来する。小さかった頃、思春期のころ、反抗期のころ、もちろんいい思い出ばかりじゃない。辛い日々や悲しい日々があってこそ、今が輝いているのだろう。

「出会いからですが、これが形にこだわらない私たちの結納です。堅苦しいのは苦手なので、料理など楽しんで両家の語らいの場にしてください。」

心と美月が一緒に頭を下げた。




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