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「こりゃあすげーな……」
いつの間にかタバコを消し、立ち上がって辺りを見回す匠が呟く。
「僕達、凄い場所に立ち会ったみたいだね……龍神様の時もあり得ない経験だったけど、これは……」
壬生さんもこちらに来て感想を口にする。
その感想には大いに賛成だった。俺も妖怪達に関わってこれまで、人間の常識外の経験を沢山してきたが、これはまた別種のものだ。この世にこんなに綺麗な光景があるだなんて。
どうにも俺達人間組だけが呆気に取られて、取り残されてる気分だ。
「……はは、あれ見ろよ。あいつ踊ってやがる」
と匠が指差す先には、魍魎達の後ろで盆踊りのような動きをしている康平の姿が。
「康平君の適応力は凄まじいね。魍魎達も何人か真似してるよ」
壬生さんも匠も苦笑しながら見ている。確かにその通り、いつの間にか康平の周りに数匹の魍魎が集まって動きを真似している。
……と、俺達の視線に気づいたのか康平が動きを止め、片手を上げて手前に振る。
どうにもこっちに来いと言っているようだ。
「ほらほら、皆さんも一緒に踊りましょ?」
「天狗ちゃん? ……って、その羽根どうした?」
近づいてこちらを誘う天狗ちゃんの羽根が、何故か青く光稲光のような筋が走っている。
「妖怪達の妖力や山の力が活性化するんです。舞の夜は。だからたくさん動いて笑って、発散しないといけないんです!」
「そういうもんなの?」
「ええ。ほら」
と翼を大きく広げるとそれぞれの羽根から光が迸り、太鼓のような音が響いて思わずビクリと頭を下げる。
「ふふふ」
「わざとだな天狗ちゃん!」
「不可抗力ですよ不可抗力。ほらほら、今夜は長いんですから!」
笑顔の天狗ちゃんに手を引かれ、広場の中央へと連れられる。見れば玉藻ちゃんも飛び跳ねながら転げ回り、小三郎は草笛を作って吹いている。
おっさんじーさんコンビも酒を片手にヘンテコな踊りをし、響は自分の特性を使っているのだろう。高さの違う幾つかの声でハーモニーを奏でる歌を歌う。
天狗ちゃんもクルクルと踊り始め、時折翼を広げて太鼓のような音で合いの手を入れる。
「こりゃあ確かに祭りだ」
そう小さく呟き、俺も音に合わせて適当に動き始める。
踊りなんて小学生の時以来だ。ダンスなんかやった事無いし。
恥ずかしく思いながらぎこちなく体を動かすも、やっぱり音に合わせらない。俺にはできないか。
「いいじゃないですか土井さん! ほら、もっともっと!」
そんな不甲斐ない俺だが天狗ちゃんには違って見えたようだ。本音か気を遣っているのか分からないが、嬉しそうに笑いかける。
気付けば匠も壬生さんも輪に加わっており、康平や妖怪達と踊っている。
壬生さんの動きは見事なもので、ダンスの経験でもあるのか堂々と激しい踊りを見せていた。
匠はおれと変わらないが、下手クソながらも何とか体を動かしている。
「てめえ! 下手クソとか思ったろ!」
「思ったけど言ってねーよ!」
「思ってんじゃねーか! おらお前も見せろ下手クソ!」
「うっせえ!」
匠の文句に俺も応じ、どこかで見たミュージックビデオを思い浮かべながら適当に踊り始める。
「ほら見ろ下手クソ!」
「黙れ下手クソ!」
「もうっ! 喧嘩しないでくださいよ!」
離れた位置で言い合う俺達に、天狗ちゃんが困ったように諫める。
だが、いつの間にか笑っていた。匠も、康平も、壬生さんも。
主役の木花もより激しく踊り舞う。
ふと、木花と視線が合ったような気がした。
そして笑いかけられたような、そんな柔らかな空気を感じた。
少し気恥ずかしくなり視線を落とすと、何故か魍魎達が全員こちらを睨んで動きを止めている。
「な……なんだよ」
先程まであれ程楽し気な雰囲気だったのに、異様な空気感に冷や汗が出そうだ。
ひとしきり俺を睨んでいた魍魎達だが、不意にその視線の拘束が解けて再び踊り始める。
背筋に流れる嫌な汗を感じながら、何だったんだと先程の光景を思い浮かべる。
なんか……ちょっと怒ってなかったか?
魍魎達は基本的に感情はよく分からない。子供のように無邪気に見えるが、それが全てでは無いような気もしている。
天狗ちゃんに尋ねてみようかと思ったが黒翼の少女の姿が無い……って、飛んでるのか。空から響く雷鳴のような音を聞き見上げると、青白い光を纏った白装束の少女が飛び回っている。
喉に小骨が引っ掛かったような気分であるが、あまり気にしていても仕方ない。
今宵は楽しい夜だ。さすがに一晩丸々は体力が保たなそうだが、目一杯踊ってみよう。
ここに居るのは見知った仲間、皆自由に、何にも縛られる事無くそれぞれが楽しんでいる。
光が浮き上がる幻想的な景色の中、俺達はひたすらに踊り歌い、この時間を楽しんだ。
いつの間にかタバコを消し、立ち上がって辺りを見回す匠が呟く。
「僕達、凄い場所に立ち会ったみたいだね……龍神様の時もあり得ない経験だったけど、これは……」
壬生さんもこちらに来て感想を口にする。
その感想には大いに賛成だった。俺も妖怪達に関わってこれまで、人間の常識外の経験を沢山してきたが、これはまた別種のものだ。この世にこんなに綺麗な光景があるだなんて。
どうにも俺達人間組だけが呆気に取られて、取り残されてる気分だ。
「……はは、あれ見ろよ。あいつ踊ってやがる」
と匠が指差す先には、魍魎達の後ろで盆踊りのような動きをしている康平の姿が。
「康平君の適応力は凄まじいね。魍魎達も何人か真似してるよ」
壬生さんも匠も苦笑しながら見ている。確かにその通り、いつの間にか康平の周りに数匹の魍魎が集まって動きを真似している。
……と、俺達の視線に気づいたのか康平が動きを止め、片手を上げて手前に振る。
どうにもこっちに来いと言っているようだ。
「ほらほら、皆さんも一緒に踊りましょ?」
「天狗ちゃん? ……って、その羽根どうした?」
近づいてこちらを誘う天狗ちゃんの羽根が、何故か青く光稲光のような筋が走っている。
「妖怪達の妖力や山の力が活性化するんです。舞の夜は。だからたくさん動いて笑って、発散しないといけないんです!」
「そういうもんなの?」
「ええ。ほら」
と翼を大きく広げるとそれぞれの羽根から光が迸り、太鼓のような音が響いて思わずビクリと頭を下げる。
「ふふふ」
「わざとだな天狗ちゃん!」
「不可抗力ですよ不可抗力。ほらほら、今夜は長いんですから!」
笑顔の天狗ちゃんに手を引かれ、広場の中央へと連れられる。見れば玉藻ちゃんも飛び跳ねながら転げ回り、小三郎は草笛を作って吹いている。
おっさんじーさんコンビも酒を片手にヘンテコな踊りをし、響は自分の特性を使っているのだろう。高さの違う幾つかの声でハーモニーを奏でる歌を歌う。
天狗ちゃんもクルクルと踊り始め、時折翼を広げて太鼓のような音で合いの手を入れる。
「こりゃあ確かに祭りだ」
そう小さく呟き、俺も音に合わせて適当に動き始める。
踊りなんて小学生の時以来だ。ダンスなんかやった事無いし。
恥ずかしく思いながらぎこちなく体を動かすも、やっぱり音に合わせらない。俺にはできないか。
「いいじゃないですか土井さん! ほら、もっともっと!」
そんな不甲斐ない俺だが天狗ちゃんには違って見えたようだ。本音か気を遣っているのか分からないが、嬉しそうに笑いかける。
気付けば匠も壬生さんも輪に加わっており、康平や妖怪達と踊っている。
壬生さんの動きは見事なもので、ダンスの経験でもあるのか堂々と激しい踊りを見せていた。
匠はおれと変わらないが、下手クソながらも何とか体を動かしている。
「てめえ! 下手クソとか思ったろ!」
「思ったけど言ってねーよ!」
「思ってんじゃねーか! おらお前も見せろ下手クソ!」
「うっせえ!」
匠の文句に俺も応じ、どこかで見たミュージックビデオを思い浮かべながら適当に踊り始める。
「ほら見ろ下手クソ!」
「黙れ下手クソ!」
「もうっ! 喧嘩しないでくださいよ!」
離れた位置で言い合う俺達に、天狗ちゃんが困ったように諫める。
だが、いつの間にか笑っていた。匠も、康平も、壬生さんも。
主役の木花もより激しく踊り舞う。
ふと、木花と視線が合ったような気がした。
そして笑いかけられたような、そんな柔らかな空気を感じた。
少し気恥ずかしくなり視線を落とすと、何故か魍魎達が全員こちらを睨んで動きを止めている。
「な……なんだよ」
先程まであれ程楽し気な雰囲気だったのに、異様な空気感に冷や汗が出そうだ。
ひとしきり俺を睨んでいた魍魎達だが、不意にその視線の拘束が解けて再び踊り始める。
背筋に流れる嫌な汗を感じながら、何だったんだと先程の光景を思い浮かべる。
なんか……ちょっと怒ってなかったか?
魍魎達は基本的に感情はよく分からない。子供のように無邪気に見えるが、それが全てでは無いような気もしている。
天狗ちゃんに尋ねてみようかと思ったが黒翼の少女の姿が無い……って、飛んでるのか。空から響く雷鳴のような音を聞き見上げると、青白い光を纏った白装束の少女が飛び回っている。
喉に小骨が引っ掛かったような気分であるが、あまり気にしていても仕方ない。
今宵は楽しい夜だ。さすがに一晩丸々は体力が保たなそうだが、目一杯踊ってみよう。
ここに居るのは見知った仲間、皆自由に、何にも縛られる事無くそれぞれが楽しんでいる。
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