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「康平、とりあえず掘ってみたけどどう?」
「うん、いいんじゃないッスか? 俺も感覚的な部分になるんで自信無いッスけど」
掘り終えた溝を見ながら尋ねると何とも曖昧な答えが返ってくる。
まあ水道屋じゃないんで、と苦笑するのでそれもそうかと思い直す。
「じゃあ早速水を流して……」
「待った! このまま水流すと土を削っちゃうんで駄目ッス! 下が土砂だらけになっちゃいまスよ」
「そうなの?」
「そうッス。水の力舐めちゃいけないッスよ」
「それに護岸の必要もあるかな。水を吸ったら簡単に崩れちゃうよ」
後ろを着いてきていた壬生さんも会話に混じる。
今日は匠を除いた三人で来ているのだ。匠は現在里帰り中である。
それにしてもゴガン? とは何の事だろうか。
「まさかリョースケ君、これで完成だと思ってたんスか」
「いや、まあ……なんか石入れたりとかはした方が風情はあるよな?」
首を傾げていた俺を見て、康平が半目になりながら大きく溜息。
「あのねえ、リョースケ君。溝の縁……端っこの所思いっきり踏んでみてよ」
「やだよ、崩れるだろ」
穴掘りをしている時踏み抜いて、崩れて溝に落ちたのは何度か経験済みだ。その度に転げ落ちて泥だらけになっていた。
「それッスよ。お客さんが踏んだら危ないっしょ?」
そりゃそうだと納得する。なるべく早く作業が終わればと思い、これでほぼ完成だと勝手に考えていた。
「でもよ、そうなるとどうしたらいいんだ?」
「ある程度の川なら堤防を作るよね。ほら、店の近くの川みたいに」
「ああ―……でもあんな広くないですし」
「俺の考えッスけど、型枠組んでコンクリ流して固める方が崩れる心配はしなくていいッスね」
「うーむ……」
コンクリートを川沿いに流すのは少しばかり抵抗があった。
「底の部分からU字になるように固めちゃえば、水路としてはバッチリッスね!」
「……なんかさ、それだと風情が無いと言うか……なんかドブ川みたいに見えない?」
「流れる水が綺麗ならドブじゃないっしょ」
「えー……」
言っている事は分かるしそれが確実なのも分かる。しかし、心の中では納得できていなかった。折角この綺麗な自然の中にあるので、不愛想なものにはしたくないという拒否感があるのだ。
「まあ、涼介君の言いたい事も分かるけどね。理想の川の像があるんじゃない?」
「あ、そうです! 俺的には、自然に出来たような感じにしたいというか……」
流石は壬生さん、助け舟を出してくれたので遠慮なくそれに乗る。
「ユンボで掘った時点で自然の川じゃないッスよリョースケ君。我儘っつーかなんつーか……」
「でも道端の排水溝みたいな感じにはしたくないんだよ。できればさ」
「分かったッス分かったッス! ちょっと考えましょ」
鬱陶しそうに腕を振り、そして考え込む表情を浮かべる康平。壬生さんを見ると苦笑いしている。
「……よし、それじゃあ川底はなるべく思い岩や石を詰めていきましょ。水で流されないようにガッシリ組んで」
「おお、急にやる気」
「俺だって言いたい事は分かるッスよ」
そう言いながら木の枝を広い、図を描き始める。
「こんな感じで下流側から敷き詰めていって、カッチリ動かないように組むのはどうっスか?」
「うん、下から上に向かえば確かに動かないかもね」
「岩関係なら今まで穴掘りした時に出てきた石が山ほど転がってるんで。磐裂に頼んで魍魎達に手伝ってもらえばきっと難しくないかも」
「よし、川底はクリア。あとは……」
「護岸ッスね。こっちも石組みしようとしたら膨大な量が必要になるッス」
「だよねえ……廃材になってる木を丸太にしてさ、こうやって杭を打っていけば?」
今度は壬生さんが地面に図を描く。横向きの長い木の所々に、細い棒を縦に記していく。
「これも結構大変だと思うッスよ。川幅狭くなっちゃうからもっと広げる必要あるし、木はいずれ腐るんで」
「ダメか」
「やってもいいけど定期的に直してく必要はあるッスね。水流した後だと手間じゃないッスか?」
「そこはさ、上流の泉に水門を作ろうよ。メンテしたり掃除したりするのに水止めなきゃいけないし」
「止めても水が溢れるッスよ?」
「パイプでバイパスを作る。どの道洗い場やトイレ、管理棟の為にこの水使うんでしょ? 上から下まで繋いじゃおうよ」
「……」
康平と壬生さんの間で交わされる会話にまるでついていけない。そもそも二人の言っている事が理解できなかった。
「そッスね……それでいきましょうか。でも護岸は?」
「うーん……土固めただけじゃ全然弱いからねえ」
「土、コンクリ、石、木……後は、川とかで思い浮かぶのは植物の根を利用して固めるのはあるよね。堤防とか」
「おお、それは思いつかなかったッス。でも、即効性はないッスよねえ」
うーむ、と二人で唸り始めるので軽く手を叩く。
「とりあえずは今日できる事やりませんか? 今の話だと今日の作業は」
「まずはパイプ用の穴を掘らなきゃね」
「あとは泉も拡張しておきたいッスね。もう少し深く掘らないと駄目な気するッス」
「小川の方は石敷きは始めても大丈夫か?」
「そっちは始めてオッケーッス!」
「よし、それじゃあ俺は磐裂達と石敷きの作業、壬生さんと康平は穴掘りの方担当してもらってもいい?」
「了解ッス」
「いいよ。あ、でも石敷きの方、スタートは三人でやろっか。やり方を考えた方が良いと思うし」
「助かります……!」
確かにいきなり俺一人でやるのには不安がある。その点、土木の経験者である二人の考えが聞ければ心強い事この上ない。
「うん、いいんじゃないッスか? 俺も感覚的な部分になるんで自信無いッスけど」
掘り終えた溝を見ながら尋ねると何とも曖昧な答えが返ってくる。
まあ水道屋じゃないんで、と苦笑するのでそれもそうかと思い直す。
「じゃあ早速水を流して……」
「待った! このまま水流すと土を削っちゃうんで駄目ッス! 下が土砂だらけになっちゃいまスよ」
「そうなの?」
「そうッス。水の力舐めちゃいけないッスよ」
「それに護岸の必要もあるかな。水を吸ったら簡単に崩れちゃうよ」
後ろを着いてきていた壬生さんも会話に混じる。
今日は匠を除いた三人で来ているのだ。匠は現在里帰り中である。
それにしてもゴガン? とは何の事だろうか。
「まさかリョースケ君、これで完成だと思ってたんスか」
「いや、まあ……なんか石入れたりとかはした方が風情はあるよな?」
首を傾げていた俺を見て、康平が半目になりながら大きく溜息。
「あのねえ、リョースケ君。溝の縁……端っこの所思いっきり踏んでみてよ」
「やだよ、崩れるだろ」
穴掘りをしている時踏み抜いて、崩れて溝に落ちたのは何度か経験済みだ。その度に転げ落ちて泥だらけになっていた。
「それッスよ。お客さんが踏んだら危ないっしょ?」
そりゃそうだと納得する。なるべく早く作業が終わればと思い、これでほぼ完成だと勝手に考えていた。
「でもよ、そうなるとどうしたらいいんだ?」
「ある程度の川なら堤防を作るよね。ほら、店の近くの川みたいに」
「ああ―……でもあんな広くないですし」
「俺の考えッスけど、型枠組んでコンクリ流して固める方が崩れる心配はしなくていいッスね」
「うーむ……」
コンクリートを川沿いに流すのは少しばかり抵抗があった。
「底の部分からU字になるように固めちゃえば、水路としてはバッチリッスね!」
「……なんかさ、それだと風情が無いと言うか……なんかドブ川みたいに見えない?」
「流れる水が綺麗ならドブじゃないっしょ」
「えー……」
言っている事は分かるしそれが確実なのも分かる。しかし、心の中では納得できていなかった。折角この綺麗な自然の中にあるので、不愛想なものにはしたくないという拒否感があるのだ。
「まあ、涼介君の言いたい事も分かるけどね。理想の川の像があるんじゃない?」
「あ、そうです! 俺的には、自然に出来たような感じにしたいというか……」
流石は壬生さん、助け舟を出してくれたので遠慮なくそれに乗る。
「ユンボで掘った時点で自然の川じゃないッスよリョースケ君。我儘っつーかなんつーか……」
「でも道端の排水溝みたいな感じにはしたくないんだよ。できればさ」
「分かったッス分かったッス! ちょっと考えましょ」
鬱陶しそうに腕を振り、そして考え込む表情を浮かべる康平。壬生さんを見ると苦笑いしている。
「……よし、それじゃあ川底はなるべく思い岩や石を詰めていきましょ。水で流されないようにガッシリ組んで」
「おお、急にやる気」
「俺だって言いたい事は分かるッスよ」
そう言いながら木の枝を広い、図を描き始める。
「こんな感じで下流側から敷き詰めていって、カッチリ動かないように組むのはどうっスか?」
「うん、下から上に向かえば確かに動かないかもね」
「岩関係なら今まで穴掘りした時に出てきた石が山ほど転がってるんで。磐裂に頼んで魍魎達に手伝ってもらえばきっと難しくないかも」
「よし、川底はクリア。あとは……」
「護岸ッスね。こっちも石組みしようとしたら膨大な量が必要になるッス」
「だよねえ……廃材になってる木を丸太にしてさ、こうやって杭を打っていけば?」
今度は壬生さんが地面に図を描く。横向きの長い木の所々に、細い棒を縦に記していく。
「これも結構大変だと思うッスよ。川幅狭くなっちゃうからもっと広げる必要あるし、木はいずれ腐るんで」
「ダメか」
「やってもいいけど定期的に直してく必要はあるッスね。水流した後だと手間じゃないッスか?」
「そこはさ、上流の泉に水門を作ろうよ。メンテしたり掃除したりするのに水止めなきゃいけないし」
「止めても水が溢れるッスよ?」
「パイプでバイパスを作る。どの道洗い場やトイレ、管理棟の為にこの水使うんでしょ? 上から下まで繋いじゃおうよ」
「……」
康平と壬生さんの間で交わされる会話にまるでついていけない。そもそも二人の言っている事が理解できなかった。
「そッスね……それでいきましょうか。でも護岸は?」
「うーん……土固めただけじゃ全然弱いからねえ」
「土、コンクリ、石、木……後は、川とかで思い浮かぶのは植物の根を利用して固めるのはあるよね。堤防とか」
「おお、それは思いつかなかったッス。でも、即効性はないッスよねえ」
うーむ、と二人で唸り始めるので軽く手を叩く。
「とりあえずは今日できる事やりませんか? 今の話だと今日の作業は」
「まずはパイプ用の穴を掘らなきゃね」
「あとは泉も拡張しておきたいッスね。もう少し深く掘らないと駄目な気するッス」
「小川の方は石敷きは始めても大丈夫か?」
「そっちは始めてオッケーッス!」
「よし、それじゃあ俺は磐裂達と石敷きの作業、壬生さんと康平は穴掘りの方担当してもらってもいい?」
「了解ッス」
「いいよ。あ、でも石敷きの方、スタートは三人でやろっか。やり方を考えた方が良いと思うし」
「助かります……!」
確かにいきなり俺一人でやるのには不安がある。その点、土木の経験者である二人の考えが聞ければ心強い事この上ない。
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